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20.歪んだ愛情
拉致監禁・薬の表現の描写があります。苦手な方はおきをつけください。
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店が閉まるのを見計らい店側と話をつけることができた。それなりの店だけあってあのオーナーも大した裏がいくつもありこちらも懐ん中見せることにはなったがおかげですんなり事が運んだ。これで一つ片付いた。
翌日から店に出向き当面の間一定の時間帯は全てVIPルームを貸し切り清を担当につけさせた。扉の前に立つと緊張がわかりやすく態度に出る姿は可愛くて幼い姿と重なる。通常ボーイとはドリンクや身の回りの対応だが俺の目的は清と時間を作り話すため。そのためソファにかける事を促せば勘違いをして床に膝をつく始末…今にも顔が緩みそうだった。
初めは自分を覚えていないうえに警戒されていたがゆっくりと警戒を解かせるために優しく近づく。当たり障りない質問をし今のお前を知るのはそれなりに嬉しくも感じていたが焦りもあった。焦ってもいい事はない、仕事は何事も冷静さを欠いたら終わりだ。
だが、清の前で冷静さを保つのは難しく何度本能を抑え込んだかわからねぇ。本当に…自分でもよく我慢できた方だとさえ思う。
酒を進めれば赤く染めた表情と潤ませた眼を前に手が伸びてしまうほどだ。なんとか頭を撫でごまかしたが……触れるだけでその高揚感を感じ堪らなくなる。
だが、それと同時に以前女が言っていた言葉が引っかかっていた。
『お客様からも密かに人気なんですよ〜』
久しぶりの清との時間に安らぎを感じる反面、こんな店で客に晒されていると考えただけで抑えきれないほどの感情が湧き上がってくる。
(……なるべく早くなんとかしないとな。)
一週間も経てば警戒も緩み清もよく話すようになった。だからだろう気持ちがどうしても先走り少し下手打ってしまった…生活が苦しいことを餌に俺が所有しているマンションに住まわせようとした。少なくとも眼の届くところに置いておきたかった。金も何も取る気はもちろんない、組のやつも数人住まう場所で監視もできる。
お前を守れる……。
だが清は頑なに首を縦に振らず最終的には話を切り部屋を出て行ってしまい自分も後日また話すため適当に理由をつけ店を出た。
再開できたときの事は何度か予想はしていたが実際にうまくいかないと更に我慢がきかなくなってくる。
(少し焦りすぎたか……まぁ、他にも方法はいくらでもある。)
店を出てすぐ香の情報から清が住むアパートの大家を利用しアパートの建て替えを決めさせた。他にも清の周りいたるところに手を回し逃げ道をなくさせる。
やり方などはこの道の仕事をしていればたやすい、どれほど汚いと思われようとも確実に手に入れるためなら手段など選ばない。
(もう少し……)
数日後、組の溜め込んだ仕事を片付け再び店へと足を運んだ。今までほぼ清の出勤日は毎回あっていたからか空いていた数日間が長く感じ清も落ち着かない様子で挨拶をし先日の事を詫びてくる。俺も焦り過ぎた言動だったため気にもしていないが、そんな様子でさえも俺の本能をくすぐる清。
その日はマンションへの引越しを決めさせるつもりだったが疲れている清を見ていられず身体を引き寄せ俺に寄りかからせるようにVIPルームのソファで休ませた。睡魔に抗おうとする様子にそっと髪を撫で眠るように促すとVIPルームには静かに寝息だけが聞こえる。
瞼をつむる姿を見つめながら俺は自分の中で葛藤してたことなどこいつは思いもしないのだろう。と考えると自然と口元が緩む。まるで昔のあの時間のようだと…。
だんだん眠りが深くなっってきたのか清の口元も何か発しているように小さく動く。再び髪を撫でていると肩に触れるだけでいた清の身体が俺に頰を擦りようるように甘え発している言葉が聞こえた。
『お・・にぃ・・・ちゃん』
その瞬間寝言だとわかってはいても身体に抑えがきかず気づけば強く抱きしめそのまま抱え連れ出していた……。目を覚ますと疑問を浮かべた表情で俺に訴えてきたがもう俺も止まれず、抵抗されることも考えちょっとした睡眠薬で清を再び眠らせ店をでた。店にはすでに以前から手を回していたため俺の行動を止めはしない、オーナーはただ綺麗に礼を取り見送る。店に来れなかった間に清をホールに出さないよう指示した時もそうだ。
愛おしい寝顔の反面その身体の軽さに苦い気持ちになる……。あの時助けられていたらもっと何もかもが違っていたかもしれないと……今更な後悔を抱いた。
部下に荷物の手配など諸々指示を出しそのまま車で引っ越させる予定でいたマンションに連れていく。
問題なく到着し、ひとまずベッドに寝かせ起きるのを待った。
(目を覚ましたらどんな顔をするだろうか…怖がるだろうか。逃げ出すだろうか…それとも……)
考えながらベッドのサイドに腰掛け眠る清に触れれば今までにない高揚感を感じその寝顔をじっと見つめてしまった。
(このまま繋ぐか……。離したくない。足りない…俺だけが触れていたい。)
その思いはまるで獣のように欲する感情が抑えられそうになかった。リビングに移動し部下から着替えや持ち物、そしてマンションの荷物を受け取ると。リビングのソファに深く腰を下ろしため息を吐きながら天井を仰ぐ。
経験上何事も先手を打った方がいいという考えだからこそ今後の説明と決め事を頭で整理しておく。今後はたっぷり時間もある…覚えてなくてもゆっくり教えていけばいいと思った。
(これからは手の届くところにいる。)
(俺のそばにいる…。)
どんなに時間がかかってもいいから、また俺に昔のように笑いかけて欲しかった。そんな子供のような甘い考えを一人抱いていた。
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