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第16話(ソロプレイ有)

イリスはふと、下腹部に違和感を覚え、自己嫌悪に陥る。男性なら誰でも起こる生理現象が、彼の体にも表れていた。 元来、そういったことには奥手であり、淡白な性質だったせいか、年頃になってもイリスの行為は、どこか事務的で快楽を貪るような真似はしてこなかった。 ただ、そんな彼でも滾る時はあった。魔物を討伐した時である。強敵であればあるほど、翌朝、体が熱を持つ傾向にあった。そういう時は、おさまるのを待っていた。 意中の相手でもいれば、その者を想っての秘事にもなろうが、それどころではなかったイリスには、ただ溜まったものを吐き出す行為でしかなかった。ましてや、他者との情交など、考える暇はなかった。 天にも昇るだの、溺れるだの、言っている人間の気が知れなかった。 若い身空で事切れた兵を見て、熟年者は、人肌も知らずに逝くとはと、哀れむ光景に立ち会ったことがある。 言わんとすることは、イリスにもわかる。しかし、こうも思った。知らぬなら、残念がることはあれど、心底悔いることはないだろう。 現にイリスはそうだった。もし、邪竜討伐前に命尽きることがあったとしたら、その首が取れなかった無念だけを抱えただろう。肉欲など、この身には、いらなかった。 そういうわけで、イリスは折角の快眠を台無しにされたようで、不愉快な気持ちになった。 しかし、まだ、早朝だ。食事の準備が済むには、もうしばらく時間がかかるだろう。だからまだ、多少寝汚くしていても、問題はないはずだ。 今日の朝食のことでも考えていれば、そのうちおさまるだろう。 気を紛らわそうと思うのに。 イリスは消えては浮かぶ昨晩の光景と、感触に惑っていた。 遅れを取るつもりは毛頭ないが、魔物との戦いには、常に命を落とすかもしれないという危険が付きまとう。そこには、強い刺激が襲いかかる。 さらに、リカルドの屋敷というあまり出入りしたことのない環境下に置かれたこと。それだけでなく、昨晩の出来事。 「んっ……」 思わず、吐息が漏れる。気味の悪い声だ。イリスはそう感じる反面、いつもより、下腹部に焦れた熱が集まっているような気がすることも、わかっている。今、この時にも血流が、好ましくない方へと向かっている。 穢らわしい。犬畜生じゃあるまいし、盛っている場合ではない。ここが自室ならまだしも、人の家だというのに、何を馬鹿な。そう思うのに。欲に溺れるなど、一番軽蔑してきた人種と同類ではないか。 息が荒くなる。唇を噛んで耐えようと、やり過ごそうと、頭では思うのに。 利き手が、下衣に伸びるのを止められない。噛み締めていた唇が、無意識の内に弧を描いたのは、彼は知らない。

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