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第八章 第21話

 上半身に何も纏うものがなくなると、教授は潤んだ瞳でベッドに横たわっている祐樹を見やった。 「聡、綺麗だ。鎖骨上の花びら…もっと咲かせたくなる。それに胸の薄いピンクの小さな尖りは、もっと硬くしたくなる…」  煽るように言うと、彼の繊細で端整な顔がより一層紅く染まる。 「……下も、脱ぐのか?」 「もちろんです。」  彼の唇は欲情のために半ば開いている。先ほど噛み締めたせいか、唇がいつもよりも紅いのが扇情的だ。だが、依然として口角が上がっているので彼の端整なイメージはそのままだった。  靴を脱ぎ捨て、靴下も脱いだ。その後、真っ直ぐ立ち、ベルトの金具に手を掛けた。手が震えているために金具はすんなり外れず、金属音を立てている。見かねて手伝おうとしたが、彼が自分でするのを見たかった。  その方が彼の愛情を確認出来る確かなよすがに思える。祐樹が彼を特別に想っているように、彼も自分を特別な存在だと想ってくれていることは分かったが、どの程度かが分からない。しかも、口に出して聞くのはとてつもなく勇気が必要だった、自分に取っては。    金具を外すことのやっとのことで成功すると、スラックスの留め金に手を掛けた。こちらはすんなりと外れた。だが、ジッパーを下ろす段になって、羞恥心に耐えかねたような声がする。 「祐樹、下ろせない…」  彼の下半身は形状を変えており、それで普段なら難なく下ろせるものも下ろせなくなったのだろう。それほど欲情されるのは望外の悦びだ。 「前かがみになったら…大丈夫ですよ」  背筋を伸ばしたまま祐樹のアドバイスに従っている彼の様子は凛々しくすらあった。  はらりとスラックスも床に落とす。  最後の布に手を掛けて、しばらく祐樹を恨むように見詰めるが、潤みきった瞳ではこちらの劣情を煽るだけだ。 「さあ、何も着けてない聡を見せて」  低い声と鋭い視線で促した。  一瞬、キツい瞳の光を祐樹に向けたが、言うがままにしてくれた。  部分的には彼の裸体を見てきたが、全裸は初めてだ。思わずベッドから半身を起こして観賞する。 「やはり鎖骨のラインが綺麗ですね。おや、先ほどよりも薄桃色の胸の尖りが増しているのは気のせいですか?」 「祐樹の…気の…せいだ」  濡れた声で即答されたが説得力は全くない。  教授は全裸で立ったまま祐樹の視線に耐えている。羞恥心からだろう…唇を噛み締めたまま。  彼の背後には落ち着いた色の壁と絵画が掛かっている。その横には茶色のライティングデスクがある。そんな日常の空間の中に肌に何も纏っていない彼のしなやかで白い姿はとても対照的でエロチックだ。オレンジ色の照明が当たっていても、彼の白い肢体は何故か白い光を放っているように見える。 「綺麗な身体ですね。ウエストラインも細いのに男性的だ。脚もしなやかで長い」  ワザと肝心な部分の論評を避ける。ウエストは男性でも女性のように円柱の形をしている人間は意外と多い。教授のそれはしっかりと長方形の立体だった。脚も真っ直ぐで綺麗に伸びている。  伏せた長い睫毛を震わせて――おそらくは羞恥心と欲望を隠すためだろう――教授はじっと祐樹の声を聞いていた。 「おや、重力に逆らっているものがありますが…それは何故?」  分かりきっていることを言葉に出して聞く。 「しかも、先端からは蜜が溢れていますよ…」  睫毛を震わせて教授は祐樹の瞳を見た。 「祐樹が恥ずかしいことを…言う…からっ」  正論だと思ったが、決して本音は口に出さない。 「他人のせいにする人は、お仕置き…します…よ」  そう言って着衣のままベッドから起き上がり、バスルームに入った。目当ては白いローションだ。  そのビンを持って祐樹が出て来ると、教授の身体がぶるりと震えた。おそらく挿入の期待からだろう。 「あいにくですが、これはお仕置きです。ほら、その机に手を付いて下さい」 「何を?」 「さあ?」  はぐらかすと彼の身体の震えが酷くなったので…宥めるために口付けを施す。噛み締めた時に切ってしまったのだろう、血の味がした。 「ああ、切ってしまったのですね。唾液で消毒しましょうね」  そう言って、唇を舌でなぞる。彼は全裸、祐樹はスーツ姿だ。貪った唇を名残惜しげに離すと二人の唇の間に銀の糸が掛かる。  口付けのせいか、彼の身体の震えは止まっている。彼の細い両手首を掴んで机に誘導した。  両手でしっかり机をつかませると、彼の秘密の場所が見えやすくなる。 「これから、聡の淫らで貪欲な部分を見させて貰いますよ。それにしても白くて滑らかな肌ですね。まるで吸い付くような手触りだ」  机に顔を伏せているため彼の表情は見えない。それが惜しくて言ってみた。 「顔を見せて下さい」  その言葉に机に片方だけ上気した頬を付けて、半分だけ見えるようにしてくれる。 「聡、よく出来ました」  頬を撫でる。瞳は涙の粒が出来そうなほど潤みきっていた。呼吸も熱い。 「ああ、白い双丘の内部は何色なのでしょうね…」  掌にローションを落とすと、彼の蕾を見るべく左右に割り開いた。 「恥ずかしい…から、見ないで…くれ」 「それではお仕置きにならないでしょう?」  敢えて冷静な口調で言うが、内心は綺麗な人を暴きたいという欲望で煮えたぎるようだった。

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