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第4話
「ようやくメラスに着きましたね」
「うむ、すっかり日も落ちてしまったな」
その後、慰問を無事終えることができ、一行は王都へと戻ってきた。夕焼けに染まる城が、彼らを出迎える。
「イリス、宿の確保は出来ているのですか?城の空き部屋を手配しましょうか?」
イリスは東部出身なこともあり、王都に立ち寄る時は宿場を利用している。
それを知った上で、提案をした姫騎士の心配りに対し、回答したのはイリス本人ではなく、リカルドであった。イリスの背後からその肩を掴む様は、まるで自分のものだと主張しているようだった。
「イリスは俺の屋敷に泊める。こいつが城に泊まるとなると、従者たちが気を使うだろ」
「そんなことはありませんよ。イリスなら、皆大歓迎ですよ」
「サファイア、ありがとう。城にはまた、別の機会に顔を出すさ。だから、今日はリカルドの世話になる」
姫騎士は、少し残念そうな顔をするが、すぐに笑顔を浮かべた。
「イリス、約束ですよ。是非遊びに来てくださいね」
「じゃあ、あたしが厄介になってもいいかしら?どうせ、魔術指導もしなくちゃならないのだし」
「メルキオール、いつもありがとうございます」
メルキオールは、サファイアの従者へ魔術指南をしている。恐らく、明日がその日なのだろう。サファイアは身をひるがえし、イリスの元を去る。一つに束ねた黒髪の何と艶やかなことか。
「イリス、今日は疲れただろう。リカルドの元でくつろぐと良い」
「アダマス殿、お気遣いありがとうございます」
「部屋貸すのは俺なんだけどな」
イリスと彼を気遣うアダマスの間にリカルドが割って入る。神官は静かに笑い、「では、これで」と言った後、リカルドにだけ聞こえるよう小さな声で囁いた。
「あまり、イリスに”無理”をさせるなよ」
「それは……できない約束だな」
「だろうな。それでもお主が加減せよ。あれは、自己犠牲がすぎる。お主には心を開いているようだがな」
「そりゃ、どうも」
同じようにリカルドも、イリスには聞こえないように言葉を返した。
神官が立ち去った後、その場には二人だけとなった。終始無言のまま、都の近くにあるリカルドの私邸へと向かう。事前に連絡していたのだろう。二人を出迎えた従者から、客間の準備はしてあると言われたのをイリスは聞いた。だが、その部屋には髪の毛一本残すことはないだろう。申し訳ないと思いつつ、イリスはリカルドに手を引かれ、彼の部屋へ放り込まれた。
仲間の手荒な行いにも、イリスは抗議の声は上げない。ただ、俯いたままされるがままだ。リカルドはイリスを部屋の中央にあるソファに座らせ、自らは身を屈め、下から勇者の顔を仰ぎ見る。奥二重の瞳は、正面から見るのと、見上げるのでは随分と印象が異なる。
「もう、お前を見ているのは、俺しかいない」
その言葉は、まるで呪文のように、イリスの精神下に、すっと入り込んだ。
この男には、全てを知られている。
この男には、全てをさらけ出していい。
「は、」
堰を切ったように渇いた笑い声を上げる。その声、その表情は、皆が思い浮かべる勇者のそれではなかった。イリスは片手で顔を覆い、小さく呟いた。
「何て、浅ましい」
その言葉は、彼自身に向けられたものだった。
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