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第五章 第4話

 祐樹はふと、枕元の時計を見る。午前1時と表記されていた。明日は教授も自分も手術が有る。7時半にこのホテルを出れば出勤時間には間に合うだろう。念のため、携帯電話からネットに繋ぎ、電車の時刻を確かめた。この部屋にはパソコンはなかった。7時半なら余裕で間に合う。  教授は感じすぎたのか、それとも睡眠不足だったのか、良く眠っているようだ。  クラブフロアの短縮番号を叩き、6時半にモーニングコールを頼んだ。  すると、「電話で宜しいですか?それともお部屋にノックに参りましょうか」と聞かれた。  自分に取っても久しぶりのセックスだった。教授は多分もっと久しぶりのような感触だった。  二人揃って寝過ごしては手術を待っている患者さんにも申し訳が立たない。 「両方お願いします」  そう言って電話を切った。  部屋の片一方のベッドは情事の激しさを物語るようにシーツは乱れている上に自分達が零したモノでぐちゃぐちゃだった。  せめて教授が安眠出来るようにそっともう片方のベッドに抱き上げて移すと、バスルームに行き、お湯に浸したタオルを持って教授の身体をざっと拭く。余程眠りが深いのか、身体を持ち上げてベッドを移動させても目覚める気配はなかった。  白い飛沫が飛んだところを丁寧に拭った。  自分のモノを銜えたところは、敢えて拭かないで置いた。  バスローブに着替えてから――何となくシャワーを浴びる気持ちにはなれなかった――同じベッドに自分も横たわった。  体温が恋しいのだろうか、幾分細身の全裸の肢体を――眠っているから当然だが――無防備に近寄せてくる。  閉じた長い睫毛と眠ると年よりも幾分幼く見える顔を見詰めながら眠りに落ちた。 「田中先生、起きろ」  いつもと変わらない少し高圧的な声で目覚めた。が、全裸のままだった。昨夜の甘えた調子が嘘のようだった。 「今、何時ですか?」  救急外来に行かされてから寝不足には慣れている。覚醒も早くなった。 「4時半だ…」  せめて、あと30分は眠りたかった。モーニングコールも6時半に頼んであるというのに… 「ざっと一応は身体拭いましたが…肝心なアソコはそのままですから…洗い流して来ては如何ですか?」  意味ありげに視線を動かし、起こされた恨みも込めて昨日自分が貫いた場所を指で探るように触る。案の定、ソコは昨夜の情事の激しさを物語るかのように濡れていた。  怒ったような顔をした教授は、ヤケを起こしたように幾分乱暴にベッドを降り、浴室に消えた。バスタブにお湯を張っている音がする。そしてシャワーを使う音も。  綺麗で淫らな身体だったな…。昨夜のことを思うと、悪戯心が湧いた。シャワーの水音が終ってから浴室に入っていく。幸いなことに鍵は掛かってなかった。  バスタブの中に居た教授が慌てたようにこちらを見た。バスソルトでオレンジ色に染まった湯に浸かっている身体が悩ましい。  洗面台のところに立ったままバスローブを脱いだ。洗面台とバスタブとトイレはコンパクトにまとめられており、白を基調にした作りだった。シャワーブースだけがガラス張りで独立している。 「そう言えば、私もまだ汗を流していないんです。浴槽は広いから…男二人でも余裕ですよね」  強い口調で言い切ると、諦めたように吐息を吐いた香川教授は、バスタブの栓を抜きお湯を少し減らす。どうやら一緒に浴槽には入れてくれるらしい。 「ほら立って下さい。どう考えても私が教授を抱きかかえる方が…負担が少ないでしょ…」  一瞬唇を噛んだが、それもそうだと思ったのか湯を零さないように静かに立ち上がる。良い匂いのする身体を抱き締めて、手を下半身へとずらしながら耳元で低く囁く。 「自分でちゃんと掻き出せましたか」  その言葉に身体を強張らせたが、強気な瞳で見返して来る。 「ああ、心配には及ばない」 「そうですか…それは残念なような、良かったような…」  そう言ってウエストを持ち、浴槽に誘い込む。自分が下になり、教授も湯に浸したかったので仰向けにさせた。室温は快適だったが、湯に浸かる方が疲労回復にはなるだろう。自分自身が教授の蕾に触れる。  挿れたかったが、昨夜のコトでかなりのダメージを受けているだろうな…と自重した。その代わり胸の尖りをそれぞれの手で挟んで悪戯をした。小さなそれはとても触り心地が良い。  彼も感じるのか、シャンプー後の濡れた髪を左右に揺らす。  湯を浴びるのもそこそこに浴室から出た。お互いバスローブ姿だった。乱れた寝室を見て、気まずげに目を逸らしたのは教授の方だった。 「あっ」  重大なことに気付いたように声を上げたのも。 「どうしました?」 「服が…ないじゃないか」 「ああ、そうでしたね」 「何を呑気なことを言っている?」  眉を顰めて語気を強める教授を軽くいなした。 「昨日、気付きました。ほらこのサービス…」  そう言ってランドリーサービスの案内書を見せた。一時間で完了するサービスだ。 「早速手配しますから…。それとその間にルームサービスを取りましょう。嫌いなものは有りますか?」  テキパキと言うと毒気を抜かれたように呟く。 「特にはない。皆任せる…」  電話で指示を出した。衣類は全て預け、クリーニングを待つ間に朝食が届く。その間は当然バスローブだ。  オムレツを食べていると、コーヒーを飲んでいた教授が呟いた。 「昨日、チェックインした場所でも朝食が摂れるとホテルの人が言っていたな…」 「ええ、言ってましたね」 「ちらりとしか見なかったが、この窓とは違って大阪平野が全て見えるようだ…な。大阪城も見えるのだろうか?」 「多分、見えると思いますよ。何せこの高さですから…」 「そっちで食べたかった…」  意外と子供っぽい部分もあると内心で苦笑した。  関西で育った人間なのに、大阪城が見たいとは。彼と一緒に居ると意外性が次々と露わになってくるのが興味深かった。 「では、今度、着替えを持って泊りに来ませんか?」  何気なく言った言葉に、リチャード・ジノリのコーヒーカップを持った手が神経質に震えた。この人は時々こういう動作をするな…と思って見ていた。瞳は相変わらず強気な光を宿していたが。 「…今度があるの…か?」   語尾が微かに震えている。 「教授さえ宜しければ、ですが」

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