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第13話

「確かに、信用の置けない者に聖剣を明け渡す訳にはいかない。だが、結局のところ聖剣の使い手は、聖剣が選ぶ。俺の意思は関係ない」 「でも、貴方にとっては、聖剣は守るべきものだろう。当然使い手も、守る対象ではないのか?」  リカルドは首を振る。 「使い手が死んだ場合は、聖剣はひとりでに神殿に戻る。俺がまだ幼い頃に使い手となった者がそうだった。確かに聖剣は一族の宝ではあるが、使い手は別だ。使い手の保護は、一族の仕事ではない」  イリスは胸の高鳴りを抑えることができない。メルキオール程の学がなくとも、そこまで言われてしまっては、この男の真意は伝わる。自分をずっと思ってくれていたことを、知ってしまう。だが、悲しいかな。こういう状況で、どう対処すればいいのか、イリスには分からない。そもそも、己自身はリカルドのことをどう思っているのか。 「俺は、貴方に、酷なことをしてきたのだろうか」  これまでは、気持ちに気づきもせず、仲間として接してきた。 「今までは、仕方がないさ。お前は、姉さんのため生きてきたのだから」  リカルドのその発言に、姉の笑顔が呼び起こされる。姉は、嫁入り前に生贄になることを選んだ。あの頃イリスはまだ幼かったから、姉にそういった相手がいたかどうか知らない。ただ、母の看病、弟の面倒を見ることに追われていたことを考えると、娘らしいことなどできなかったのではないだろうか。  ましてや、恋など。  そう思うと、イリスは罪悪感に駆られる。姉は、恋を知らないままに死んでいったのに。そういう思いもあったために、イリスは言い寄られることはあれど、誘いを拒絶してきた。罪悪感から来る嫌悪感により、自分から求めることもなかった。  ただ、いつまでもそういう訳にはいかないということを今、思い知ったところだ。そして現在、懇意にしていた相手に好意を告げられた。解放されたからということもあるのだろうが、不思議と嫌悪感はない。 「貴方のことは、好ましく思っている。だが、まだ、気持ちの整理がつかないというか……」 「まあ、そうだろうな。お前は、ようやく解放されたんだ。しばらくは養生した方がいい。この屋敷も好きに使って構わない」 「それは、流石に、申し訳ない」 「本当は、慰問もさせたくないところだが、そういうわけにもいくまい。それなら、王都から比較的近いここに留まった方がいい」  未だに邪竜の爪後は深い。人々の沈み切った心を癒すには、勇者一行の力が必要と王族も踏んでいるのだろう。リカルドはため息をつく。当面は、駆り出されることが予想できるからだ。ただ、平和の象徴として使われている間は、まだいい。今後政治的に利用されると非常に面倒である。 「確かに、俺の故郷は、王都と頻繁に行き来できる距離ではないからな」 「それに、故郷に戻れば嫌でも思い出すんじゃないのか」 「……恐らくな。だから、今でも帰っていない。父の後妻は、手紙を寄越してくれるんだが、多分、戻れば、俺は耐えられない」  イリスの目に再び涙が滲む。手紙には、父が一族の墓に、姉の名を刻んだことも書いてあった。これまでは生贄を死者として取り扱うことは禁忌とされてきたため、姉は生者として取り扱ってきた。だが、これからは違う。姉は、そういった意味でも過去の者となってしまうのだ。  寂しくて、寂しくて、涙が止まらない。折角泣き止むことができたというのに、情けない。そう思っているイリスを、リカルドは優しく抱きしめる。

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