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ある日の王様3

「絶対ろくなことにならない」 先刻まで居た応急とは打って変わって質素で、だが清潔感の部屋のソファに座ってニイは天井を仰ぎ見ながらうんざりともとれる声音で呟いた。 その心情を表すかのように猫特有の細くて長い尻尾をソファにたしたしと打ち付ける。 「ええ、どうしてー?トレイルも王様のこと好きなんでしょー?それなら一緒にいられる時間が増えることって嬉しいんじゃないの?」 小さなテーブルを挟むようにしてある向かい側の一人掛けのソファに座る、というよりは収まるようにして体を埋め、細く繊細な指先でふわふわの紙をいじっていたイチが不思議そうな声を上げた。 成長するにつれてやや鋭さを増した目はニイの前だと子供の頃のように甘く垂れ、かわいらしさを感じさせるが今ではマルローと共に犯罪を取り締まり民からの信頼も篤い庶民生まれの姫騎士様だなんて呼ばれている双子の姉を見てニイは溜息を吐いた。 「好きとか嫌いとか、そんな単純な言葉で済む関係だったらオレだってこんなに頭悩ませてない」 「好きだから一緒にいる。嫌いならそばに居させない。イエスかノー、これだけじゃないの?」 「それはお前が極端すぎるんだよバカイチ」 「そうかなぁ?トレイルはわかんないけど、αなんてそれだけだと思うんだけど」 両の目で色の違うそれをきゅうっと細めてイチは当たり前のように呟く。 ソロが初めて自発的に発情期(ヒート)を起こしたあの日、イチはαとしての性を目覚めさせた。そのことをソロはものすごく複雑そうにしていたのを覚えているが当の本人はけろっとしていた。 なんなら自分がαだと分かった時の言葉は「王子様とおそろいだね」だ。 「…トレイルがΩだったらもっと簡単、な訳ないか。拗れるときは拗れちゃうもんねえ」 「そうだな。それにトレイルはジイさんとソロとも違ってめちゃくちゃひねくれてるから更に拗れる。アルヴァロ様もあんなだし」 「あはは、前途多難だね」 けらけらと楽しそうに笑って見せるイチにニイはまた大きくため息を吐いた。どうもこの双子の姉は物事を楽観的に捉えすぎる。 「大体、αとβだし。アルヴァロ様は王様だし、前途多難というか、望みすら」 「関係ないよ」 ピン、と糸が張り詰めた様な、そんな鋭い声が室内に響く。 「あの人にΩとかβとか関係ない、それこそαですら」 あの人の前では全員凡人だよ。 なんの感情も映さない、ガラス玉のような目をしてイチが呟く。 ほんの小さな声のはずなのにそれは嫌になる程耳に残った。 本能がβよりも優れているαとΩ、それに当て嵌まる自分だからこそニイはその言葉に何も返すことが出来なかった。この数年、側であの傑物を見てきたからこそ、ニイには何も言うことが出来なかった。

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