16 / 51
2-7
軽音部に入って、2週間が過ぎた。
寝ても覚めてもギターのことを考えていて、朝起きてギター、昼休みには達紀とご飯を食べてギター、夜寝る前のYouTubeはやめてギター。
こんなに何かに没頭するなんて、初めてだった。
そして、祐司のことを全く思い出さなくなっていたことに気がついたのが、ついさっきのこと。
お風呂に入っていて、ふと、『そういえば』くらいの感じで思い出したのだ。
あんなに四六時中、何につけても祐司と結びつけて考えてしまって、苦しんでいたのに。
本当に本当に、2週間、一切思い出さなかった。
次、達紀とふたりで会うことがあったら、このことを言いたいなと思った。
思いの丈を伝えれば、後ろめたいことは何もなく、達紀と付き合えるかも知れない。
現にもう、達紀がいて、バンドがあれば、あとは何でもいいやという感じにはなっている。
お風呂から上がって、部屋でまたギターの練習をしていたら、ふと、達紀との会話を思い出してしまった。
――藤下くんは、男役と女役、どっち派?
「う……」
達紀の裸を思い浮かべてしまって、これはもう、完全に邪念だ。
練習に障るので、考えないようにする。
しかし。
――僕はいつも、する側で想像してる
ギターに、当たってはいけないものが当たりそう。
なんかそれはダメな気がして、慌ててギターをスタンドに戻した。
そして、頭を冷やすべく、ぼふっとベッドに倒れ込む。
まだ付き合ってもいないのに、そういうことを想像するのは、良くない。
自分から待ってくれと言ったくせに、達紀に失礼だし、そんな変態みたいなことを考える自分はダメだと思う。
……そう思うのに、ぼんやりと達紀の裸が思い浮かんで、そしたら、完全に勃起してしまった。
「ぁぅ……」
どうやったらおさまるか。
一生懸命深呼吸をしてやり過ごそうとするのに、うまくいかない。
とりあえず抜けばおさまるかと思い、達紀のことは一切考えないようにして、いつも見ている無料動画サイトを開いた。
しかし、ずらりと並んだサムネイルは全然頭に入ってこなくて、達紀のことばかり考えてしまい、下がずくずくとうずく。
なんでだろ。
いままで全然、そんなこと想像したことなかったのに。
――僕はいつも、する側で想像してる
達紀も、部屋でひとりでズボンを脱いで、男の裸を想像したりネットで見ながら、してるんだろうか。
あんなさわやかな感じだけど、しないわけないし、してるんだと思う。
あの達紀が……と思ったら、どんどん興奮してきてしまって、考えるのが止まらない。
どんな表情なんだろう。
眉間にしわを寄せて、呼吸を乱して、こすって感じているんだろうか。
あのきれいな長い指で、自分のものを上下して……。
「ぁ、ぁ……っ」
我慢できなくて、ズボンの中で射精してしまった。
全然、触ってもいないのに。
頭が冷えてくると、途端、罪悪感が芽生えて、憂鬱な気持ちになった。
仕方なくそっと洗面所に行き、汚れた下着を洗う。
2週間ぶりに、祐司と達紀を比べる。
ただし、苦しむわけじゃなくて。
祐司には感じなかった、よりリアルな性のことを、達紀には求めてしまう。
やはり、ゲイだと分かっているからだろうか。
それとも、好きだと言ってくれていて、いつかはそうなるかも知れないと思っているからだろうか。
ちゃんと告白するとか、そういうのをすっ飛ばして失礼すぎる想像をした挙げ句、その妄想だけで暴発しちゃったなんて。
情けないったらありゃしない、と思う。
ともだちにシェアしよう!