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8.波乱の予感
・・・・・・
ピピピピ♪ピピピピ♪
カチッ
目覚ましを止めて部屋のカーテン越しに陽の光が漏れる。
昨夜はあのままでいても仕方なく部屋をいくつか確認して風呂にだけ入り就寝しようとしたが考えすぎてあまり眠れずにいた。
この部屋は2LDKの広さで風呂も足が伸ばせるほどだ。
リビングには新しく高そうな服がいくつか置いてある。
「そういえば俺の服が見当たらない・・・これ、着ていいのか?」
しかし確認したところアパートからの荷物には持っていた数少ない服は入っていなかった。
戸惑いながらも仕方なく袖を通すとやはりサイズはピッタリだ。
高級そうな着心地に戸惑いながら鏡をみる
(絶対に返す!)
そして重い身体を動かして大学へ向かう支度をする。こんな時に大学、とは思うが逆に家を出る理由としてちょうどよくまずは外に出ることを考えたためだ、外に出たとしても大学内なら安全な気がした。
いざマンションの部屋を出て閉じようするところで大事なことを思い出す…鍵を持っていない、昨日は一方的な説明はされたが鍵は渡されなかった。
試しに一度扉を閉じて数分してから再び開けようとしたらオートロックがかかりきちんと閉まっていた。
とりあえず安心して大学へと向かう。
準備がいいのか渡された携帯には大学までの道のりが既に登録されておりありがたいことに道に迷わずにすんだ。
無事に到着したがここまで来るのに既にこちらの考えが見透かされてるかの様な気がして安心しきれず始まる前から深い溜息を吐きつつ講義へと向かう。
チク…チク…
講義が眠い…時計の音が更に眠気を誘う。
疲れた身体に容赦なく呪文のような講師の話が流れ込む。
「はぁ・・・」
大学に必要なものと最低限のものは持ってきた。最悪、帰らずにすめばと考え。
未だ解決策は見つからず、昨日の今日でバイト先にもどんな反応をされるか不安を抱きながら早めに向かいオーナーに話そうとするが体調を気に掛けられはしたが昨日のことには深く追求されなかった。怖いくらいにいつも通り。
頭が働かない状態だと悪い方向にばかり考えてしまい少しだけ仮眠を取ってから制服に着替える。
思っていたよりもギリギリまで寝てしまい急いで制服のヨレを整えホールへ。
いくらか動きやすくなり仕事を始めると一番に来たお客様に声をかけられた。
「あ、清君久しぶりだね!」
「鷹宮様。お久しぶりです。本日も御来店ありがとうございます。」
鷹宮様は俺が新人の頃からのお客様でたまにしかお店に来れないが見た目は若く紳士的でボーイにも気さくに接してくれるため従業員やキャストからも人気な方だ。
自分も新人の頃ミスをするたびに嫌な顔せず慣れるまで担当指名をして仕事に慣れさせようとしてくれた。
「久しぶりに来たら清君がいるなんて嬉しいなぁ」
「私もお会いできて大変嬉しく思います。」
確かに以前あったのは半年くらい前だった気がする。久々に会う鷹宮様は相変わらず親しみやすい。
「おや?」
鷹宮様はそう言うと俺の顔を覗き込む。
「これは驚いた!とても綺麗な瞳だね!」
「え・・」
なにかと首を傾げるとコンタクトがズレて実際の瞳の色が見えてしまっていたらしい。
慌てて俯き視界を遮る様に顔の前に掌を出す。
だが鷹宮様は遮る様にこれでもかと近づき両頬を包む様に触れて目を合わせようとしてくる。
「む・・・た・・鷹宮様!?」
「ごめんよ。困らせるつもりはなかったんだ。君はそのままで十分素敵だと思うよ。」
優しく微笑みながら言ってくれた。
それだけ言うと両頬を包む手が緩みすぐ視線を逸らす。
ついでに頬もふにふにと揉まれながら…
鷹宮様の優しさはいつも申し訳ないほどありがたい。
なんとか開放してもらい軽く会話をしているとと次の瞬間身体が宙に浮き担がれる。
視界が変わりよく知るピリっとした酔う様な香りでそれが誰なのが理解してしまう。
それと同時に聞きなれた声が耳に入る…
「悪いがこいつはこの店を辞める。」
「な・・・なんですかあなたは?」
ドスの効いた声で言い放つと鷹宮様が声をかけたことも気に留めずそのまま店を出ようとした。自分はあまりに驚きこぼすように口を開く。
「なんで・・・!?」
下ろして欲しいと行動で伝えようとするが支える腕はもちろんビクともしない。
「大人しくしてろ」
それはいつもより威圧的で冷たい声をしていた。背筋に悪寒を感じた。
それはもう身体が強張ってしまうほどに…
すれ違う人は何事かと戸惑っているが間に入れるような空気でなく。
結局そのままの状態で外に連れられる。
黒光する高級車の中に押し込まれ逃げる勇気もなくされるがまま。
移動中の車内では沈黙が続き、それと反して御縁様は逃さないようにか俺を掴みずっと離さない…
マンションに着くと運転していた人が深く頭を下げながらこちらを見送る。
無言の時間。部屋まで歩みを進める揺れだけを感じてなんども息を呑む。
車から降りた後から再びかつがれた状態が続く
背中には重い空気がのしかかり、もはや顔を見ることさえ恐ろしく扉の音を響かせ室内に入るまだ降ろされないと困惑していつのまにかリビングを超え勢いよく柔らかいものに落とされた。
周りを見ればそこは部屋の寝室だった。
表情は強張り、恐怖で心拍数が上がるのがわかる。
沈黙と共に耳に響く自分の心臓の音が今はうるさく思ってしまうほどに。
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