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第九章 第10話

 彼は瞳を伏せて間沈黙している。祐樹とて無理強いはしたくないような、しかし、期待したいような不思議な感覚を味わっていた。2人の間を緊張感に似た空気が包む。  ほんのりと目蓋を染めて彼の瞳が開いた。雪国の初花のような綺麗な瞳に決意を秘めた強い眼差しだった。 「下手でも…いいのなら…する。けれども失望させたくは…ない」 「失望なんてしませんよ…聡がしてくれることなのですから」  彼の瞳を真っ直ぐに凝視する。目を奪われずにはいられない匂いやかな風情だった。 「どうすれば…いいのか……教えて欲しい」 「では、聡がされて感じた時のことを再現して下さい」  その言葉に彼の瞳が逸らされた。途方に暮れたような感じだったが、その動作も瑞々しい。 「それも…ない…・・・」  一体この人の過去の男性は何故彼自身を愛撫しなかったのかが気になった。百歩譲って、させるほうは、彼の美貌からして遠慮したのかもしれない。しかし、する方は嬉々として奉仕しそうだ。祐樹が聞いた噂の中にはアメリカ人――教授の過去の相手が外国人ということしか知らないが――はかなり奔放なゲイが多いとのことだったのに…。 「初めて…なのですね。では、疲れると思いますので、ベッドに行きましょうか?」  不覚にも声が震える。欲望と感動の余り。 「ベッドでするのと、ここでするのは違いがあるのか?」 「聡が初めての行為です。まさか咽喉まで挿れるのは無理でしょう?ベッドに横たわった方が身体は楽なハズです」  祐樹はまだ茶色の木の扉に背中を押し付けている。当然立ったままだ。 「咽喉まで挿れるのか…?それは、どうすれば出来る?」  真剣な眼差しで問いかけてくる彼についつい答えてしまう。 「私もしたことがありませんが、コツは内視鏡――胃カメラだ――を呑み込む時の要領だそうですが…」 「したことがない…ということは、されたことは有るのだな?」 「それはモチロン…」 「快かったか?」  長い睫毛を伏せて無理やり出したかのような低い声で問いかけられた。 「まぁ、それなりに……ですが…」 「では、ここでする」  その決然とした言葉に驚愕した。が、欲望は昂ぶった。  背中を少し下にずらすと、両足を広げた。 「この中に来て下さい。そして跪いて」  彼の幾分細い身体が祐樹の脚の間にすらりと納まった。ちょうどソコに当たるように彼の脚が折られた。祐樹の視界は彼の匂いやかに色付いた額と、その向こうに見える陽光がさんさんと差している大きな窓が映っている。そして、豪華なゲストルームも…。これから、他でもない彼にしてもらうコトを考えると背徳感が募る。が、背徳感と欲望は表裏一体だ。  自分のモノが存在を主張している。幸い、朝食前に彼と湯を浴びた後は、ココの使用頻度が高い放出はしていない。自身のモノはまだバスソルトの香りしかしていないハズだ。  自分で、ベルトを外し、スラックスの前の部分をはだけた。下着を押し上げているモノを当然至近距離から見ているハズの彼の顔を見たかったが、見えるわけがない。  彼が下着をゆっくりと下ろす。白く長い指が幽かに震えている。 「聡にしてもらえるかと思って、もうこんなになっている…」  祐樹の指で先端を回す。先走りの液体で濡れた音がする。わななくような呼吸を一つすると、彼は祐樹の指ごとそこを舐めてくれた。先端の感じやすい部分の一つだ。  ネクタイはしていないものの、白いワイシャツにジャケットをキチンと着て、脚はスラックスに包まれている彼が、そういうコトをしてくれるのを見て劣情が煽られる。  桜色の唇が祐樹自身の先っぽを刺激しながら舌は先端部分をねっとりと刺激してくれている。  自分のモノが彼の口の中に居るのを見ただけで、祐樹自身も欲情を隠しきれない。容量を増したモノを彼は更に口の中に挿れてくれた。祐樹の反応を窺おうとしているのか、彼の真剣な眼差しが祐樹の顔に注がれている。先端から、くびれの部分を舌と唇で愛撫されると、祐樹の額に快楽の汗が浮かんだ。思わず彼の頭を撫でる。 「快いです…よ。歯を立てないように気を付けて下されば、それでいいですから…」  彼の動きが変わった。前後に頭部全体を動かしている。桜唇の唇で歯を隠すようにして前後に動かされたのでは、上顎のザラザラした部分がモロに官能中枢を刺激する。多分、ここまでしか挿いらないだろうな…と思っていると、彼は更に頭の動きを大きくする。 「うっ…ん」  咽喉声で呻くと、彼は頭を上下に激しく動かす。すると、彼の咽喉まで祐樹自身が挿ったようだった。彼の額の汗が、薄桃色に染まったこめかみから下に流れていくのを見て祐樹は堪らず彼の髪の毛をかき回した。柔らかい髪の毛が祐樹の指からはらりと滑るのも官能的な眺めだった。しっとりと濡れた瞳が祐樹の表情の変化を注意深く見詰めている。  その様子はむしろ健気ですらあった。祐樹に楽しんでもらうために自分の苦痛――だろう、多分。初めてならば口で感じるまでは行かないと思うので――を我慢しているといった表情だった。  彼はとても健気な人かもしれない…唐突にそう思った。 「とても、いいです。良くそこまで呑みこめましたね…教授の内部はどこも絶品です」  掠れた声で告げた。彼の粘膜は、やはり稀有なものらしい。昨日からさんざん味わってきた場所と同じく祐樹を虜にする。  と、ドア一枚隔てた廊下で英語ではない外国語の話し声と足音が聞こえた。教授もそれを察知したのだろう、身体が強張った。が、彼の内部の締め付けがより一層強くなる。思わず呻いていた。 「大丈夫、この部屋は角部屋なので、このドアの前は通りません。けれど…その力加減は絶妙です。そのまま上下に動かしてみて…もうそろそろ限界のようです」  祐樹の最短記録で弾けさせてしまいそうだった。彼の頭の動きが激しくなる。 「教授の白魚のような指で、下の二つのものを…そうですね…昨日私が胸を弄ったのと同じようにして下さい」  そう控えめにリクエストしてみると、彼の指が指示通りのことをしてくれる。  唇に屹立を挿れて、指は下の袋を揉みしだいているのを見ると、祐樹の頭の快楽中枢が爆発しそうになる。 「そろそろ、逝きそうです。口の浅い部分で私を味わって下さい」  咽喉に注ぎ込むのは流石に気が引ける。祐樹の望みは、彼の薄桜色の唇に自分の白濁が散っているのを見たいというものだったのだから。  彼は着衣も乱さず祐樹のモノを咥えて床に跪いている。その姿にも…そそられる。  祐樹の指示通り、頭が少し離れた。その瞬間、祐樹の欲望が爆発する。口の中に白濁が飛び散ったのを感じたのだろう、彼の身体も風に煽られた薔薇のように震えた。  彼の口からずるりと、祐樹自身を出す。案の定、唇の端からは白い液体が零れている。  その眺めは、誰も踏んでいない新雪に足跡で蹂躙したよりももっと深い満足感を祐樹に与えた。

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