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第三章 第6話
白い清潔なシーツに横たわった彼に、ついいつもの習慣でキスをしようとした。
が、思い返す。娼婦は「身体を許してもキスは許さないものだ」とどこかで読んだ記憶がある。今彼を抱くのは純粋な愛情ではない。
今までのキスは都合よく忘れることにして彼を快楽の深淵まで連れて行き、香川教授が涙を流して自分を欲した時に、一番引っかかっている長岡先生との結婚について白状させたかった。
肌触りからして高級そうなネクタイを取り去って、手をとって上半身を起こさせてスーツをいったん脱がせた。こちらも肌触りもとても良かった。恐らくは高級ブランド品だろう。
――俗物だな――
強いて自分に言い聞かせた。
ワイシャツを脱がせた彼の素肌は白くて先ほど触ったシルクのネクタイより触り心地がよい。
溺れてしまう肌触りだったが、「これは手段でしか過ぎない」と常に心に明記していないと、かつて付き合っていた男性よりも極上の身体の持ち主だと触れた感触で分かったので、必死に自制した。
いつものように愛し合った人間がするセックスではないと忘れてしまいそうになる。
脱がされている間は、香川教授な目を瞑り何かを耐えているような風情だった。
再びスーツの上だけを着せかけた。ボタンは嵌めない。それから奪ったネクタイで後ろ手に手首を縛った。鬱血が出ないように最新の注意は払ったが、彼が暴れるのなら保証の限りではない。
手首を縛られた時点で香川教授が目を開き、驚いたように瞳を覗き込む。
その顔に僅かな恐怖が宿っているのを見て内心ほくそえんだ。
「満足したいのでしょう。それなら私に従って頂きますよ」
口角を上げて宣告する。
上半身に纏う物はスーツだけというのも、彼のスーツが高級ブランドの常である色彩表現の難しさで、祐樹には何色なのかは判断出来ないが、茶色が少し混ざった黒いスーツを着ていた。その黒さと、裸体の白さと艶かしさが絶妙のコントラストを描く。
香川教授の髪の毛は、奇しくもスーツと同じような色をしている。黒で隠されている肢体が艶かしい。
祐樹はもとより自分の服を脱ぐつもりはなかった。
後ろ手に縛られた香川教授は切れ長の鋭い瞳――まるで視線で人が殺せるものなら殺したいというような――で睨みつけてくる。その目は少し潤んではいたが。
白い肌が露出している箇所を唇でなぞり、舌で愛撫する。皮膚が薄い箇所が感じると分かっているので、耳の後ろを丁寧に舐めたのちに軽く歯を立てる。
すると、彼の細身の身体に痙攣が走りそうになるが、懸命に堪えているのだろう。鳥肌が立っただけだった。
首筋に舌を下ろし、きつく噛んだ。ワザときちんとネクタイを締めていても分かる位置に…。
「そこは…」
言いかけた彼の言葉を遮る。
「ここだからキスマークをつけるんです。それに足に不自然に力が入ってる。感じているんでしょう?」
意地悪く言うと、図星だったのか、紅色の薄い唇を悔しげに噛んでいた。
スーツに半分隠れた胸の赤味を味わいたくて、少し服を開ける。赤というよりは薄い桜色の突起だった。が、周囲の肌は鳥肌が立ち、その部分も存在を主張している。
まず舌先を丸めてそこを重点的にもっと難くなるようにし、左の突起は二本の指でそそり立てるように愛撫を加える。
何分間、そうしていたのかは分からないが、その舌触りと指に感じるいつまでも触っていたい感触を楽しんでいた。次第に紅く充血し尖りを増してくる。
もちろん、彼の表情の変化をずっと観察していた。次第に呼吸が早くなり肌も上気してうっすらと汗を浮かべる様子を。
「おや、ここは満足されているようですが…」
揶揄めいた口調で言う。
香川教授は唇を噛みしめるだけだった。
その部分で感じるということは、男と交渉を持ったことがある疑念の一つにはなった。
女性を相手にする場合、女性はその場所を普通は触らないと聞いたり読んだりしていた。
――それならば、少しは手荒に扱ってもいい――
自分勝手な判断をする。胸を触っていた手を身体のラインに沿って下に滑らせる。
わき腹は意外と感じる。そこを触っていると、香川教授は短く吐息を吐いた。我慢出来ないというように。
スラックスの中心部を触ると、そこはもう反応していた。
普通、酔いが冷め切っていない――と判断する材料は乏しいのだが――場合、感度も悪くなる。が、中心で存在を主張しているものをスラックス越しに輪郭を辿った。
「ここも、かなり満足しているみたいですね…」
香川教授お得意の冷笑を自分もやってみた。
彼は唇を噛んで横を向いたが、ホテルのおぼろげな照明でもはっきりと分かるほど、頬は紅色に上気していた。
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