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13.真田香
ガチャッ!
扉の開く音に気付き目を覚ます。
まだ開ききっていない視界を扉の方に移すとスーツを着た金髪の男性が立っていた。
その人はこちらの様子を見ると整った顔立ちをくしゃりと崩してこちらに笑いかける。
「どーも!体調はどうかな?」
「・・・ぁ・・は・・ぃ」
俺はヒリヒリと痛む喉でかすれ、声を発することも難しい。
ここで今になって本当に熱が出ていたことに気づく。
それでも初対面の方に失礼がないように状態だけでも起こそうとしてもぼやける視界と沈んでしまいそうな身体の重みに思うように動けない。
「あぁ無理しなくていいよ。僕は諒から言われて君のお世話をしに来ました。真田香(さなだこう)よろしくー。」
涼とは御縁さんのことだろうことは中に入ってきた時点で予想していた。
そんなもがいているような様子の俺に相手も慌てて説明する。
初めは軽い人が来たという印象だったが顔にピントが合い始めると見たことがある顔だった。
(あ、前に御縁とお店に来てくれた人だ)
真田さんと名乗るその人は音を立てないように部屋に入ってくるとベッドサイドに来て俺の身体を支え手際よく枕を重ね整え上半身を寄りかからせるように態勢を直してくれた。
そして低い俺の目線に合わせて声をかけてくれる。
都内の街中にも普通にいるような綺麗な決して危険な仕事関係の人とは思わせないような笑みを向けて。
「久しぶりだね!覚えてるかな?」
首を傾げながら聞かれたが答えられる状態ではなかったため軽くコクリと頷いて反応を返す。
「あぁ病人なのにごめんね・・・薬とかも買ってきたから何か食べて飲んでね!」
そういううとガサガサとビニール袋の音から買ってきてくれたのであろうものをサイドテーブルに出していく。
「はいお水!ゼリーなら食べれそう?」
再び頷き返答をする。
できたら喉の痛みと乾きが辛いので水を飲みたい気持ちのため水を取ろうとゴソゴソと布団の中で腕を動かす、だがうまく動かせない。
どうすればいいだろうかと悩んでいると。
真田さんはすぐさま水のボトルを手に取り蓋を開けて親切にもストローまで挿して俺の頭を少し支えながらストローの口を唇に近づけてくれた。流れるようなその動きに自分でやるとも言えずされるがまま甘えてしまっていた。
水分を取ったことで少し口の中が潤いすぐさま真田さんにお礼を言った。
「ぁ・・ありがとう・・ございます。」
それに対して真田さんは言葉は返さずにただニコリと微笑んで反応し無理に話さなくて良いと言うように自身の唇に人差し指を当てて制してくれた。
水のボトルはサイドテーブルに戻されそのまま続くようにゼリーも丁寧に口に運んでもらった。一口目は恥ずかしさと初対面にこんなことをさせてしまっていることに自分で食べようとしたが、そうするとゼリーを下げられ首を左右に振ってダメだと言っていることがこれでもかと伝わってきたため仕方なく差し出されるスプーンに口を開いてしまっている。
小さめのゼリーは1カップを無事に食べ終えた。
「よかった!じゃぁ薬用意するから。」
結局そのまま薬まで丁寧に飲ませてもらい、効いてきた頃には呼吸も安定して眠っていた。
目を覚ますと少し頭がすっきりしていて多少であれば動けるほどだった。身体を動かしてベッドから足を下ろして立ち上がろうとすると違和感が未だにある。
きっと風邪とは別の下半身の微かな痛みでそれに耐えてゆっくりとリビングに向かう・・・
ゆっくりと扉を開けて様子を伺う。
そこには洗い物をしている真田さんの姿があった。
「あ、起きたんだね!気分はどう?」
こちらに気付きそう言うとすぐさま手を拭きこちらへと歩み寄り俺の顔に触れて熱を確認する・・・「よかった。」
改めてはっきりとした意識で見ても微笑みながら言うその表情からは恐ろしい極道の印象なんて微塵も感じられなかった。
俺が話そうとするよりも先に真田さんは素早く俺をリビングのソファに促す。
だがソファに向かって歩く姿があまりにもぎこちなかったのか抱き上げて座らせてくれた。
「飲み物持ってくるから座ってていいよ。」
たった数歩先までも手を借りてしまったということに申し訳なさで自分のて両手のひらで顔を覆ってしまう。穴があったら入りたいと考えるほどだった。
「あ・・・ありがとうございます・・。」
(何歳だ俺・・・)
気にしていない様子で飲み物を取りに行って戻って来た真田さんとソファに腰掛けながら会話を試みた。
「あの・・・前にお店・・きてくださいましたよね?」
伺うように視線を向けて聞いてみた。
「覚えててくれてありがとう!」
やはり真田さんは親切そうな笑顔で答えその言葉に少しだけ緊張が解けた。
そして自身の用意した飲み物を一口含むと落ち着いたように話し出す。
「でもまさかこんなことになってたとはねぇ。」
「・・・?」
俺は首をかしげることしかできない。
「諒のやつね、俺には絶対に会わせないって言ってたんだよ。」
「はぁ・・・」
話の流れに理解が追いつかずとりあえず聞く側に徹していた。
「それが急に今朝清君の世話をしてやってくれって頼まれて___」
話しながら俺を覗くように見つめてくる。
「頼んできたくせにあんな感情剥き出しの諒は初めて見たよ。」
「?・・・・」
真田さんの言うことがあまり信じられなかった。
初めは確かに表情が読み取れなかったが最近は笑う場面も見るくらいだった。
俺が再び疑問を抱く表情に真田さんはすぐさま理解したように言った。
「その反応だと君の前では感情豊かなんだね。」
表情が豊かとは言いにくいかもしれないが。
「分かりやすい方・・・かなと・・」
「僕があった時にはもう周りに興味ないって感じで周りからも一目置かれてたんだ。笑いもしなければ怒りもしない・・・逆に怖いくらいだよね。」
「はぃ・・」
「僕は虎の穴を突くみたいな感覚でちょっかい出してたけど」
御縁さんの知らない一面を見れたような気がした。
それと同時に笑いながら冗談まじりに言っている真田さんに少し引いてしまっていたが。
「ただ・・・あいつ実は結構優しいやつなんだ。あいつのことを好きになれとは言わない・・・でも嫌わないでやってね。」
その顔は先ほどまでの笑顔とは又違った。
「君のことだけは何よりも大切みたいだからさ。」
きっとただの裏世界の関係者とかではなく親しい中なのだろうと何となく思う。
その時だけは自然な表情をして頭をな撫でていた。
一瞬その言葉に胸あたりが苦しくなったけど俺自身もよく分からない。
それから数日は毎日のように真田さんが様子を見にきてくれその度にたくさん話をするような仲になった。
熱が出た二日後には熱も下がり自分のことは自分でできると伝えたが真田さんはこの時間のおかげで普段の仕事から逃れているらしくこの時間をなくしたくはないと本当かはわからない理由を言っていた。
ちなみに真田さんが通ってくれていた間御縁さんとは顔を合わせていない。帰ってきていたのかも不明だ。
いきなり距離を置かれているように感じる。
体調も完全に回復し真田さんもそろそろ大丈夫そうだと仕事から逃げるのを諦めるように帰っていった。
(明日からは・・・大学、行かないと)
明日のことを考えているのに頭に浮かぶのは御縁さんのこと・・・そして昔のこと。
あの頃は・・ただただ家から逃げていた。
ある程度の時間にならないと家に父親がいて鉢合わせないようにしていたしいなくなるまでは母親にそう言われていた。でも公園に行けば大好きなお兄ちゃんが頭を撫でて怖くないように手を繋いでくれていた。伸びた前髪であまり顔は見えなかったがいつも何も気にせづ接してくれた。
(随分と雰囲気が変わったなぁ・・)
この眼と顔のせいで変質者にもあったが、その度に駆けつけて助けてくれた。
本当のお兄ちゃんみたいで僕のヒーローのような存在で憧れで大好きだった。
だからいつもお兄ちゃんだけには甘えていた。
今だって・・・結局は優しさに甘えているようなものだ。
(俺があんなこと言ったから・・・来ないのかな)
そう思うと自分で臨んだことなのに苦しくなってしまい。
夜も一人ベッドに入ると・・・あの温もりを知ってしまったからか眠れない日が続いた。
(会いたい・・・)
「!?」
目を見開きそう思った自分に驚いた。
そんな都合のいいことを考えるなんて・・・
(最低だ・・・俺)
大学に行けるようになっても寂しさは消えず上谷にも何度か声を掛けられたが何を話したかもあやふやだった。
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