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第4話 モーニングサービス
(眠いなぁ…)
メイドの朝は早い。
昨日はご主人様であるマコ様からシカト攻撃を受けて、気持ちが沈んで眠れなかった。
メイドの部屋に行くと全員が起きていて、メイクもバッチリで凹んだ。
「こーら、たぁ子?身嗜みはしっかりしなきゃ!おいで?」
優子さんがブラシを持って手招きしてくれた。眠さをそのままに、椅子に座ると髪をといてくれるのが気持ち良い。
「はい!完成ー!いーい?たぁ子。メイド服は戦闘服みたいなもの!中途半端に着ちゃダメ!分かった人ー?」
「はーい」
返事をすると良い子、と笑ってくれた。金髪のロングヘアはサラサラで毛先はいつも綺麗に巻かれていた。
「今日は私のご主人様を紹介しながら、モーニングルーティンを教えるね!マコ様は起きるの遅いから、すぐ実践できる時間になると思うよ」
「よろしくお願いします!」
「あ、ちょっと待ってたぁ子、優子!…優子の起こし方は特殊!くれぐれも真似しちゃダメよ?信頼関係があってこそ、なんだから。」
「???…はい」
レイ子さんの言葉に、首を傾げて優子さんを見るも、優子さんも首を傾げていた。
「優子しか許されない起こし方よ。見たら分かるわ」
そう言ってレイ子さんは苦笑いして送り出した。
少し離れたお部屋に着いて、優子さんは慣れた手つきで洗顔やタオルや着替えを準備した。
幸せそうに熟睡するのは4男の大地様。1番美しい顔だと言われ、大地様を狙う人は多いんだとか。
「さ、そろそろ起こしますかっ!」
そう言うと、ベッドに登って大地様に馬乗りになった。たぁ子は顔を真っ赤にして固まった。そんなたぁ子を気にせず、いつも通りなのか、耳元に唇が寄せられた。
「ご主人様。おはよ。」
「っ!!?」
「ん…ぅ…おはよぉ」
(すごい!一言で起こした!)
目を開いた大地様は、それはそれは幸せそうに優子さんの頬を撫でた。
「目、覚めた?」
(た、タメ口!?)
「覚めない。キスしてくれたら起きる。」
駄々っ子のように布団に潜った大地様を、優子様はにこりと笑って見ていた。
けど、
「大地?お仕置きされたいの?」
「へっ!?」
「やば!うそうそ、ごめん、優子」
「はい、5-!4-!3-…」
「待って待って!冗談!冗談だよ!はい!起きました!おはよー!!」
「わーい!起きたぁー!!あっはは!私の勝ちー!大地、遅れちゃうよー!急げ急げー!」
キャッキャと楽しそうにしているが、あの恐ろしく低い声はなんだったのかとドキドキした。
風呂が終わった大地様の身体を拭いてあげている優子が背伸びをしているのが可愛く見えた。大地様も気付いているのか少し屈んであげていた。
「ふぅ!サッパリ!」
「はい、大地ここ座ってー?今日は挨拶回りだからカッチリにするね」
「うん!似合うかな?」
「あはは、私がやるんだから大丈夫だよ?大地の良さは1番知ってるんだから!任せて」
自信満々の優子さんに大地様は照れながら鏡を見ていたが、自分ではなく優子さんを見つめていた。
スーツを着た大地様はマネキンみたいに美しくて口を開けたまま見つめた。
「たぁ子、気に入った?」
「素敵です!とても!」
「ほら、大地、自信持って?大地は誰よりも素敵なんだよ」
「そ、そうかな…?でも、今日の挨拶回り…緊張する…」
緊張ぎみの大地様に、優子さんは天使のように笑った。
「みーんなが大地のこと大好きって思うよ!頑張って!」
「うぅっ…!優子〜!大好き〜!」
「私もがんばる大地大好き〜!」
ハグし合うほど仲のいい2人が羨ましかった。
コンコン
(まだ…寝てる?)
「し、失礼します。」
静かに入って、着替えやタオルの準備をする。洗面所で香水を用意した時、ふわりと香った匂いが気に入った。
(いい匂い…)
スンスンと嗅いでいたら、後ろからギュッと抱きしめられて驚いて体が跳ねた。
「なーにしてんのかな?」
「え、あ、っ、おはようございますっ!うるさくしてしまいましたか?」
「ううん、大丈夫。」
「えっと…あの…」
「んー?」
後ろからハグしたまま、首筋に顔を埋められる。真正面の鏡を見て今の状況を知って真っ赤になる。
「マコ様…。あの…」
「低血圧だから…倒れそう」
「え!?大丈夫ですか?少し横になりましょ?」
支えてベッドに連れて行くと、突き飛ばされて両手首を押さえつけられた。
「離して下さい!騙したんですか!?」
「威勢がいいな、相変わらず。嫌いじゃないけど。」
「心配したんですよ!?なのにっ」
「ごめんって。そんな怒るなよ。」
ニヤリと笑うのも悔しくて暴れる。昨日も不安で眠れなかったのにおちょくられて、悲しくなってきた。
「一生懸命っ、やりたいっ、だけなのにっ…っぅ」
「お、おい!冗談だよ!泣かないでよ」
「何も、分かんなくて、っ、不安なのにっ、ひどいですっ」
「ごめん、ごめんって。ほら、涙拭いて」
「うぅ〜〜っ、もう、できなぃ〜」
「大丈夫っ!できてるから!な?泣くなよ、頼むから…ごめんなぁ、泣かせたかったわけじゃないんだ」
ギュッと抱きしめてもらって、頭を撫でられる。いい匂いのするパジャマにしがみついて気が済むまで泣いた。
「ほら、たぁ子!準備できたじゃん!いやぁ〜助かったよ」
「本当ですか?…よかったぁ」
スーツを着こなして、両手を広げるマコ様を見た。ブルーのポケットチーフとネクタイを少し直して、はじめてのご用意が無事に終わってほっとする。泣きはらした目で、マコ様を見て笑うと、やっと笑ってくれた、と抱きしめられた。
「たぁ子、泣かせてごめん。意地悪しちゃった。」
「意地悪は、嫌です」
「〜〜ーーッ!」
顔を隠して黙ってしまったマコ様を見上げて首を傾げる。
「ご主人様?」
「可愛いっ!!」
「わぁ!?」
「ん〜〜!可愛いー!可愛いよぉ!」
昨日の冷たい態度が嘘のように優しくなったマコ様に安心して、送り出した。
5人兄弟が全員スーツなのが圧巻だった。
「たぁ子!ベッドメイク!急いで!」
「はぁい!今行きます!」
たぁ子はご機嫌で走り出した。
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