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第35話
「は?」
リカルドでもこんな間抜けな表情をするのかと、その顔を見て冷静さを取り戻したイリスは思った。
「討伐隊では、そういった行為が横行していたからな、知っているさ!だがな、俺は、一切手を出した覚えも、出された覚えもない!だから、無理だ!」
「いや、何の話だよ」
「何だ。今度は貴方が、とぼけるのか!男同士のまぐわ」
「アホか!」
イリスの発言をリカルドの声が遮る。とはいえ、もうほとんど言ってしまったようなもので、意味はなかった。リカルドは咳払いをしてから、続ける。
「俺だって、いきなりお前を取って食ったりしねえよ」
ガキじゃねえんだからと、諭すように言ったリカルド。しかし、その言葉に、納得できるイリスではなかった。
「恋とは、愛とはそういうものなのだろう?討伐隊の時は、皆そうしていたぞ」
「嘘だろ?あんな清廉潔白が服着て歩いてるような奴らが?」
今度はリカルドが納得できないとでも言いたそうな表情をした。確かに討伐隊は自らの命よりも人々の安寧をという主義の元、成り立っている。しかし、実のところ、血気盛んな若者が命の危機に瀕すれば、そうなってしまうのは仕方がないことだった。
外面さえ整えていれば、それが知られるはずもない。
「だから、貴方もそういうことが、したいのかと思って。俺は腹をくくらなければならないのかと。少し、怖くてな」
イリスの声がか細くなる。ふとその表情を見れば、涙目になっている。かつての光景を思い出して、恐ろしくなってしまったのだろうか。
リカルドは迷った。今すぐに、その身ぐるみを剥いで、己の欲望を叩きつけるつもりはなかった。ただ、抱きしめた時に分かる、体のしなやかさ、腰の細さを感じると、あわよくば悪戯をしてやりたいとは思っていたからだ。しかし、こうも怖いと言われると、それすらも難しいのかと。聖人になるしかないのかと考えざるを得ない。
ただ、聖人のように振る舞い続けることができるのかと言われるとそれは約束できないのが、心情である。昔話によくある姫と騎士の精神的愛。そんなものは幻想でしかないとリカルドは思っている。
「したくないとは言わない。正直に言えば、お前を俺のものにしたい」
「!」
「ただ、お前の意志を極力尊重したいとは思っている」
それがリカルドにできる最大の譲歩であった。
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