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第6話 死人花(3)

  ~咲夜視点~  天彦に会わないように自分の部屋で朝食を食べ、ごろごろとしていると社務所の玄関が騒がしくなった。  きっとお客様が来たのだろう  暫くすると、聞き覚えのある無骨な足音が部屋に近づいてくることが分かり思わずため息が出た。  今、天彦に会うのは正直嫌だ。  きっと苛々して喧嘩してしまう。  俺は最低限の会話をする事に意識して話す事に決めた。  「咲夜、起きてるか?」  「……起きてる」  「お客様が到着された、今優仁さんが対応してる」  「分かった」  俺は扉を開け、出来るだけ天彦を視界に入れないように応接室まで歩き始めた。  「……咲夜、さっきの事は済まなかった」  「…………」  「……俺がお前の気に障る事をしたんだろう、どうか許して欲しい」  「…………」  「……咲夜」  「言っただろ!儀式が終わるまで話しかけんな」  「……すまない」  それから天彦は黙って俺の後ろを静かに歩いた。  社務所の応接室の前に着くと、後ろにいた天彦がノックをして先に部屋へ入っていった。  部屋の中からは先に客の応対をしていた優仁さんと天彦、それから聞き慣れない男性の声が聞こえてきた。  会話が一通り終わると中から天彦が扉を開けた。  ただ部屋に入るのにこんなにめんどくさい工程を踏まなきゃいけないなんてつくづく俺の側にいる人は面倒くさそうだなと思う。  部屋に入るとそこには、優仁さんと見慣れない小柄な男性が頭を低くして出迎えた。  俺は軽く会釈をしてソファに座ると優仁さんと男性もソファに座った。  「宮司、こちら今回の依頼主の寒菊 忍(かんぎく しのぶ)さんです」  「ぐ、宮司……様、本日はお時間をいただきありがとうございます」  優仁さんから紹介を受けた寒菊というお客人は緊張した面持ちで再び深々と頭を下げた。  俺はお茶を一口飲み、それとなく寒菊さんを観察した。  少し草臥れたスーツに身を包み、緊張のせいか背中を少し丸め、俯いている。  少し長めの髪のせいで、俯いた顔の表情が読みにくい。しかし、先程一瞬見た限りでは、目の下にクマが出来ており、隠しきれない疲労を感じた。  そして一番気になった事は、首に着けているチョーカーだ。  スーツや時計は良くあるものだが、このチョーカーは市販の物じゃない。  「遥々、遠くからよくお越しくださいました、どうぞそんなに緊張なさらずに」  「は、はい!お、恐れ入ります……」  うーん、緊張を解けなかったみたい。    まぁ、今まで一度も成功してないけど。  俺は、優仁さんと、後ろにいる仏頂面の天彦に目配せすると天彦は少し眉を寄せて不機嫌な顔になったが二人とも部屋を出ていった。  急に2人っきりにされた寒菊さんは驚いたように目を見開いた。  「それでは改めまして、本日行う儀式の説明をいたします」  「は、はい……」  「ですがその前に、幾つか質問させてください」  「質問……ですか?」  「ええ、それ次第で儀式の内容が変わるかもしれませんので」  「儀式の内容が……ですか?」  「はい、あと質問の内容なんですが……かなり個人的な事をお聞きしますのでご了承ください」  「個人的……というと、具体的にはどのような事でしょうか」  「それは人によって異なりますね、好きな食べ物から家族構成、初恋の事など様々です、しかし……」  俺は1度目を伏せ、寒菊さんの首を見た。  「貴方の頸に『残っているもの』についてはお聞きします」  寒菊さんは今まで俯き気味だった顔をハッと上げ、とても驚いた、それでいて今にも泣きそうな顔をして俺を見た。  「どうですか、寒菊様……もし話したくないなら話さなくても結構です、ですが儀式は中止いたします」  その言葉を聞いた寒菊さんは眉間に皺を寄せ暫く考えた後に決意を込めた瞳で顔を上げた。  「いえ、何を聞かれてもお答えします……『これ』が無くなるなら」  そう言って寒菊さんはそっと首についたチョーカーを触った。

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