34 / 37

第34話

 部屋の扉を閉める音が、やたら大きく聞こえるのは、外の世界に未練があるからだろうか。内部を見つめると、屋敷の主だから当然なのだが、イリスが使用している客間よりも広く、豪華な部屋に、萎縮してしまう。いくら英雄と呼ばれる存在になっても、出自は片田舎の庶民なのだから、当然である。  テーブル、ソファ。どれをとっても、恐らく質のいいものなのだろう。イリスには、判断が付かない。彼が判別できるとしたら、寝台が大きいということくらいだった。彼の体格を考慮してか、大きなそれ。明らかに一人寝にしては、ゆとりがありすぎるのではないか。そして、物凄く柔らかで、包み込んでくれそうだ。庶民であることを恥じたことはないが、今ばかりは裕福な生まれをうらやましく思う。 「お前を一人にすると、また変なこと考えだすんじゃねえかと思ってな」  ふいに話しかけられ、イリスは我に返る。かけられたのは、気遣いの言葉。その優しさを嬉しく思う反面、一人寝台の広さについて考えていた自分が、あまりにも恥ずかしい。貧乏人丸出しである。 「……そう、だな。ありがとう」 「まあ、それだけじゃないんだけどな」 「え」  先程の続きと言わんばかりに抱きしめられる。 「俺も聖人じゃないからな、当然下心はある」 「と、いうと」  その真意を問うイリスに、リカルドはため息をつく。 「お前、分かって言ってるだろ?」  先程のように視線を逸らしてやり過ごそうかと思ったが、顎を掴まれ、それは叶わなくなってしまった。青い瞳の奥には、確かな熱が宿っているように見える。その熱が何を示しているのか、分からないイリスではない。この部屋に入った時点で、こうなることは予想していた。予想はしていたが、どう対処すればいいのか、経験の浅い彼には分からない。  討伐隊に所属していた頃のことを思い出すと、肝が冷える。想いが通じ合った者同士がどうするのか、その場面に出くわしたことがあるからだ。いつ命を落とすとも知れない状況下では、子孫を残すことを優先しようとする。たとえそれが、同性であっても。  もはや名も覚えていないが、かつての同じ釜の飯を食った仲間がイリスに教えてくれた衝撃の事実。男同士の行為。 「い、いきなりは……無理だ」  

ともだちにシェアしよう!