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 連れだってやってきたのは、旧校舎の裏側。  5月の陽光が木々のすき間から漏れて、キラキラしている。  ここに来るまでに2分ほど話したけど、普通に当然のごとく、頬が痛んでいないかの確認だった。  申し訳なくなるくらい謝られて、逆に楽器は大丈夫だったのかと聞いたら、「全然平気」と言ってふんわり笑った。  校舎を背もたれにして、並んで座る。  小宮くんは、おにぎりのフィルムをはがしながら言った。 「単刀直入に聞くね。あの、藤下くん、前田くんに告白したって本当?」 「……え、っと。まあ……告白っていうか、その、するつもりとかじゃなくて、流れで言う展開になっちゃっただけで……でも、はい。本当です」  何の質問だ。  ただ茶化すつもりならわざわざこんなところに呼ばないだろうし、そもそも、小宮くんがそんな幼稚なことをするはずがない。  裁判の判決を待つような気持ちでいると、小宮くんは、じっと俺の目を見た。 「実はね、僕も。僕も、男しか好きになんないタイプなんだ」 「え!?」  びっくりしすぎて、箸のケースを落とした。  そしてそのまま固まる。 「え、え……それって」 「うん。そう。ゲイ」 「いや……、だって、普通に女子と話したりしてますよね?」 「友達としては話すけど、恋愛感情とかは持ったことないよ。1回も」  嘘を言っているようには見えなかった。  澄んだ目でこちらを見ている。  しかし、だから何だというのだ。  小宮くんは、あむっとおにぎりをかじりながら言った。 「すごいよ、藤下くんは。好きな人に好きって言えるなんて。僕、周りにも誰にも言ってないし、好きな人に告白するなんて一生無理だと思うから。友達から藤下くんの噂を聞いて、どうしても話したくて」 「いや、全然……勇気とかじゃなくて。好きバレしちゃって仕方なく……」  言いながら、なんだか急に、泣けてきた。  昨晩は、あんなにぐるぐる考えながらも、ひと粒も涙が出なかったのに。  察したらしい小宮くんは、眉根を寄せて笑った。 「ほんとに好きだったんだね」  こくっとうなずいたら、いよいよ涙がこぼれてきた。  ぼろぼろ落ちる涙の粒を袖でぐいっと拭うと、小宮くんはそろっと手を伸ばしてきて、おっかなびっくりといった感じで、俺の背中をさすった。 「ごめん。嫌なこと言わせちゃった」  返事もできず、ぶんぶんと首を横に振る。  しかし小宮くんは、申し訳なさそうに続けた。 「ほんと、ごめんね。仲間を見つけたって勝手に舞い上がっちゃって、藤下くんの気持ちなんか全然考えてなくて。ごめん。傷つけた」 「違くて……すいません、勝手に泣いてるだけなんで……」  言いながらも涙が止まらない。  こんな、人前で、しかもよく知らない人の前で、ようやく失恋を噛みしめるなんて。  みっともなくズルズルと鼻をすすりながら、自分の感情が落ち着くのを待つ。  小宮くんは、ポケットティッシュを2枚取って、渡してくれた。 「あの、答えたくなかったらいいんだけど、ひとつ質問してもいい?」  鼻をすすりながらうなずく。 「前田くんと、気まずくなっちゃった?」 「はい。全然話してないし、目も見てくれないし、完全に無視されてます」  元々陰キャで、友達は少ない。  3人に見放されたらもう、友達と呼べる人なんてひとりもいなかった。  小宮くんは、ほんの少し緊張した感じの表情で、俺に尋ねた。 「あの、もし良ければ、明日からも一緒にお昼食べない? ここで」 「え!? いや、そんなことしたら小宮くんが変な噂立っちゃいますよ。俺とふたりきりなんて」 「ううん、そういうのは気にしない」  コホンと咳払いした小宮くんは、首をかしげてもう1度尋ねる。 「藤下くんと、話したい。その、ほんとに、こういう話できる人っていなくて……孤独感があったから」  孤独?  いつも友達に囲まれて、バンドもやってさわやかに青春をしていそうな、小宮くんが?  何と答えていいか分からずもごもごしていると、小宮くんは、眉尻を下げて笑った。 「ごめん、また困らせちゃった」 「いや、謝んないでください。あの、ちょっと混乱してただけなんで。えっと、お昼食べるのはいいんですけど、その、本当に小宮くんが心配って言うか」 「なんで?」 「いや、絶対変な噂立つじゃないですか。だって、いままで頑張って隠してきたんですよね?」  小宮くんは、「うーん」と言って少し首をひねったあと、さっぱりとした表情で答えた。 「もし噂が立って、それで離れていくような人がいたら、それは元々友達じゃなかったのかも。って思う」  陽キャの考え方だと思った。  友達の代わりがいくらでもいるから、無邪気にそんなことが信じられるんだ。  そう思うのに、心が衰弱していた俺はつい、「明日もお願いします」と答えてしまった。

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