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第32話

 先程の恥ずかしい光景を見た上での「頼む」という発言の意味。イリスは考える。  ただの仲間としての意味ではなく、特別な存在として、という意味だろう。しかし、この従者は肝が据わっている。  同性同士の恋愛が許容されているとはいえ、それはあくまで兵士などのいつ死ぬとも分からない者であったり、後継者問題などと無縁の者に限られる。  血脈を保つ必要がある立場の人間が、子孫を残すことができない者と連れ添うには、それなりの覚悟と周囲の了承が必要となるはずだ。  さらに、勇者一行という点では、自身の方が上位として扱われることが多いが、もともとの身分を言えば、庶民と貴族。そして、さらに言えば自分は王都から離れた東部の出身だ。総合的に評価すれば、身分違いもいいところなのだ。  リカルドがイリスとの関係を深める上で、この従者にも不利益を与える可能性がまったくないとは言い切れない。それにも関わらず、慈愛の目を向けてくれたこの人に対し、自身は何と答えるべきなのか。    嘘偽りで固めることはしたくない。ならば、正直な気持ちを伝えるのが、一番なのではないだろうか。ここでは、ただのイリスでいると決めたのだから。  そんな表情を読まれたのか、カルロは微笑んでからこう告げた。 「坊ちゃんが誰と添い遂げようが、本家の皆さまにとってはどうでも良いことです。だから、貴方が気にすることはありません」 「本家……?」 「ああ、言ってなかったな。俺は嫡男じゃないぞ」  イリスは驚いた。聖剣の守り人で、神殿の扉を開くことができるのは、リカルドのみと聞いていたものだから、てっきり当主なのかと思っていたのだ。 「もともとは傍流の出でな。立場上は現当主の叔父という立場だ」 「そうだったのか」 「まあ、当主だったら、お前と仲良く邪竜討伐なんて絶対無理だったろうな」  同じような立場に、サファイアがいるが、確かに彼女が旅に同行できたのは、あくまで複数いる王の子供の一人だったからだ。これが嫡子であれば、そんな自由はまかり通らなかっただろう。 「それは、困る。貴方がいなければ、俺は……」  ここまで、辿り着くことなど到底できなかった。  気が付けば、声が出ていた。しかし、あまりにも、恥ずかしいことをしていると途中で自覚し、何とか最後まで発言することは避けられた。 

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