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第15話
穏やかな眠りを覚ますのは、愛らしい小鳥のさえずりだった。
柔らかな日の光が窓から射し込み、聴覚、視覚から、朝を迎えたことをイリスは知る。
少しの微睡みの後、イリスは体を起こした。瞼は重いが、不思議と充足感に包まれている。これ程眠りが心地よかったのは、いつぶりだろうか。思えば邪竜討伐以降、満足な睡眠は取れていなかったように思う。
意識が覚醒してくると、違和感を覚える。ここは慰問中世話になっていた宿場でなければ、城でもない。
少し考えると、昨日はリカルドの屋敷に泊めてもらったのだと思い出した。
用意してもらった部屋で、装備を解いた記憶が呼び起こされる。それからしばらくは、ぼんやりと、鬱屈した感情を抱えていた。
ああ、そうだ。リカルドが、温かい飲み物を持ってきてくれて、話をしたんだ。
それで……。
全てを思い出し、イリスの頬が赤く色づく。
呼び起こされる記憶に、甘く染められる。
頬が熱い。体も熱い。
まず、イリスを支配したのは、恥という感情。子供ではないのに、おいおいと泣きじゃくってしまったこと、その様を仲間に見られたこと。
そして、次に浮かんだ感情は、戸惑い。
悲しみの淵にある自分のことを優しく包み込んだ男。仲間として頼りにしていたし、男としても、憧れていた。
そんな存在からの、求愛。深い海のような瞳に、情が滲んでいた。惨めにも、弱りきったイリスを抱き締めた厚い体、心地よい体温、聞こえた心音の何と安らぐこと。
しかし、その辺りから記憶が曖昧だ。胸がすっきりしていることから、秘めていた感情を吐露したのは、間違いない。そもそも、吐き出した衝動で泣いたようなものだ。
だが、イリスはリカルドの想いに、どう答えたのか、思い出せない。拒絶はしていないだろう。ただ、受け入れたかと言われると、それは違ったような気がする。曖昧な回答をしたのだと思う。
好意を向けられ驚きはしたが、嫌悪感はなかった。むしろ、嬉しさすら感じた。ただ、自分自身がリカルドをどういう対象として、捉えているのか、答えを出せない。だから、不用意に返事ができなかったのだと思う。
まだ、抱き締められたぬくもりが、残っているようで、イリスは思わず、肩を抱いてしまう。
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