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第五章 第3話

 乳液を自分のモノにも充分滴らせてからフト気付く。そういえばコンドームの用意がない。今まではセックスの際にそれを装着しなかった経験はなかった。性病のリスクは回避しなければならない。HIVに感染してしまったら医師としての生命までが絶たれる恐れもある。  香川教授はそれほど経験値が高いとは思えなかったが、経験が皆無というわけでもないのは分かっていた。 「教授、メディカルチェックは当然受けてますよね?」  今までの揶揄交じりの低い声音から一変して、真剣な声で聞く。その口調の変化が分かったのか、ベッドに埋めていた顔を上げて不審そうな顔をしている、瞳は潤んでいたし、頬はこれ以上ないほど紅潮していたが。 「ああ。全部受けているが…?」 「で、異常ナシと?」 「どうして、そんなことを聞く?」  静謐な声だった。全てを受け入れようという覚悟を決めたような…。 「男と寝るのは初めてではありませんよね?」  確信を込めて断言すると、何も言わず目を逸らす。 「では、言いたいことも分かりますよね?これからするコトも…」 「何も感染していない。それよりゆ…君はどうなんだ?」  ヤケになったような早口で聞いてくる。 「俺…いや…私がそんなヘマをするとお思いですか?ちゃんといつもは装着してますよ。それにちゃんと検査は受けてます」  ナゼか教授が溜め息を漏らした。悦んでいるかのような溜め息だった。  散々指で悪戯をした箇所に切っ先を当てると、咽喉声を漏らす。 「この…姿勢…辛い…」  ずっと腰を上げ、脚を限界まで開かせていたことに今更ながらに気付く。どうも彼を前にすると理性や配慮が飛んでしまう。 「では、教授、うつ伏せになって、腰を高く上げて下さい。出来るでしょう?充分満足させますから」  この方が羞恥心は募るが身体は楽なハズだ。彼は一瞬躊躇したが、思い切りは良いようだった。ゆっくりとだが、言われた通りに身体を反転させる。  切っ先を彼の蕾に当てた。先ほど指で散々悪さをしたせいか、彼の内部は待ち構えていたような動きを見せ、しなやかに内壁に引き込もうとする。が、やはり先端部分が一番大きい。引き込む動きとは裏腹に、苦しそうな声を上げている。首筋や背中も大粒の汗の珠が浮かんでいる。 「ああ、唇は噛まないで。ゆっくり息を吐いて身体の力を抜くんです。出来ますか?」  そう言いながら宥めるように彼の戒めたモノの先端をクルクルと愛撫する。と同時にジャケットに辛うじて隠されている胸の突起を探し出し、手に乳液を出して滑りを良くしてから、胸の尖りの回りも含めて揉み込むようにする。  二つの甘い攻めに、息を吐いて身体の力が抜ける。その機会を見逃さず、前立腺を自分のモノで擦った。 「あっ、祐樹…ソコ…気持ち…いい…っ」  多分無意識なのだろうが、意地悪く前立腺から少し離れた場所を突くと、腰をうごめかす。 「祐樹、頼むから…解いてくれ…」  欲情に湿った声につい、ほだされた。  ネクタイを外すと同時に今まで以上の力で前立腺を抉った。 「ああっ。もう…っ…ダメっ」  切羽詰った声と息遣い。それと同時に彼の身体が弛緩した。が、依然として内壁は熱く、自身を締め付ける力も変わりがない。  情け容赦なく、奥まで挿入する。繋がっている腰の高さは変わりがないが、力が入らないらしい。肩で体重を支えて、苦しげな息をしている。が、抵抗は一切なかった。  彼に対するわだかまりが消えたわけではなかったが、流石に気の毒になって、身体を反転させる。教授の内部に自身を挿入したまま。違った摩擦に感じたのだろう。扇情的な咽喉声が漏れる。   正面から抱き合って教授の顔を見た。絶頂を極めたさぞかし色っぽい顔をしていると思いきや、彼の顔は悲しみの色が有った。 「どうしました?良くなかったですか?」 「いや、良かった。頭が真っ白になった…だが嫌なことも思い出してしまった」 ――嫌なこと?セックスに対することか――と思った。 「どんなことですか?もしかしてコレのことですか?」  そう言って抱き合ったまま、彼の内壁を緩やかに抉る。 「そんなことじゃない…祐樹に抱かれて、意地悪なことも沢山言われた。私に含むところがあることは分かっている。だが、仕事では、手術の邪魔をしないで…欲しい。寝室ではともかくっ、職場では…」  職場で嫌がらせをしようとは毛の先ほども思わなかった。医局の中がゴタゴタしていることは知っていた。明日、いや、もう今日だ。第一助手として手術のスタッフとして入ることを教授は言っているのだろうか?意地悪なことをたくさん言ったのは、彼の分身が、言えば言うほど感じていることが分かったからだ。   だが口には出さない。 「教授の手術のお手伝いこそ望むところですが、邪魔などしませんよ。仕事とプライベートは分けていると『グレイス』で聞きませんでしたか?」  優しく囁いてから、彼の熱く少し脹れた前立腺を擦ることに熱中する。祐樹の言葉を聞いて心底安堵したのか、教授は祐樹のスーツの背中に腕を回してくる。 「ココだけで満足ですか。教授。満足ならずっとこのままです」 「っ…奥まで…欲しい」  あるかなきかの声で懇願された。自分もそろそろ限界が来そうだった。彼の内部は潔癖そうな外見と異なり貪欲に男を惹き込む熱を帯びている。一気に奥まで貫いた。  が、やはり初心者にとっては酷だったのだろう。祐樹の背中に回した手が縋るように上着を握る。苦笑して腕を掴み自分の両の掌と彼の掌を密着させた。   それから彼の内壁を心行くまで蹂躙する。つなぎ合わせた手が気持ちを溶かしたのか、彼も腰を密着させていた。二人の腹部に当っている教授のモノは先ほどの戒めで育ったよりも、更に大きくなっていた。満足してはいるのだな…と思う。  自分も限界が近い。 「中に出して構いませんか、教授」  その返事は艶っぽい咽喉声で言われた。 「構わない…中に…思いっきり注いでくれ」  その言葉に、教授自身をねっとりと愛撫し、彼が白濁を零すのを確かめてから内部に欲望を注ぎ込んだ。その感触が余程良かったのか、全身が痙攣している。ズルリと引き出すと名残惜しげに吐息を零した。 「良かったですよ、とても。ゆっくりお休み下さい。ところで満足しましたか?」  そう言って、彼の睫毛に口付けた。返事は控えめな頷きで返された。そこは緩やかな性感帯だ。抱き締めて交互の睫毛に唇を落としているとどうやら眠りに落ちたらしい。

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