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21.独占欲
目を覚ました清は当然ながら戸惑った様子で俺から距離をとった。ある程度予想はしていたことだがチリッとした痛みを感じ、ひとまず着替えを渡し落ち着かせてから話をしようとうながし静かにリビングに移動する。あの様子だと数時間は寝室から出てこないと思っていたが、意外にも清が着替え終わりリビングに来るまでそう時間はかからなかった。
普通ならもっと混乱して閉じこもるか、暴れ出すか逃げ出すということがありそうだが予想外に冷静に考えていることから諦める状況に慣れているようにも考えられた。
何を話すべきか内心不安を拭えないなか清はラグに座り込み多少警戒しながらも声をかけてきた。この状況で連れ去った相手に丸腰で当たり前のように問いかけて来る。
俺はそれに答えると同時に今後の生活について話した。戸惑っていたが有無を言わさず話を進めたがバイトについては特に納得がいかない様子であの仕事が気に入っていると思うと腹ん中がザワザワする。俺は何よりあのバイトを辞めさせたかった。
一方的に話し終えゆっくり休むよう促し俺は逃げるように仕事に向かおうと立ち上がったが、ここで目を離してしまうのが恐ろしく…『もう、どこにも行かないでくれ』と心のうちでつぶやきながら清の額に唇を落とした。
会えたら、一時でも離れずそばにいてやりたいと…思っていたはずだが実際には近くにいるのが不安にも思えた。
清が心配で仕事はあまり手につかなかった。
部下からも『若頭・・お加減でも?』『何かミスがありましたか?』と頭の周りを蚊が飛ぶような煩わしさ。自分の様子が周りからもわかるほど違和感があったらしい。
「いや、なんでもない。それより例の件はどんな状況だ?」
いつでも隙を見せるのは命取り。切り替え即座に部下へと視線を向け問題を問いかける。部下も心配していたが空気の変わりように対応が変化する。
「はい!もうじきいいネタを持ち帰れそうだと報告が来ています。」
「そうか……奴も今後自分の首を締めるとは思いもしないだろうな。」
「はい。これがうまくいけばかなりの裏が取れます。」
「わかった。また都度連絡しろ。」
「かしこまりました。」
静かに礼を取りそのまま部屋を出て行ったことを確認し口寂しさを紛らわす煙からほのかに香る痺れるような香り。
…………。
二三度吹かしデスクの端にある灰皿へ潰し次の仕事に取り掛かる。
真夜中、仕事を切り上げ清の様子を見にマンションへ行った。
部屋へ入れば室内は暗く静かだった。寝室の扉をゆっくりと開き眠っている清のベッドの端に腰掛け寝息を立てる清の顔にかかる髪をなぞるように頰をそっと撫でた。すると寝ぼけているのか触れた掌にすり寄ってきた。
擦りつけられている手が固まる。
(ヤバいな……)
そのまま手を伸ばしてしまいそうな欲を握りつぶし静かに部屋を後にした。
翌日、部下から『バイト先に向かい結構な時間中から出てこないでいる様子』と連絡を受け、もしやと思い急いでバイト先に向かった。
中に入れば客に笑いかけ頬を触らせている姿に腹の底から苛立ちを感じた。昨夜抑えていた感情をも飲み込むような勢いに当てられてしまった。
やっと手に入れたと思った矢先、抑えが効かず…気づけばその場から抱き上げ無理矢理連れ帰った。
ベッドへと落とすなり怯える様子の清の瞳は今にも流れそうに潤んでいた。そしてその眼は昔の光景が目の前に浮かぶかのように透き通ったブルーグレーの瞳。そんな表情を見たかったわけではないはずが、その瞳から目が離せなく…どうしても綺麗だと思ってしまった。
(眼が……)
そして、その瞳を見た瞬間俺の中で何かが切れたような気がした。
次の瞬間には清の震える唇に俺の口を押し付けこじ開けた口内を下で執拗に犯していた。寝室に響く絡み合う音と清の漏れる吐息がさらに俺を興奮させた。
怯えられても。思い出さなくても。それでも俺はただお前が…愛おしい。
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