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18.狂った感情と裏切り*

何不自由なく高校生活を送っていたつもりだ。 ただひたすら渇きを感じ同じような毎日を繰り返す。気を紛らわすようにいろいろと手を出した。もちろん女にも困らなかったが本気になるはずもなくうるさいやつは構わず黙らせた。近寄ってくる女は決まって行為と金を求めてくる。何かと俺に擦り寄る奴らは考えてることが分かりやすく扱いやすい、だから俺も使えるだけ使ってやった。 そんな生活の中でさえも俺はお前を想う・・・・。 (あいつはどんな風に成長しているんだろうか。泣いてはいないか。あいつも俺みたいに女を抱いているような年頃になったのだろうか・・・・いや、でももし・・・) そう考えただけで成長とともに育った黒い感情が沸騰しそうになる。自分のものに他人が触れることを考えただけて嫌悪感を抱く。それをぶつけるように・・・・。 『あぁ・・・諒・・・・はげっ・・・ぃ』 『・・・・・・・・黙れ』 行為の最中でさえ俺の意識は頭の中の清に向けられ今目の前でしている行為に何かを感じることはなかった。 そして行為が終わると毎回同じように清が愛おしくてたまらなくなりあの時の虚無感が蘇る・・・・。 自分でも可笑しいとは思うがその欲望に気づいた頃にはもうある程度狂っていたのだろう・・・・あの顔を思い浮かべ、頭の中で何度犯したかわからない。 あの笑顔も泣き顔も・・・・全部俺だけに見せるものだ。清だけは俺だけのもの。 見つけたらもう誰にも触れさせたくない。その欲は底を知らず少しづつ俺の中を飲み込んでいく。 若かった俺はあまりにも感情的にしか考えられなかった。ただ求めるものだけをみて生きていたのだ。 ・・・・まぁ、それは今も変わらないが。 そんな時……事件が起きた。 高校にはいってからは組の仕事も下っ端として少しづつ手伝うようになった。 たとえ組のトップの息子であろうと仕事を知らないと話にならない、そのため全員と同じように下っ端から仕事をこなしていく。 親父が決めたやり方でそれに反対する奴は俺を含め誰一人いない。 おかげで今俺は組内の仕事を全て把握できているうえ確実に自分の力になったと言える。 そして、当時同じ下っ端で数ヶ月前に入った新入りと行動をともにすることが多かった。 そいつとは仕事上の関係で仲が良かったわけではないが仕事が早く気がきき甘え上手なやつだったため上の人からも可愛がられていた。 母もよく入ったばかりの下っ端の面倒を見ていた。組にくる下っ端は大体が訳ありの連中だ。だからこそ母は俺やそいつも差別することなく全員に厳しく全員に優しかった。 一般的な常識もないクソガキ共にはよく叱りつけ力で負かしていたのも日常茶飯事だ。 今の幹部たちも似たような思いがあるだろう・・・・母はある意味、組では最強の存在だった。そんな母が親父の前だけでは女の顔をする。何年経っても薄れることのない夫婦愛に視線を逸らしていたが組員はその光景を誇らしく思い親しむ奴らで、だからこそあの事件は御縁組という壊れることがないと言われた城全体に亀裂が入るほどの出来事だった。 ある夜、廊下をかける騒音に目が覚め不穏な空気を感じたため騒ぎの方へと足を進めていった。音を立てずただただゆっくりと。 幹部が数人集まる中心をみると同期のあの下っ端が床に叩きつけられていた。 さすがに驚き周りを見るとたくさんの紙が散らばり、それは組内でも限られた幹部しか見れないような極秘の内容のものばかりだった。 その最重要機密の散らばった紙、床に押さえつけられている同期・・・・。 答えを出すのにそう時間はかからなかった。 それは・・・内部からの裏切り。 組という組織では裏切りは何よりも重い、処分されるだけではすまないことはこの世界の人間なら誰もが知っている。 (……なんで) 疑問だけが頭をよぎる。誰よりも共に行動していた自分は何も気づかず怪しまずこの時の光景を見ている。 次の瞬間床に押さえつけられていたそいつは袖に隠し持っていた毒針で腕を掴んでいた幹部の手を刺し、体がふらついた不意をついて幹部の懐に隠されていた黒光するブツを素早くこちらに向けてきた。 そしてそれは家中に響く銃声と共に自分に向かって撃たれた。 一瞬だった……意識が停止したその瞬間に温かく柔らいものを感じた。 そこからはフィルターがかかったように周りから遮断され、騒がしいはずなのに声が全く聞こえない状況で目の前に倒れている母を見つめていた……。 普段落ち着きを崩さない父が怒鳴りながら部下に指示して母を抱きかけていく姿。 俺はその後ろ姿を見ることもできずその場に立ち尽くしていた。 震える手でその場に残る赤い液体を手で触れ見つめた。その直後のことは俺自身もあまり覚えていない……。 その場の全員が空気の変わりように畏れを感じて対処が間に合わなかったのだろう…俺は拳の痛みを気にもとめず気づけば目の前を赤一色に染めていたらしい。幹部が止めに入った時にはすでに相手は動く様子もなく微かに「ヒュッッ・・・ヒューッ・・」とつなぎとめようと必死に空気を求めていたという。 身体が押さえつけられていることに気づいた時には自分も拘束されて居た。 その後、拘束状態で監禁され落ち着いた頃に母が眠る姿を見納めにいった。 (また守れなかった……) 再びその悔しさだけが俺を占めた。だがそんな時でも完全に人として壊れなかったのは頭の隅にいる清の姿だと思う。 (まだ、清は生きてる。) 身内で葬式を済ませ家の中が落ち着くまで時間がかかった。親父も交わす言葉は少なくともかなりの疲労が表情(カオ)に現れていた。俺もさすがに親の葬式に働かせようとはされずただ黙って親父の隣で眠る母を見る。 覚悟を決めたつもりでいた、だがそれでもまだ甘かった。 もっと。 もっと。 もっともっと___。覚悟を決めた。 今度こそ無くさないために。 その出来事は公にはならなくとも近所にあらぬ噂が広がり学校に復帰した頃には周りに香以外つきまとうやつがいなくなっていた。だが実際には以前より殺気を放つ俺に近づける半端なやつがいなかったらしい。 数日が過ぎ俺はそれがこの世界なのだと受け止めるほどには落ち着きを取り戻していた。そして子どもでいる時間はあまりにも短く、若頭までの道のりは普通より早かったと言われている。 成長と共に俺の中で『切り捨てるもの』『守りきるもの』という括りで物事を考えるようになった。今まで清が俺の世界で全てだと思っていたが今俺がいるこの場所も大事なものだからこそ俺のシマにすればいいと考えが浮かんだ。そのためにはまず掃除する必要がある…組内でも一部反発的なやつや下っ端の連中はどうでもよかった。仕事をこなせばよし、無駄なことで害するようなら有無も言わさず切り捨てる、それは対処も様々だ。それにより組員は数が減ったかもしれないがより能力が優れ確固たる城ができた。 そしてついに若頭に上り詰めた時には関われば無事ではすまないとどこからも一目置かれるほどに名前が知れ渡っていた。 今では組のほとんどを任され力も十分にある。 止まっていた清の情報収集を進めさせた。 (見つけたらもう誰にも傷つけさせねぇ……)

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