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第10話 出張パニック

 その日の夜はまた朱莉と Lezele に行って、朱莉の彼女の雪菜も合流して楽しい時間を過ごした。 「ただいまっと…」  誰も居ない部屋に一人で帰る寂しさよ…。 パチリと部屋の電気をつけてスーツを脱ぐ。 健吾からメールは…まだ来てない。何回確認しても来てない…。 電話もかかってきてない…。  何で?何かあったのかな? もう23時回ってるよ? もう就業時間外じゃん!夜ご飯に付き合ってたとしても、もうホテルには戻ってる時間でしょ?  よし。電話しよ! どっちにしてもいいでしょ? もうしてもいい時間だと思うし! トゥルルル…  無機質な着信を伝える音がする。 え…?出ない……いつもだったら、最低でも3コールで出てくれるのに…。 もしかして急病!?嘘っ!!健吾!! 『モシモシー?』  あ、出た…けど……この声誰の声? 『モシモシー?ドチラ様?』 「あ……の…?」 『ア、ケンゴは今シャワーしてるよ?』  え……?  ナニ?シャワーって???  バタンと扉の音がして遠くで健吾の声がした。 『コラ、勝手に出るなって!』  『だってー、ケンゴシャワー中だし、ン…イヤ…ン…』  ガサガサとシーツが擦れるような音がする。  え?ナニ?ナニコレ? オレ今何を聞かされてるの? 『ったく、もしもし…』 『ケンゴ……フフ…モットしてーー』  ーーー!!  手が震えてうまく携帯を握ることができない。ポトリとソファの上に落としてしまった。 同時にポトリポトリとフローリングに涙が落ちて小さな水溜りになっていく。 『ーーー?ーーー!!ーー!!!』  ……健吾が何か言ってるのかな? 聞こえないし聞きたくない。 イヤだ。 ソファの上の携帯にクッションを被せて聞こえないようにして、ズルズルとフローリングに腰を落とした。  えと…。 今朝出社するまではいつも通りだったよね? いつものラブラブ健吾だったよね? えーと、涙が止まらない…。 A県で…出張…浮気……?  頭をブンブン振る。 勘違い…と思いたいけど…。 さっきの…あの感じ…シャワーとか…。 あ、ダメだ…… 暗い……  ◇◇ チチッ  あ、朝かな?眩しいかな? ああ、準備しなくちゃ。シャワー…しなきゃ…。 朝ごはん…はいいや。お腹空いてないし。 「瑞穂っ!何その顔!?」 「ん?朱莉おはよー」 「明け方に健吾から連絡があっ」 「あ、オレちょっと急いでるから!ごめん!」  朱莉にも何か話したのかな? まぁいいや? はぁ、ヤル気出ないなぁ… 「さ・と・み・さぁーん♡今日のランチはご一緒しましょうよぅ〜」  ガバッと腕を絡められて豊満な胸をギュムッと押し付けてくる。 「あー、三島さん…」 「約束ですよぉ!では、お昼休憩でぇ♡」  はー。勢いがすごいなぁ…。 「瑞穂…何やってるのよ…」 「え?何?朱莉?」 「ランチ、三島と約束しちゃっていいの?」 「あー、そっか…めんどくさいな」 「理由つけて断ったら?」 「後から更にめんどくさそう…」 「確かに…、まあランチくらい、がんばって」  はぁ…。 これもそれも全て健吾の所為だ… 電話はくれない、メールはして来ない…浮気… 「ちょ、ちょっと!瑞穂!」 「ん?」  気付いたらボロボロと涙が溢れていた。 「あー、あれ?うん大丈夫だよ」 「はー。夜は開けといて。Lezeleで集合ね」 「……うん」  ◇◇ 「ってなワケー!!」  夜になって、Lezeleで朱莉と飲んでます! オレはお酒だいぶ弱い方だから、カクテル一杯でフワフワよ! 「…だけど、健吾は誤解だからって伝えてって言ってたよ?ていうか、携帯はどうしたの?」 「けーたい……。いえかな?」  昨日クッションの下に押し込んだまま…。 「健吾、瑞穂と連絡取れないって必死だったよ?」 「ふーんだ。いーんですー。健吾だってさーほかの誰かさんと一緒でさーふんだ」 「瑞穂君?大丈夫?」 「らいじょーぶなの!」 「カクテル一杯でコレってお得よね…」  皆の乾いた笑いが切ない…。 「でも、明日の夜サプライズしに行くんじゃなかったっけ?」 「あー、そーか、そーか。さぷらーいずしにいきまふ」 「もう…でも、ちゃんとその前に連絡しなさいよ?」 「はーい。んじゃかえりまーふ」 「マンションまで送るわ…」  ◇◇ 「あかりーありがとーばいばーい」  バタンとタクシーの扉が閉まり、ふと一人になると素面に戻ってしまう。 はぁ、と溜息を吐いてマンションのエントランスに入って行く。  「寂しい…」  エレベーターに乗り込んで部屋に向かう。 ヨタヨタと歩いて部屋の扉を開けて中に入ると、少しだけホッとした。  ソファにある携帯は怖くて手に取れない。 シャワーを浴びようと、ネクタイを外しながら風呂場へ向かった。  このマンション、単身者向けというよりは新婚や同棲カップル向けの賃貸だ。 ユニットではない大きめのバスタブ、部屋もゆったりした1LDK。18畳のリビングが自慢の部屋だ。  でも、健吾と瑞穂はバラバラに暮らしている。 そのうちちゃんと一緒に暮らしたいと話はしているが、お互いの家の事や仕事の事を考えると少し時間がかかりそうだ。  頭から熱めのシャワーを浴びる。 ふと、自分の萎えているモノを手に取っておもむろに扱いた。 「……っふ……んっ……」  クチクチと鈴口から音がしてきて少しずつ固くなるペニスを眺めて、手を止めた。 「……バッカみたい」  気付いたら涙が流れている。 はぁ…こんな時でも扱けば勃つんだよな…。 最近は健吾としかしてなかったから自分でなんて…健吾に言われて公開オナニーする時くらいだよね…。 それでも途中で健吾に触って欲しくておねだりして触ってもらって中まで……。  あぁ、思い出したら完勃ちだよ…。 前だけ触ってても最近イケないんだよね。後ろも触らないと…。こんな健吾仕様の身体で、これからどうしよう…。  あ、ダメだ。熱が篭っちゃった。 健吾健吾健吾健吾……  めちゃくちゃに前を扱いて後ろに指を突っ込んでグチャグチャに掻き回す。  あぁ…健吾…。  イケない…。  健吾が居ないとイケない身体になっちゃってるのに…。  何でここに健吾はいないの?

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