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第十二章 第13話

 彼が几帳面に巻いてくれた包帯は、激しい動きをしたにも関わらず全く元のままだった。彼の器用さからすれば当然かもしれないが。  人の気配が全くないことを確認して右手で扉を開けた。弛緩した彼の身体は先ほどまで祐樹が座っていた場所に崩れるように凭れかかっている。肝心な場所を惜しげもなくさらけ出した彼の艶めく肌を何時までも見ていたいが、あいにく他人が入って来るかも分からない場所だ。  祐樹以外には絶対見せたくない姿なので――同性が社会通念上してはならないことをしていたということを隠すという意味もあるが、こんな壮絶な色香を灯す彼を祐樹以外の誰にも見せたくはないという欲求の方が強かった――扉を閉める。左掌で大切に運んで来た彼の欲情の証をいささか惜しい気持ちで洗い流し、その後お湯で濡らしたフェイスタオルを二枚ほど持って彼の居る個室に戻る。  切れ長の眼差しが逐情の余韻で婀娜めいた視線を祐樹に投げかけるのも、劣情を刺激する。 「こちらも綺麗にしないといけませんね」  そう言って彼の先端部分をゆっくりと濡れたタオルで拭う。もちろん左手を使って。その僅かな刺激すら感じるのだろう。彼の吐息が少し濃い色を帯びる。白濁は祐樹の掌で受けたのでそんなには飛び散ってはいない。直ぐに綺麗になる。 「ああ、もうこんなにして……。しかし続きは部屋に戻ってからです」  反応した彼のモノを見て思わせぶりに囁いた。 「だから、これでは……」  彼ははにかんだように言う。その口調がどこか健気でいたいけだ。彼の本質は――欲望に忠実なところも有るが――普段の怜悧さや悩みをギリギリまで1人で抱え込んでしまいがちな性格に違いないと思わせた。   悩みを1人で抱え込んでしまう彼にこれ以上の仕事での重圧――それも本来の業務ではない学内の足の引っ張りあい――を背負わせるわけには行かないなと思う。 「ええ、そうですね。ただ、このトイレは幸いなことにウオッシュレット機能が付いていますので。それで洗い流せば急場は何とかなるのでは?」  彼の太腿に滴った祐樹のモノを手早く拭いながら言ってみた。 「本当にそれで大丈夫なのか?」  彼も小さな声で囁くように祐樹に聞く。その声もまだ欲情の薄桃色に染まったかのような声音だった。 「大丈夫だと思いますよ。私を信じて下さい」  そう言いながら彼の幾分細い身体――しかも肝心な場所は全て露出している――を抱き締めた後で立たせた。 「あっ……、やはり滴って……」  眉間に色っぽいしわを刻んで彼は吐息のような声を零す。祐樹はウオッシュレットの水流を最強に設定してから、彼の唇を貪るように味わう。彼の身体は小刻みに震えている、恐らくは快楽と羞恥のために。 「私は手伝えませんから、ご自分で私を貪っていた場所を開いて、座って下さい。洗い流せば何とか部屋に行くぐらいは大丈夫だと思いますから」  彼は一瞬迷うように瞳を閉じたが、思い切りの良さは流石だった。祐樹の淫らな提案以外に無事に部屋にたどり着ける自信がなかったのだろう。  彼の造化の妙とでも言いたい指が、自分自身の臀部に掛かる。欲情に色づいた双丘を開くようにして腰を下した。祐樹がスイッチを入れる。普通なら出口付近にしか水流は達しないハズだが、彼のソコは祐樹のモノで容易に開くようになっている。 「あっ……お湯が中までっ」  瞳は閉じていたが、色づいた彼の顔は悩ましげな灯りを孕んでいる。内壁を湯が勢い良く洗浄している感触にすら惑乱するほど感じるようだった。 「貴方の前もしっかり反応していますね。それに鎖骨の花弁も紅さを増していますし、胸の珊瑚色の尖りも舌で弾きたいほど官能的だ。肌も艶めいている……」  彼の羞恥心と官能を煽るように囁くと彼の幾分細い身体が感極まったように跳ねる。うっすらと開いた目が祐樹の眼差しと一瞬交錯し羞恥の色を浮かべる。 「でもね、これ以上、貴方が乱れるところは私1人が独占している空間で拝見したいのです。だから、早く洗い流せるようにもっと大きく双丘を開いて下さい」  唆すように言う。彼は潤んだ瞳に欲情の涙の膜を張っている。魅入られたように祐樹だけを凝視している。祐樹の言葉しか耳に入っていないようだった。企みは成功したな……とほくそえむ。  白濁に染まった淫らな内壁を少しでも洗い流せば、部屋までは何とか辿り付けるだろう。今の恥ずかしさと背徳感とそれを上回る快楽に理性を飛ばした彼からアメリカ時代の過去を聞くことは普段の彼よりも容易に違いない。  彼は祐樹の言葉通り、普段は白い細い腕や恐らくはしなやかな指までも薄紅色に染めているようだった。その様子は言葉に出来ないほどの壮絶な色香を纏っている。普段よりも数倍。 「もう……これ以上広げるのは……無理だ……」  溜め息混じりに色づいた声が小さく訴える。このシュチュエーションは彼を普段とは別種の悦楽の淵へと導いたようだ。 「確かめてみましょうか?」  こっそり囁く。 「ダメ……だ。立てない」  足に力を込めていた彼は諦めたように祐樹に言った。 「そうですか……それは残念です。では乾かしましょう」  そう言ってスイッチを別のものに変えた。  その風の流れすら彼の内壁は快感と受け取ったらしい。彼の瞳がさらに欲情の色を浮かべ、睫毛には涙の雫が宿る。 「ああ、そんな色っぽい顔をしないで下さい。部屋に行くまでに不審に思われたらマズイですよ」  心配しているフリをして彼の理性を突き崩す発言を繰り返した。 「さあ、部屋に行きましょう」  そう言って、彼の衣服を整えた。絶対、アメリカ時代の恋人の件を聞きだそうと密かに闘志を燃やしながら。

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