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第九章 第8話

「あっ…お湯が中に入ってくる・・・」  色を含んだような声を出しながら、彼の白く長い指の震えがひどくなった。双丘は自分の指で広げて続けていたが。 「多分、中まで綺麗にしないと…教授にとって後が辛いと思うので少しの時間は我慢して下さい。もう少し広げて…そうしないと、奥まで洗えない…」  右手でシャワーノズルを持ち、お湯を彼の秘密の場所に当てる。左手の指を使って彼の内部を広げているのでどうしても彼の協力が必要だった。 「……分かった……。」  そういえば、彼のソコに直接注ぎこんだ人間は嬉しいことに祐樹しか居ないと言っていた。だとすれば、初めての情交の時に自分で洗い流した時は全てを自分でしたのだろう。辛いことをさせてしまったな…と後悔する。これからは、祐樹が洗い流そうと決意した。  湯に混じって白い液体が排水溝に流れ込んでいく。それを名残惜しげに見ていた。教授も排水溝を見ているような顔の角度だった。  彼の内壁を味わっている左手の指が粘度を感じなくなった。念のためもう少し奥に指を進めると、彼の身体がぶるりと震えた。 「綺麗になったと思います。…昨晩からの行為で疲れたでしょう?浴槽にお湯を張っていますから…ゆっくりと浸かって少しでも疲労を和らげて下さい」  湯を張る時に虫の知らせがあったのかも知れない。湯量を調節する表示を全開にせず半開にしていたので、ちょうどいい位にバスタブはお湯を湛えている。備え付けのオレンジ色のバスソルトを惜しみなく入れた。  水滴を気にせずに彼の肢体をバスタブに誘導する。 「祐樹と一緒に入りたい…」  小さな声で告げられた。無垢で可愛いお誘いの言葉に苦笑した。 「仰せのままに…」  先にバスタブに入って、祐樹の体積が増しても流石は大阪でもトップクラスのホテルのバスタブだけあってかなりの余裕があった。これなら彼の細い肢体が入っても湯は零れないと判断して、彼の腕を優しく掴んでバスタブの中に入れる。  計算した通り、お湯は零れなかった。祐樹の胸に彼の背中が当っている。後ろから囁いた。 「もっと私に凭れて下さい。そんなに力を入れないで…。それでは疲れが取れません」 「良いのか?それでは祐樹が疲れるだろう?」 「昨日から無理をさせたので・・・貴方の方がより一層疲れていると思いますので…もっと身体の力を抜いてリラックスして下さい。それにお湯の浮力で貴方の体重はより一層軽く感じるので…大丈夫です」  そう言うと彼の身体がもっと密着した。 「少しは身体が楽になるような気がする…」  堪らずに彼のうなじに唇を落とした。彼の身体は弛緩して祐樹に更に凭れかかってくる。 「そこも…感じる…もっと強く吸って欲しいがっ…他人が見えるところにキスマークは付けないないで…欲しいっ」 「大丈夫ですよ。髪の毛に隠れるところです。まぁ、貴方が他の男性とそういうことをして、頭を強く振るなら見えますが…」 「祐樹だけにしか、こんなことを許さないので…大丈夫だ」  その言葉には感動したが情痕の位置も知らない彼に違和感を抱く。彼も祐樹との関係の前に男性とそういうコトをいていたハズ。殆どの人間は赤の他人にキスマークを見られることは避けるものだが……羞恥心の強い彼はもっと嫌だろう。普通は覚えておくはずのことなのに…彼の記憶力からすればそれは容易なことだ。  それなのに、どこにキスマークが付くと危ないのかが分かっていないらしい。彼に対する探究心がますます募る。 「少しは疲労も取れましたか?」 「ああ、大分楽になったような気がする」 「では、身体を拭いて、朝食を食べに行きましょうか?」 「実は、とても空腹だった…早く行こう」 「先にそれを仰って下さい。それでなくても貧血から治ったばかりなのに…。」 「いや…祐樹が洗ってくれると言ったので…言いそびれた」 「空腹の時と・・・悦楽を感じた時は…隠さずに絶対に言って下さい。約束ですよ?」 「分かった」  彼はすらりと立ち上がる。祐樹もそれに倣う。流石に全ては回復していないらしく、動作は心持ちゆっくりしている。祐樹は自分の身体を手早く拭うと、教授が持っていたバスタオルを手にして丁寧に水分を拭き取る。  お互いに服を着て――ホテルはこれが面倒だと言えば面倒だ、旅館ならば浴衣姿でロビーにまで下りていける――、白いワイシャツのみを上半身に着た教授の姿を見て、ゴクリと唾を飲み込んで、しばらく観賞してから諭すように言った。 「お願いですから…上着も着て下さい」 「え?お湯に浸かったから熱いくらいなのだが…」 「白いシャツ…それ少し布地が薄いですね…。教授の胸の尖りが布越しに気になります。まして右の胸の赤味が少し分かります。そんな扇情的な姿を他の誰にも見せたくは…ありません」  見下ろした彼は、祐樹が指摘した通りだと気付いたのだろう。頬を紅く染めると上着を羽織った。  クラブフロアに降りて行く途中も若干辛そうだったので、朝食は、教授のリクエストしたものを祐樹が全て運んだ。コーヒーも飲まず、祐樹が食事の皿を全て持ってくるのを待っていた。  教授は和食メインで…とリクエストしたが、ジュースと水はクラブフロアスタッフに頼んだらしい。  昨日と同じ席が空いていたので座っていたのだが…。 「頂きます」  そう言って食べ始める教授の姿を見て祐樹は無意識に呼吸を止めてしまった。そして彼を魅入られたように、ただ眺めずにはいられなかった。

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