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14.久しぶりの店
結局久しぶりに出た講義に身が入らないまま時間が過ぎてしまった。
外のベンチでコンビニのおにぎりを食べている最中携帯の着信が響く・・・
画面を見るとオーナーからだった。
実は最後に挨拶を伝えに行った時にまた働きたくなったら声をかけて欲しいからと連絡先を交換していた。
すぐさま電話に出る。
『もしもし、清君お久しぶりです。』
「オーナーご無沙汰しています。」
携帯から聞こえる声は少し戸惑っているようでなんだか声の後ろからバタバタと騒がしさを感じた。
『突然すみません。』
「いえ、とんでもないです。」
『清君…大変申し訳ないのですが今からお店に来られませんか?』
『あ、無理なら大丈夫ですので…もし時間があれば』
珍しく切羽詰まった様子のオーナー。
最後にたくさんお店の方にも迷惑をかけたのもあり断りにくかった。
そして俺自身、今はとりあえず気を紛らわしたい・・・
あの家に帰るとあの人がまた会いに来てくれるんじゃないかと期待してしまう。
今ならあの部屋から逃げ出すこともできるがきちんと話してからでないとと頭の中の自分に言い聞かせている。
帰りの車も夕方に来るとだけ言っていたしそれまでに戻れば問題ないだろうと思った。
「・・・わかりました。伺います。」
『本当ですか!ありがとうございます!』
「はい、では後ほど・・・」
『はい。気をつけてきてくださいね。』
結局顔を出してすぐに変えれば問題ないと承諾した。
(オーナーにはたくさん世話になったし必要としてくれるならそれに答えたい)
通話が切れた携帯の画面を眺めながら深く息を吐き出す。
働いていた時のことを思いだして少し落ち着く。
お店のみんなの顔が浮かび会うのが少し楽しみになった。
その後少しワクワクとした気持ちで店に着き久しぶりに重い扉を開いた。
すると・・・入店すぐに視界が暗くなる。
「わっ・・・・!?」
重く体重がかかる感覚と息苦しさそしてお酒の香り。
驚いてもがくと頭上から陽気な声がした。
「キヨくんダァ!!」
顔を上げるとそこには普段の紳士的な印象が崩れるほど酔っ払った鷹宮様がいた。
強く抱きしめられ胸板のスーツに顔が埋まる。
触れた感触でわかるほど上等そうなスーツ、とりあえず離れようともがくが酔った鷹宮様の力が強く振りほどけない。そしてさらに苦しく俺を抱き寄せる。
「キヨく〜ん♪会いたかったんだよ〜?相変わらず可愛いなぁ〜」
お客様に失礼な態度は取れずかといってこの状態の方は対応を間違えるとひどい時は怒り面倒なことになる。さらに鷹宮様はVIPルームも案内できる大事なお客様というのもあり周りのキャストやボーイは困り果てていた。
「鷹宮様落ち着いてください。清君も来てくれましたしお部屋に戻って休みましょう。」
誰も止められずにいたその場をすぐさまオーナーの一声が入り助けてくれた。
俺も状況を把握しすぐさまオーナーの言葉に続いてフォローに入る。
「鷹宮様俺もお会いできて嬉しいです。でもゆっくりお話ししたいので先に部屋でお休みになってください。」
その言葉に少し落ち着いたのか鷹宮様はやっと腕を緩めて少しだけ距離をとり俺の両手を優しく握る。
「そうだね〜せっかくキヨくんにも会えたし早く酔い冷ますね〜キヨくんも早く来てね〜」
「さぁ鷹宮さん、私たちと先に行きましょう。」
鷹宮様の両脇に周りにいたキャストとボーイがすぐさまフォローに入りうまく落ち着いてもらえた。
そのまま女の子たちがなんとか誘導して連れていってくれたおかげで場が落ち着いた。
とりあえず一安心と胸を撫で下ろす。
「ふぅ・・・」
「清君、急なお願いをしてしましすみませんでした。珍しく飲みすぎたようで清君に会いたいと聞かなくて・・・」
ふと、後ろからオーナーの声がかかり振り向いて顔を合わせる。
オーナーもさすがに今回は困っていたようで苦笑しながら俺に謝り事情を話してくれた。
聞くと、鷹宮様は普段そこまでお酒を召し上がらずどちらかといえばここのキャストたちと会話を楽しんでいる様子の方が多かったが今日は珍しく飲むペースも速くなんだかかなりお疲れの様子だったとのこと、そしてついには子供のようにぐずりだしかわいいものを愛で始めさらには俺に会いたいといいだし騒いでいたという。
・・・本当に人は見た目によらない。
「いえ、お役に立ててよかったです。」
驚いたが無事に事が済んでよかった。
「本当に助かりました。お礼に何か食べていかれますか?」
ことが収まりオーナーはよろしければと奥に案内しようと綺麗な動作で誘うが。
「・・・あ、いえ。今日はやっぱり帰ります。」
やっと落ち着いた店内で居座るのも仕事の邪魔になるとも思いすぐさま帰ろうとする。
「そうですか。残念ですが仕方ありません帰り道気をつけて下さい。」
優しい笑顔で見送られ店を出た。
思えば送迎なく外を歩くのは少し久しぶりなきがする・・・そして自然とマンションに帰ろうとしていた。
慣れとは怖いものでなんだかんだあの部屋が帰る家だと思い込んでしまっていた。
(・・・他に帰れる場所もないしな)
店を出てすぐひとまず大学までの迎えが来ることにもなっているので大学に向かって歩き出した。帰り道は結局、御縁さんの事を考えていた・・・
(りょう・・・お兄ちゃん)
「り・・りょう。」
結局あの時言えなかった言葉。
次会えたら呼べるだろうかと淡い期待を抱いた。
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