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第27話

狡いことをしている自覚はある。救いを求めるように見つめれば、リカルドはそれに応えようとするだろうとわかった上で、イリスはそうしたのだから。 その予想通り、リカルドは椅子から立ち上がり、イリスへ歩み寄る。涙に濡れる頬に、その大きな手が触れる。優しい手、守るような手に全てを委ねてしまいたいと思っていることに、イリスは気がつく。この屋敷に来てからというもの、リカルドに甘えきってしまっている。もう、子供ではないというのに、人前でこれ程泣きじゃくっていいものか。頭のなかでは、そう認識しているのに、恥ずかしいと感じているのに、涙を止めることが出来ない。 「いいんだ。お前は、泣くのを十年我慢したんだ。一日そこらで枯れるはずがない」 ああ、そうか。 イリスは納得した。自分なりに品行方正に努めてきたつもりだったが、そうではなかった。ただ、感情を押し込めていただけだったのだ。邪竜を討とうが討つまいが、遅かれ早かれ、壊れていた。 そして、イリスはリカルドの目を見やる。涙の膜が張られたぼやけた瞳でも、わかる。この海のような優しく、暖かな眼差しがなければ、もっと早くに、破滅していた。こんなに、案じていてくれていたのに、その想いに気がつかず、今までは上部だけの綺麗事を吐き、今はただ悲しみに暮れるだけなど、許されるのだろうか。 「また、貴方を幻滅させてしまう」 「そんなことはないさ」 「こんな、子供のようなところ、見られたくなかった」 いつかの晩、散々泣いていたくせに今さら何を言っても無駄である。リカルドはイリスを詰ることもできたはずだ。しかし、彼はそうはしなかった。それどころか、ふっと笑うとイリスに語りかけた。 「なら、こうしようか」 イリスの体が、ぐいとリカルドへ寄せられる。

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