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第十二章 第12話
祐樹の標準男性よりも少し広い肩幅に凭れるようにして滴るような色香を纏った呼吸を整えていた彼が、やっと息が出来るようになったらしい、声までもが欲情に濡れているような煌めきを放っているように思う。
「大体……覚えたように……思うのだが……」
そんな声を聞いた途端、現金にも祐樹自身が鋭く反応してしまう。
「あっ、大きくて……硬くなって……、広がっているのが、悦い……」
小さな声で感想を述べる彼は普段の怜悧さも雲散霧消している。ただ、高嶺にひっそりと咲いている花のような色香を灯している。
「では、先ほどのを……試して戴けますか?ここでは流石に抜き差しすることは出来ませんから。接合音の最中に誰かが入って来たらマズイです」
「上手く……出来るかどうか分からないが」
そんな会話を密やかに交わしている最中でも彼の内部は祐樹を心地よく締め付けている。
「貴方なら上手に出来ますよ。さあ」
少しだけ腰を上に突き上げると彼の身体が歓喜にわななく。
「こう……か?」
極上のシルクの感触が祐樹を奥まで迎え入れようとする動きをしている。自分で動きたい欲求は当然有ったが、今回は彼に誰も味わわせたことのない動きを祐樹1人のものにしたかった。
「そうです。上手ですね……だいたいはそんな感じです」
彼の耳元に濡れた囁きを注ぎ込む。それだけで妖しい収縮は激しくなるものの、先ほどの誰かが入って来た時ほどの悦楽を祐樹にもたらさない。彼が一生懸命再現しようとしているのは雰囲気で分かるが。
やはり、今日は無理かも知れないな……。そう思い始めた時だった。だいたい、要求が無茶過ぎるという自覚は有ったので。内壁の収縮だけで絶頂を極めさせるような名器の持ち主など所詮はこんな性癖を持った人間が密やかに語る都市伝説の類いだろうと思う。ただ、彼の場合はかなり近いものを持っているが。
流石はクラブラウンジ階だ。クラブラウンジでは飲み物は好きなだけ飲めるのでツイ呑み過ぎてしまうのだろう。またドアが開く音がした。今度は2人連れらしい。話をしながら入って来た。
咄嗟に彼の手が伸ばされ祐樹の左手を誘導する。唇を塞ぐようにと。
彼の思考回路にはこの行為を止めるという考えはないらしい。誘導に従いながら彼は理性を手放していないことを再確認する。彼の背中が反り返り優美な曲線を描く。しっとりと汗に濡れているので肌の色が透けて見える。内面から照り映えるような肌だった。同時に彼の濡れたシルクの収縮も激しさを増す。
「いやぁ、教授の書かれた論文は素晴らしかったです。今までの冤罪事件のメカニズムをあれほど解析した論文はお目にかかったことがないです。流石は教授ですね」
「そんなことは…ないよ。君」
「教授」という言葉を聞いた途端、彼の内壁の妖艶な動きが激しくなる。どうやら法学部か何かの教授とその取り巻きが話しているようだったが。普段彼も呼ばれている呼称を聞くと自分に話しかけられているような錯覚に囚われるらしい。
祐樹自身もあまりの悦楽に絶頂を極めそうになる。が、ソノ時に上げてしまううめき声はマズイ。彼らが出て行くのを待たなければ……。彼の内壁は祐樹のモノを貪欲に欲しがろうとしている。その動きは祐樹自身も想定の範囲を超えた悦楽の波を伝えてくる。
右掌に感じる彼の息吹も悦楽の深さを物語るかのように切羽詰っている。彼もそろそろ限界なのかもしれないな……と頭の隅で考えていた。絶頂を遅らせようと必死で他のことを考える。彼も汗に濡れた後ろの髪を振って快楽を耐えているようだった。柔らかな髪の毛が祐樹の額を撫でていく。その度ごとに彼の汗と祐樹の額の汗が彼の髪を通じて混ざり合う。その様子も妙に官能的だ。
永遠にも感じられる時が過ぎ、どこかの大学の教授は用を済ませて出て行った。
「もうダメです……貴方の中に注ぎたい」
そう咽喉声で告げると彼の身体も一際震える。衣服に絶頂の証を飛ばしてはならないと咄嗟に考え、左手で彼のモノに触れた。先端から吹き出るハズのモノを全部掌で受けることが出来る角度にかざした。その瞬間、彼の身体が大きく震え、内壁も祐樹自身をこれ以上は不可能なほどの絶妙さで伸縮させる。
「うっ」
2人同時に天国への階段を駆け上がった。ぐったりと凭れかかってくる細い身体を右手で抱き締める。こんなにリスキーな情事をしたことがなかった祐樹もかなり疲れてはいたが。ただ、彼の方が疲労度は激しいだろう。慣れない行為を強いられたのだから。
「とても……良かったですよ・・・…。アノ時の動きは覚えることが出来ましたか?」
色付いた吐息を漏らしながら彼は言った。その声も艶を含んでいて。
「ああ、覚えた。再現は出来ると思う。祐樹はそっちの方がいいのだろう?」
「いえ、私が動くのも好きですけど……」
言いながら、彼の中から自身を抜こうとした。そんな動きにも彼の悩ましげな吐息が漏れる。
「このままでは……多分……部屋まで……行けないと思う」
色づいた小さな声が祐樹の耳に辛うじて届く。そういえば彼の中に注ぎこんだ欲望の証の処置は何も考えていなかった。今回ばかりはゴムを使えば良かった……と思っても後の祭りだ。それに彼とこういう関係になってから一度もそういうものを使ったことがなかったのですっかり失念していた。
「そうですね……取り敢えず、頑張って立ってみて下さい」
艶っぽい声と追いすがる極上の濡れたシルクが離れて行く様子も壮絶に祐樹を誘う。彼は不思議な清潔さと妖艶さを混ぜた動作でゆっくりと立ち上がった。祐樹は座ったままなので、彼が先ほどまで祐樹を飲みこんでいた場所がはっきりと見える。
「貴方のソコ……真珠の粒のように白濁が散っていますね……。ああ太腿まで伝っています。拭き取るだけでは部屋までは行けないでしょうね」
声を殺して言うと、薄桃色の太腿がひくりと震えた。吐息も薄紅色を纏っているかのようだが。
ここのトイレは贅沢なことに普通のフェイスタオルが手を拭くように常備されている。拭き取る分にはそれを使えば良かったのだが。フト妙案を思いついた。洗い流すのと、彼の理性をもっと蒸発させる一石二鳥のアイデアを。
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