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第十二章 第10話

 後ろ向きになった彼の背中に思わず欲情の溜め息が零れた。  乱れた下半身の着衣はもちろんのこと、白く細い首筋から続く優雅な細い肩のラインが男性的な骨格をしているものの、細くて綺麗なカーブを描いている。その上、彼の白いうなじが上気してほんのりと薄紅色に染まっているのも艶かしい。  シャツ越しなのも余計そそられる。剥ぎ取ってしまいたいが……場所が場所だ。断腸の思いで諦める。  スラックスを下着ごと一気に下す。彼の白い臀部とそれに続くしなやかな脚のラインも男性的なのに、妙に色香を放っていて。もっとその色香を味わいたい切実な欲望に火が点く。  彼の吐息も欲情の薄紅色を纏っているかのようだった。こんな密室での行為は危険極まりないが、彼はアノ時の声が大きくないのも幸いだ。それにこんな場所では100%行為には没頭しないだろう、自分と同じで。意識の何%は常に理性が残っているに違いない。  右手は包帯で塞がっているので、左手の掌に乳液をたっぷりと載せる。このトイレに入って来るゲストが居たら、その香りに不審感を持たないだろうか?とふと思ったのだが。  しかし、このホテルのトイレは独特の香料で室内の香りを管理している。それにこのホテルに泊った人間はホテル備え付けの乳液を使うことも多いだろう。それならばこのホテルの中で乳液の香りが漂っていてもそんなに疑問には思わないのでは?と結論付けた。  彼はドアに肩を凭せ掛けるようにして欲情の溜め息を零し続けている。狭いが落ち着いく上品な雰囲気を醸し出す室内に、不似合いな淫靡な雰囲気が満ちていく。 「私が包帯を取ればいいのでしょうが……、もしそれが嫌なら、貴方の神聖で淫らな場所が良く見えるように開いて下さい」  諦めたような、満足したような不思議な溜め息を零して彼は言った。 「包帯を取ってしまうと……傷が開くかもしれない。だから……自分で開く」  彼の長く細い指が自分の双丘を割り割く様は絶品だった。指が羞恥のためか震えているので尚更。 「ああ、綺麗ですね……。それに期待して戴いているのでしょうか?大切な場所が震えていますよ」  その言葉を聞いた途端、彼のしなやかな背中は一瞬ひくっと震えた。 「両手はそのままにしておいて下さいね」  彼の耳に吐息に似た声を流し込む。それさえも快感を高める要因となっているようで。彼の前に手を伸ばした。ソコはしっかりと成長している。ゆっくりと上から下まで指で扱くと彼は咽喉声を漏らし、背中を仰け反らせた。 「ああ、もう先端が…濡れていますね。待っていて下さったようで嬉しいです」 「待っていたに……決まっている……」  彼のどこか切なそうな声は祐樹に奇妙な満足感を与える。左手の指に乳液を纏いつかせると、彼の内部にそっと潜り込ませた。最も感じやすい前立腺は敢えて無視する。 「貴方の内壁は本当に素晴らしいですね。この肌触りは極上で、しかも敏感に指を感じてくれる。今、ひくっと動きました……よ?」  祐樹が言葉を重ねる度に、彼の上質の濡れたシルクの内壁は奥へ奥へと誘い込もうとする動きをする。 「そうです。その動きです。それは意識して動かしているの?それとも無意識ですか?」  指の抜き差しを激しいものにしながら聞いた。 「あっ……前から言っているように…無意識で……あっ。意識的に動かせるようになったら祐樹はもっと満足して…くれるか?」  快感を逸らそうとするように頭を振って答える彼の声もまた欲情の色香が強く纏わりついている。彼の濡れた絹の感触が淫らな収縮を次第に激しいものにしていく。 「ええ、もちろん。それが今回の目的ですから……。貴方の昔の恋人は……この極上の内壁を皆、褒めてはくれなかったのですよね?」  杉田弁護士からの示唆が正しいのかも確かめたかったので唐突な発言をした。 「ああ、特に言われたことはないっ……なっ。もっと確かなモノが……ほし……い」  彼の声は小さいが、喘ぎ声はとても扇情的だった。ドアに肩を預けて祐樹の指の蹂躙を受けている彼の首筋も薄桃色に染まっている。そこに汗の透明な粒が宿っていて彼が背中を動かすたびに照明の加減かオレンジ色に染まっている。 「差し上げます……よ。でもその前に正直に答えて……下さい。貴方の無粋な元恋人は――確か三人でしたよね?――やはり向こうの人ですか?」  不思議というべきか、案の定というべきか。快感に染まった彼の息が一気にクールダウンするのが分かる。何と答えればいいのか迷ってでもいるかのように。 「……日系人が1人と……後はアメリカ人だ」 「そうですか……分かりました。正直に答えて下さったご褒美です。貴方のお望みのモノを……」  右手で自分のスラックスを下げて、肝心なモノを取り出す。それは彼の乱れた姿を十分に堪能していたので、すっかり育っている。取り出すのに少し苦労はしたが。  彼の後ろ姿は絶品だった。肝心なところだけを曝け出している。その入り口部分は祐樹の左手の動きにシンクロして清楚かつ淫らな呼吸を繰り返す別の生き物になったようだ。それだけでも感じるのに、シャツで隠れた背中もしっとりと汗が浮いていて。どこもかしこも濡れているようだった。  指を引き抜こうとする。すると彼の濡れた内壁が慌てて引きとめようとする様子もとても魅惑に満ちている。 「そんなに惜しまないで……下さい。直ぐにお望みのモノを差し上げますので」  そう言うと、彼は期待からか咽喉声を漏らす。  一歩下がって祐樹は多分2人分の体重を掛けても大丈夫だろうと思える大理石の覆いの部分に腰掛けた。 「貴方も……そのまま後ろに下がって、私の上に来て下さい」

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