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 ぐりぐりと、主張する股間を押しつけられる。 「やだぁッ」  大声を出したら、首を絞められた。 「ケホッ……コホ……ッ、ぅ」 「無駄な抵抗すんな」  脅されても逃げるしかないから、また暴れる。  そして首を絞められる。 「…………ぅぐ、離……」  苦しくて、必死に手を剥がそうとしても、全然力が入らない。  何度もギリギリのところまで絞められて、ついに耐えきれずに脱力したら、笹田くんはニィッと笑った。  そして、自分のズボンのベルトを外し始める。  ガチャガチャという音を聞くうち、逃げるならいましかないと思った。  フーッフーッと、動物みたいに荒い息を吐く笹田くんが、ズボンを脱ぐべく腰をちょっと浮かせた瞬間、体をよじって抜け出した。 「ふざっけんな殺すぞっ!」  投げつけられたものがモロに後頭部に当たって、一瞬視界がグラつく。  しかしなんとかドアのところにたどりついて、ドアノブをひねろうとした……けど、開かない。 「バーカ」  笑いながらにじり寄ってくる。  後ずさりしたら、左手にスマホが当たった。  バレないようにたぐりよせ、体で隠して操作する。  チラチラ見てはバレるので、ちゃんと押せているかの確認ができない。  できていると信じて、連絡先の1番上になっているはずの達紀の番号をタップした。  その瞬間、笹田くんが飛びかかってきて、再び胸ぐらを掴まれたまま壁に叩きつけられた。 「……っ」 「気持ちいいことしよ? 藤下だって興味あるだろ? 挿れてやるから」 「やだっ」  泣きながら抵抗して前蹴りをしたら、棚から何かが落ちた。  パカッと開いた箱から、電子音のメロディが流れ出す。 「痛った……。まだ嫌がんの? 気持ちいいって言ってんじゃん」 「……ぐぅ……」  首を絞められ、徐々に酸素が足りなくなり、ぐったりとする。  遠くの方で非現実的なハッピーバースデーが流れていて、本能的に、『もうヤられちゃうのかな』と思った。  何度か顔を叩かれて、完全に心が折れた。  ドサッと床に倒れると、笹田くんは、興奮した感じで何かを言いながら、箱の中のストップウォッチを手に取った。  そしてその紐で、俺の手首を拘束する。 「どういうのがいい?」 「……ひどくしないで。言うこと聞くから」  どうせされてしまうのなら、下手に抵抗して痛めつけられるよりは、受け入れてしまった方がいい気がした。  うっすら目を開けて、力なく笹田くんの顔を見る。 「やべ。その表情、めちゃくちゃゾクゾクする。なあ、ほんとはして欲しいんだろ? チンコ期待してるって顔に書いてある」  血が止まるのではというくらいぎゅうぎゅうに手首を結ばれて、もう、抵抗のしようがない。  あきらめて目を閉じると、笹田くんの手が俺のズボンのベルトに伸びた。 ……と思った、その時。 ――ガシャーンッ!  ドアが吹っ飛ぶように開いて、怒鳴り声が聞こえた。  起き上がれないし、朦朧としているし、聞いたこともないような怒声だけど、達紀だなと思った。  多分、乱闘。  ふたりの怒鳴り声と、殴る蹴る、物を叩きつける音が響く。  目の端に、どちらかの体が吹っ飛んだのが見えた。 「あおっ、あお! しっかりして」 「ん……」  駆け寄ってきたのは達紀。  ぶっ飛ばされたのは笹田くんの方だったらしい。  きつく縛られていた手首の紐がほどかれ、抱き上げられたけど、力が入らない。  そのまま達紀にもたれかかる。  ちょっとだけ顔を傾けて薄目を開けると、部屋の隅に、笹田くんがうずくまって倒れているのが見えた。  しかし達紀は、それをチラリとも見ない。  俺の頭をひとなでしてから、鳴りっぱなしになっていたオルゴールを拾い上げ、ふたを閉じた。 「ここね、元々サッカー部の部室なの。これは、先輩の誕生日に、みんなでノリで買ったやつ。ちょっと許せないなあ」  低い声でつぶやいた達紀は、片腕で軽々と俺を担ぎ、空いた手で俺の鞄を拾った。 「本当に、死ねばいいと思うよ。……お前みたいなのはなぁッ!」  オルゴールを笹田くんの顔に向かって思い切り蹴り飛ばし、部屋を出た。  旧校舎裏、お弁当の定位置に降ろされて、俺は静かに目を閉じた。 「平気? 痛いとか、気持ち悪いとか。保健室行く?」  力なく、ふるふると首を横に振る。  何があったかなんて先生には絶対話したくないし、達紀は思いっきりドアを壊しているので、多分怒られる。  相手の人も何も言わないだろうから、このままなかったことにするのが1番だと思った。 「……何された?」 「叩かれたり首締められたり」  手短に答えて、重たいまぶたを開ける。  達紀は、泣きそうな表情で俺の顔を覗き込んでいて、そして、そっと抱きしめてくれた。 「怖い思いしたね。一緒に帰ればよかった。ごめんね」 「謝んないで」  達紀は、痛ましげな表情で、俺の首筋をなでる。 「締め痕、ひどい。苦しかったでしょ」 「……殺されるかもとは思ったかな」  フラッシュバックのように思い出して、思わず吐きそうになる。  すんでのところでとどまったけど、達紀は何度も背中をさすりながら、「吐いて楽になるなら吐いちゃって」と言った。  はぁはぁと短く呼吸して、吐き気をおさめる。  達紀は、子供にするみたいに、俺の頭をなでた。 「もし、嫌じゃなかったら……何があったのか教えて?」  自分のバカさを披露するだけだった。  なんにも考えずに、誰も来ない密室についていくなんて。  それでも達紀は、苦しそうな表情で俺の話を最後まで聞いてくれた。 「達紀、来てくれてよかった」 「電子オルゴールの音が鳴ってたから、前の部室だってすぐ分かったよ」  達紀は俺の頬に触れて、親指でするするとなでた。 「体、触られた?」 「触られてない。ひたすら暴力で、気力を削がれてる最中だったから」  もうあきらめようとしてたけど。  そう付け足したら、達紀は、長く長くため息をついた。 「……あおが誰かに取られる前に、欲しい」 「え?」 「もし、あおの初めてが誰かに奪われちゃったら、僕、耐えられないと思って。だから、勝手を承知で言うけど……したい」

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