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第十二章 第11話
彼はほんの刹那、躊躇しているようだった。が、祐樹が背後から彼が自分で開いた白い双丘――今は快楽を如実に体現したような綺麗な薄紅色に染まっているが――に添えていた手を掴んで引き寄せると、素直に祐樹の下へと一歩ずつ近寄ってくる。祐樹の手が頼りの目に障害を持つ人のように。
「もう、あなたの極上の内壁は十分その気のようですよ……。ゆっくりと息を吐いて上に乗って下さい」
淫らな要求に、祐樹の声もより低く、そして掠れがちだ。その低い声に煽られたように彼は吐息を1つ零す。その欲望を纏っていながらもどこかあどけない吐息すら祐樹を欲情の淵に叩き込む一因でしかない。
「2人分の体重の負荷を掛けても大丈夫……なのか?」
そう心配げに聞く彼にはまた理性が戻ってきたようだ。
「大理石で出来ているようですので、大丈夫ですよ。もし壊しそうなら私が脚で貴方の体重を支えます」
「そうか……。なら……」
やはり慣れて来たとはいえ最初の部分を飲み込むのは辛そうだ。彼の優美な曲線を描く首筋に汗の粒が多数宿っている。肌が薄紅色をしているので、露を宿した綺麗な花のような眺めだ。
彼の肩甲骨を甘噛みする。彼のシャツの上からだったが。却ってその方が新鮮な感覚だったらしい。
その瞬間彼の力が抜け、祐樹は彼の濡れたシルクの極上の内壁を自身で全て味わう。
「あっ……」
艶めいた小さな、そして辛そうな嬌声が彼の唇から零れ落ちる。
肩甲骨に唇を寄せながら祐樹は言う。
「ほら、全部挿りました。貴方の内壁はやはり最高に感じます……ね」
その声に煽られたのか、彼の内部が彼にしか出来ない動きをする。もっと……と言いたげに祐樹を最奥へと誘うような、それでいて、そこに留まって味わいたいと主張しているような密着感も感じさせる。
彼を背後から抱いて後ろから淫らな提案を持ちかける。
「貴方が抜き差しをして下さい。貴方の感じるところを突いていいのですよ?」
彼が自分で動いているという事実は彼の理性を蒸発させる役には立ちそうだ。
「そ……れで…祐樹は感じるの……か」
凛とした色香を滲ませた声で彼は言う。
「ええ、もちろんです。求められているという実感で胸が一杯になりますよ」
普段の声よりも低い声で囁くと、彼の背中が震える。恐らくは快感のために。その証拠に彼の白いシャツは汗でしっとりと潤っている。纏っている色が色なだけに、その上、素材はコットンだが薄手の生地なので彼の上気した背中が幽かに見える。何も纏っていないよりも扇情的な眺めだった。
彼の内壁が繊細に祐樹を絡め取り奥へと引き込む動きをする。これもまだ無意識にしていることなのだろうな……と思う。
彼は色付いた吐息を零して祐樹のモノを昂めるべく祐樹の上で踊るように身体を上下に動かす。その様子は筆舌に尽くしがたいほど刺激的な眺めだった。
「あ……っ……。身体の中で……祐樹をっ……感じているっ」
彼のか細いが悦楽の艶やかさを纏った声に祐樹のモノもよりいっそう充血する。
彼が動く度に祐樹も快楽のボルテージが上がり、彼の耳元に激しい息遣いを流し込む。
「感じて……くれて……いる……のだ……な?そうだ……と…、とても嬉しい」
彼の手が祐樹の手と重なる。手も身体も絡み合わせているとどこまでが自分の身体か分からなくなる。上質のシルクのような密着感と誘導するかのような魅惑に満ちた内壁と祐樹のモノとの境界線が曖昧になってくる。
標準サイズよりは大きいとはいえ、所詮はトイレの密室だ。動きは限られている。その空間が欲情の薄桃色に濡れていくような錯覚を覚える。
祐樹が彼の内壁の動きとは逆の方向に腰を突き上げようとした時だった。トイレのドアの開く音がした。大理石張りの床に靴音が響く。
彼は、重ねていた祐樹の左掌を自分の唇に誘導する。――口を塞いでくれ――ということだろう。彼が窒息しないように細心の注意を払って唇を塞ぐ。彼の零れた淫らな呼気が祐樹の右掌に結晶していくかのようだった。
彼は身体の動きは止めていたが、彼の内部は独自の伸縮を続けていた。祐樹を欲しがるように中へ中へとシルクの感触が促す。
靴音は一番手前の閉じられたドア――2人が占領している――を足早に通り過ぎ、二つ先の個室に入ったようだ。やはり、こういう場所に泊り慣れているのか、無粋な水音はさせず、水流音で誤魔化している。
そんなことを考えたのは一瞬で、彼の奥へと引き込む伸縮がよりいっそう細やかに、そして大胆になる。先端部分と茎の部分の両方が違った力が加わる。先端部分は包みこむような繊細で密着度の高い動きをし、茎の部分は柔らかく強く締め付ける動きだ。
誰かに気付かれないかという危惧が彼の動きを複雑にしているのだろうか?
水流音がしているうちにと、彼の耳に小さく呟く。絶対に聞こえないように。
「そうです。その動きです。覚えられますか?」
彼の湿った吐息の結晶が大きくなったような気のする左掌だったが。彼は左掌を甘噛みしてから、頭を縦に小さく振った。あくまでも掌から唇を離す気はないらしい。祐樹にしても彼の切ない嬌声は自分しか聞きたくないので大歓迎だったが。
用を済ませたのかドアが開き、靴音がこちらに近付いてくる。ここのゲストに相応しくゆっくりとした自信のある歩みだった。教授の濡れたシルクの感触が祐樹の茎を揺さぶるように痙攣に似た動きをする。それは今までに祐樹が味わったことのない――目の前が真っ赤になるような悦楽だった。
右掌に涙か汗の粒が滴ってくるのを感じた。
靴音は、トイレのドアを開き消えて行った。
「どうですか?覚えましたか」
そう聞く前に左掌を彼の唇から離して自由に呼吸出来るようにした。そして、肝心な質問を発することにする。
「どうすればあんな動きが出来るか、覚えましたか?とっても良かったですよ……もう少しで持っていかれるところでした……か?」
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