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17.後悔
幼児虐待の表現が出てきます。苦手な方はお控えください。
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いつもと同じようにその日も公園に寄り清を待つ。
だがその日は何時間待っても清は現れなかった……。
複数人で遊んでいたガキどもも周りも気にせず大声で高笑いをする女子学生も少しづつ帰っていく。そして静まり返った公園のベンチに残るのは俺だけ。
「……今日は来ないか。」
一日二日来ないことは何度かあったし会えた時の喜びがその分増すため寂しさを感じはするがそこまで気にすることはなかった。
帰り道、次は何を教えてやろう何をすれば喜ぶか。頭はそんなことをひたすら考えている。
だが………五日経っても清は公園には現れなかった。
さすがに何かあったのだろうかと頭が落ち着かずじっとしていられなかった。近所をまわり迷子になってはいないかとかすかな望みで探した……だがやはりいない。
公園の近所の人に無理やり会話に割り込み話を聞いてみても情報は少なく清の存在を知る人はほとんどいなかった。いても『いつも一人で遊んでる子ね、さぁどこの子だか知らないわねぇ』と家までは知らなかった。近所の連中が知らないということはこのあたりに住んでいるわけではないとわかる。
俺も一度家まで送ろうとしたが、清は異常に家まで来ることを拒んだ。
嫌がることを無理に押し通し嫌われることを恐れ、あまりにも拒むため家の場所までは知ろうとしなかった。そんな過去の俺を殴りたいほど恨む。
あの時知っていれば。気付かれないように家だけでも知っておけば。方法はいくらでもあったというのに臆病な気持ちのせいで激しい後悔に苛まれた。
ただのガキが情報の少ない子供を探すのにはあまりにも無力すぎた。
悩んだ末……苦虫を噛み砕く思いで東條に清の情報を調べさせた。
怒りで覚えていないが頼んだ時の東條は「了解しました。」と口角をあげていっていた気がする。今思えば本当にあいつはいい性格をしていた。
やはり仕事が早く翌日話を聞くと清は隣町に住んでいたということがわかった。
さらに清の家庭環境にはだいぶ問題があった。借金だらけでタチの悪い組に絡み暴力を振るう父親、そしてその暴力を受け心身ともに壊れ清を置いて出て行った母親……清はそんな暴力の父親が家にいる時間は家から逃げるためあの公園にいたらしい。これだけでもひどいものだがそれ以上にその後の情報が一番胸糞悪かった。
母親が出て行ったのちに父親はそのはけ口を清に向け危険な状態になるまで暴力を振るったという……危機的状況に隣人が気づき父親はサツに捕まったらしいが……
サツが駆けつけた時には子供は瀕死の状態だったそうだ。
今まで感じたことのないほど腹の底が熱くなった。
なんで気付いてやれなかったのか違和感は初めから感じていたのに………自分が周りを気にして隠して、清から冷めた目で見られるのではという恐怖で、目の前のものにも気づけなかった。ただでさえ後悔に頭が痛いというのにさらに知った事実に悔しさと怒りと寂しさで壊れそうになった。嫌、きっとあの時自分は一度壊れたのだと思う。
部屋のものを壊しまくり壁を殴りどれだけ拳から血が出ようが顔に傷をつけようが収まらず組員も殴りかねないその様子に誰一人として止めることはなかった、できなかったのかもしれない。
(清……きよ…………)
会えなくなってこんなにも不安になるなんて後悔するなんて思いもしなかった。
もはや壊すものもなくただそこに俯き座り込んで考える。
毎日の息苦しさに解放される清の笑顔も縋る姿も甘える姿もずっと俺だけがそばで見ていられればと、ここまで執着したどろっとした感情を抱いていたなんて…自分は思っていた以上にドス黒い感情を抱いていたのだとはっきりわかった。
それからは満たされていた毎日が重く感じ、周りの声すらも雑音にしか聞こえなかった。あまりにもうるさい時は今までと変わり力で黙らせた。どんなに声が聞こえてもそれは清の声ではなかったから。
(違う……俺が聞きたいのはこんな汚い声じゃない!)
「きよ……。」
何日経ってもサツに保護された後の清の情報は入手できなかった。サツに保護されてしまってもずっとではない待てばきっと次の情報がつかめると、わかってはいてもひたすら情報を求めた。
理由も知らず荒れていった俺を組のみんなも遠目から伺うようになった。ついこの前まで根暗で気弱そうだったガキがいきなり勝手に怒り出し暴れ出せばそりゃ周りはいい迷惑だと思うのは当然だ。だが、そんな俺を唯一繋ぎ止めたのは、母だった。
『諒!男がいつまでもくよくよ引きずってんな!見つからないなら見つければいいだろう!どんなに時間がかかったって生きてることは分かってんだろ。後悔はしたんだろう!次を考えろ!!!』
『次あった時には同じ間違いをしない男になれ!!!』
ただ一発顔面にくらい学生といえどそこそこ筋肉が付いている男に対し細身の女からの一発で体が飛んだ。その時の一発は今までで一番体にダメージを負った時だった。
だがそれでやっと涙が流れた。声を殺して自分の後悔を流した。
落ち着きを取り戻し俺は現状に甘え続けたことに気づいた。いくら反発しても俺がこの家の人間であることは変わらねぇ、生まれた時から周りに育てられ守られた。それはひねくれてからも変わらずみんなをずっと俺のわがままで振り回してしまったことを謝罪し頭を下げた。組員も混乱していたが俺に怒りをあらわにするやつはあまりいなかった。少なくとも表の態度では…。
それから俺は自分を隠すような行動をやめ堂々と御縁諒を名のるようになった。それはつまり自分の中で御縁組を背負う覚悟を決めたということだ。
当然近所や同級生からは白い目で見られたり遠巻きにされるがその時の俺には気にすることもなかった。気にならなかったのだ。
やがて高校に上がる頃には絡まれればこれでもかと相手を返り討ちにした。恐怖を植え付け一度相手にしたやつは二度と向かってこないように仕向けた。学校からは問題視されたが授業も真面目に受け成績も落としてはいない。文句は言わせないように。
そんな行動をしていれば周りからは危ないやつだと噂が一人歩きしていく………更には周りを勝手についてくるような連中まで出てきた。だが俺にはどうでもよかった。
輪に入る気もなく怒る気もない。楽しいわけでもない。
そんな感情はあの日以来薄れてしまっている。
季節が当たり前のように過ぎていき初めは清のためにと意気込んでいたが時が経つにつれその気持ちも薄れる時があった。だがまたすぐに思い出す光景に感情が消えるということはありえなかった。
香と出会ったのはその頃で唯一、よくつるむようになっていたやつ。
普段はうるさいやつだが引くときは引く、線引きができ何かとこなすやつだったためいつの間にか行動をともにするのが普通になっていった。
おかげで今は俺についてきて幹部の一人としてその性格と目利きから情報収集や潜入などで役立っている。
本人には言うつもりはないが組では一番信用していて信用できないやつでもある。
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