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第九章 第4話

 つい、本能のままに口走ってしまったと後悔していると、彼は心から嬉しそうな笑顔で唇を近づけて来る。  以前、祐樹が教えた方法――目を開いたまま唇に近付くと、吐息のかかるところまで来た時に目を瞑る――というキスをする前に言った。 「祐樹がしたいのなら…私は嬉しい」  そう言って唇を重ねた。多分、思ったことをそのまま告げているのだろうが、殺し文句が上手い人だ…と感じた。  彼は目を閉じているが、祐樹は間近にある彼の顔を見たくて目を開けたまま顔を凝視していた。  今朝の彼の顔は――以前から祐樹好みの顔をしてはいたが――いつもとはどこか違う。どう違うのか考えていると、彼の舌が祐樹の唇を舐めて来る。 ――格段に性技が進歩している――  そうさせたのは祐樹だと思うと、自然に笑みがわいてくる。彼の望み通り舌を絡めあう。  彼のシルクの内壁が祐樹自身と密着して唇の動きに合わせてゆっくりと動いている。彼の中の天国を心行くまで堪能したかったが…教授の変化について考えてみたかった。  表情を観察していてやっと気付いた。昨夜までは綺麗は綺麗だったが、水分の通っていない、一流の芸術家が作った造花のような美しさだった。今日の彼は水分が充分行き渡った瑞々しい生花のような美しさを纏っている。  ふと視線を下に落とすと、彼の薄く色づいたしっとりとした素肌が目に入る。鎖骨の上の情痕が、あかあかと花開いているのを見て満ち足りた気持ちがこみ上げた。その下には彼の胸の尖りがある。昨夜、照明の下で見た時は、二つの珠は珊瑚色をしていた。が、朝の太陽の光で見ると右だけがルビーの色をしている。どうして色が違うのか…一瞬考えた。そういえば、彼の経験を試すために昨日はこちらに歯を立てた。その結果、内出血を起こしたのだろう…教授の身体を出血させたのは悪いと思ったが…綺麗な色に魅入られてしまう。  それに教授の内部は鳥肌モノに良くなっている。もともと祐樹が接したことがないほどの肌触りだったが。今祐樹の最も敏感な部分に当たっている全ての箇所は、絹とベルベットを混合したような感触だった。  これが、祐樹と情交した結果の彼の進歩だったら良いのに…と思ってしまう。  極上の内壁が物欲しげに動いたかと思うと、唇が僅かに離された。彼の艶を増した瞳も開く。 「…しない…のか?」  悲しげなニュアンスを感じ取り、慌てて言った。 「いえ、聡の内部がとても良くて…慣れれば、私が動かなくても…聡の収縮で私が極められるな…と考えていました」 「そんなことが…出来るのか?」  今度は驚いたような顔で聞いてきた。確かに男女問わず、祐樹が動いて相手を満足させてきたし、普通の男女の営みもどちらかが身体を動かして絶頂を極めるのが普通だろう。が、身体を動かさずに内壁の動きだけで相手を昇天させる身体を持った人間が居るということは聞いたことがある。教授の身体は…そんな話を思い出させる魅力に満ちていた。 「ええ、多分。しかしそれは何回もしてコツを掴まないといけないでしょうが…聡の眠り姫が目覚めるのが楽しみです。それまでは。存分に突き上げて。上げますよ」  そう言って、いきなり繋がりを解いた。 「あっ…ゆう・・・きっ。どうしてっ!?」 「場所を変えましょう。さあ、立って下さい」  そう言って彼の手を握って立たせた。立つ様子を注意深く観察していたが、動きは幾分気だるそうなものの苦痛を感じてはいないようだった。 「あ、流れ出てっ…。中から…祐樹のモノが…」  立ち上がりかけながら、彼は悩ましげな顔をする。 「少しくらいは零しても構いませんよ…。また差し上げますから…」  低い声で囁くと彼の身体がぶるりと震えた。恐らくは期待のために。ベッドから少し歩く。  あらかじめカーテンを開いておいた窓に向かって並んで立つ。二人とも全裸だが、覗く人間は居ないだろう。  彼の腰に右手を回すと、一瞬動作が止まり、次に頭を肩に凭せ掛けてくる。 「昨日、フト思ったのですが…この部屋の窓からは大阪城が見えると思いまして」  左手で彼の髪を撫でる。 「あ、本当だ。あれだろう?あの緑色の城郭?…クラブフロアからも見えていたが」  少し弾んだ声がする。 「そうです」  右手を動かしウエストラインを撫でた。それだけで彼の身体は鳥肌が立つ。やはり更に敏感になっているようだ。中指を彼の蕾に置いた。 「ああ、本当ですね。すっかり濡れています…。これは私のモノと乳液だけでしょうか?」  蕾が少し開花する、歓迎するように。 「そうだと思うが…?どうして?」 「さあ、窓から一歩下がって、両手をガラスに付けて下さい、教授」  質問には答えず命令口調で言う。明敏な彼は何をされるか分かったのだろう。頬を瑞々しい桃色に染めて言う通りにする。  彼の背後に回って、彼の白い双丘を割り開く。蕾は少し紅くはなっていたが、その付近に零れている液体は白い。 「見る限り出血はないようですね…。でも念のために」 「あっ」  幽かな嬌声を上げさせながら教授の蕾に三本の指を入れる。 「痛みがあれば、言って下さい。それから、ご自分の右の胸を見て下さい。昨日噛んだのでまるでルビーのようですよ…」  内部の液体を絡ませるように指を動かす。彼の背中が反り返る、指を動かすたびごとに。昨日よりもやはり感度は上がっている。 「痛みは有りませんか?」 「ないっ…。うっ」  清浄な朝日に不似合いな夜の雰囲気の声がする。欲情に濡れた声だった。指を出して液体をチェックするが赤い色はなかったので、続行することにする。乳液で滑りを良くした自身を自分にしか許されていない部分に当てる。 「さあ、お望みのものです…。夜ほどは反射して見えないかも知れませんが…でも少しはガラスに映るハズです。誰が教授を抱いているか、見ていて下さいね。  先ほど気になさっていた…太腿に零した白い液体も注ぎ足してあげますよ。それに…土曜の朝とはいえ、ここはビジネス関係のビルも多い。土曜出勤してきた付近のビルの人間が偶然貴方のソノ顔を見ているかもしれませんね。朝から男を咥え込んで壮絶に色っぽい貴方の顔を…。私達は今日は休みですが、世間の皆が休みとは限りませんからね…ホテルの窓を覗く人は多いと思いますよ…」  彼が弱い、羞恥を煽るような言葉を選んで徐々に内部へと進む。彼は切れ切れの辛そうでいて欲情を孕んだ声を上げながらも従順に受け入れていく。

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