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第十六章 第4話

「私の部屋……気に入ってくれた……か?」  唇が乾くのか、舌で唇を湿らせる様子が扇情的だった。そして不安そうな光を宿す雄弁な瞳も。 「ええ、とても貴方らしい部屋ですね……機能的で無駄がない。想像していたのと同じです」  彼のために日本茶を淹れながら言った。  彼は安心したように吐息を一つ零す。その吐息がやけに艶かしく広い空間に一瞬の暖かな光芒を残して消えていく錯覚にとらわれた。 「上着……脱いでいいですか?」  室温は快適に保たれているものの、彼と2人きり、しかも彼の自宅に入ったという事実が祐樹の体温を上昇させる。 「ああ、もちろん。ハンガーを取ってくる」  椅子から立ち上がり、しなやかな動作で彼も上着を脱いだ。祐樹の白いワイシャツに青いネクタイ、そして細いウエストにはベルトが絡み付いている。彼は何気なく身体をよじっただけなのだろうが、細いウエストが強調されて祐樹の瞳を射る。昨夜の情景が生々しく脳裏に蘇る。あのウエストの下の瑞々しい白い双丘――その丘を割るとさらに祐樹を求めてくれる極上の場所がある。祐樹しか味わえない特別の……。  その感触を思い出すとたまらなくなった。ハンガーを持って来た彼の桜色の耳たぶを唇で挟んだ。 「食事の前に…手貴方を味わいたいのですが……怒りますか?」  掠れた声で切々と訴える。彼の身体から力が抜ける。慌てて彼の細身の身体を抱き締めた。 「いや、怒らない。……寝室はキッチンを出て、三つ目の扉だ……」  祐樹に縋るように立っている彼を見下ろす。熱情を帯びた綺麗な瞳だった。その瞳に真摯に訴える。それが自然なように思えたので。 「貴方の寝室で、貴方を感じることが出来るなんて夢のようですよ……。愛しています。貴方だけを」  彼はとても綺麗に微笑むだけだった。が、言葉よりも雄弁な視線が祐樹を暖かく包む。  手を取って歩き出そうとした。が、彼は緊張の余りか上手く足が運べないようだった。  気が焦って、両腕で彼の肢体を抱き上げる。こういうことは職業柄慣れている。落とさないように抱き締めつつも手は使える。彼の指示する部屋に入った。  そこは本当に「寝室」だった。ベッドサイドに小さな机が置いてあり、本が何冊か上に載っているだけで、他にある家具といえばベッドだけの部屋だった。ベッドも彼らしく余計な装飾はなく、水色のシーツと青色の毛布、そして水色の枕が二つ乗っていた。  ゆっくりと彼を毛布の上に横たえる。スプリングが効いていてとても寝心地の良さそうなベッドだった。  彼は枕に顔を埋めている。今まで何度もこういう行為をしてきたというのに、まだ羞恥心は消えないらしい。自分のベッドというのが気になるのかもしれない。  祐樹は彼の細い肢体に覆いかぶさり、毛布の香りをつかの間楽しんだ。 「ああ、お日様の匂いと貴方の香りがします。とても良い寝室ですね……」 「本当に?」  やっと枕から顔を上げてくれた恥ずかしがりやの恋人は澄んだ瞳を祐樹に向けている。 「ええ、本当に」  唇を触れるだけのキスを交わした。彼の唇は僅かに震えている。祐樹のシャツを纏った彼の上半身を脱がしたいが……もっと彼の汗で濡らしたいとも思った。  彼の腰を縛めているベルトに手をかける。彼の唾液を嚥下する音が生々しく響く。ベルトを抜き去り、ジッパーを下した。下着と共にスラックスを取り去った。  上半身は白いシャツと目の覚めるようなブルーのネクタイ、下半身は何も着けていない姿がとても扇情的だった。 「記念すべき貴方の寝室での初めての行為ですが……貴方のその姿を拝見してしまっては……抑えが効かなくなりました。このまま……いいですか?お嫌なら最初から手順を踏みますが?」  濡れた声を耳に注ぎ込む。彼は一瞬考えているような気配を見せたが、わななく薄紅色の唇で小さく質問してきた。 「手順……それが祐樹の過去の人達にしてきたことなのか?」 「ええ、余裕がありましたから……。しかし、貴方との行為は唯一無二の特別で……。余裕もないし、抑えも効きません」  その言葉を聞いた瞬間、彼自身も僅かな欲情に勃ち上がる。 「このまま……祐樹がしたいように、すれば良い。祐樹が悦んでくれるなら、私も嬉しい」  薄紅色の溜め息が凝ったような口調だった。  彼自身に手を添えて緩急をつけて擦る。もちろん彼の感じるポイントはじっくりと。彼の先端と切れ長な瞳とに露が宿る。先端の露をもっと味わっていたくてくるくると撫で続けた。  彼の切れ切れで細い嬌声が遣る瀬無く響く。彼が纏う祐樹の白いシャツも汗で濡れているのが分かる。  シャツの胸の辺りが尖っている。汗で透けているので、仄かな薄紅色まで見えてしまう。 「ココまで感じて下さっているのですね……とても嬉しいですよ?触って良いですか?それとも唇で挟みましょう……か?その方がもっと綺麗に色付きますよ……ね?」  彼の睫毛に宿った涙の粒を舌先で掬って聞いてみる。 「右手は……そのまま続けて欲しいっ。左手で触って、残りは唇でっ……」  右手は彼自身を愛撫している。彼の切なげでいて満足そうな声に煽られる。  唇を右胸に近づけると、祐樹と彼の香りが渾然一体になったうっとりするほど良い香りが鼻腔に流れ込んでくる。布越しに彼の胸の尖りを唇で挟み、舌で押しつぶす。  彼のワイシャツに包まれた手が上がり、祐樹の頭を抱く。吐息は紅く色付いているようだった。左胸も指で括り出す感じで愛撫を加える。彼自身が零す蜜の量が増えた。 「あなたの秘密の場所もそろそろ綻んでいる頃ですよ……ね。胸は後でじっくりと触って差し上げますから、少し様子を見ても良いですか?」  布越しではあるが、胸を挟んでいた唇で問いかける。彼の若木の肢体がしなやかに反る。  目蓋も紅く染まっているのも扇情的だった。この様子なら彼の極上の内部も期待に疼いているだろうな……と思う。  どうせなら指だけではなく目でも彼の秘密の場所が期待に打ち震えているところを見たい。胸から唇を離した。 「あっ……」  紅く色付いた吐息が不満げな気配を帯びる。 「今度は、布越しではなくて……直接触りますから……」  宥めると、こくりと頷く様が鮮やかに色っぽい。 「さあ、私が知っている中で一番素晴らしい内壁を見せて下さい」  唆す声は期待に掠れる。彼が優雅な仕草で足を開く。が、一番奥まった場所に隠された彼の秘密の場所はそう簡単には見えない。 「腰を少し浮かせて下さい」 「しかし……シャワーを浴びてな……い」  我に返ったのか、恥ずかしそうに言う、その口調までもが祐樹を魅惑する艶に満ちていた。 「良いんです。そのままの貴方を…私に見せて下さい。ああ、この枕を腰の下に引いて下さい。うつ伏せになると、貴方が辛いでしょう?」  彼自身はすっかり育ちきっている。その状態でうつ伏せになるのは……犬のような格好をしないと辛いに違いない。今日は彼にそんな格好をさせたくはなかった。幸い、枕はかなりの嵩がある。腰の下に引くと、彼の全てが祐樹の視界に収まった。 「あ、今、ひくりと動きました……よ。待っててくれたようで嬉しいです」 「見られると……とても恥ずかしいっ」  彼の幽かな声が羞恥の白い色に染まっている。 「恥ずかしくなんて……ありません。とても綺麗です……よ。それに貴方の蜜が滴って花が開いたようだ」  感に堪えない声を出すと、彼自身からしとどに蜜があふれ出す。それが茎を伝い、蕾に水滴を宿す。彼は艶やかな嬌声を幽かに零している。その声ごとに蕾が花を開いていく。  指を二本、蕾を驚かさないように入り口まで挿れた。彼の負担にならないようにゆっくりと指を鋭角に開く。 「ああ、サーモンピンクの花のようですね、それも朝露に濡れた。動いて私の指を飲み込もうとしています、よ」  煽るように言うと、花びらは嬉しげに収縮を始める。彼の切れ長な瞳は壮絶な色香と羞恥を湛えている。 「このまま、指で馴らしますか?それとも……?」  答えはなかった。言い過ぎてしまったかと彼の顔を見る。彼のわななく唇に唇を重ねた。涙を零す顔を手で拭っていると、ちいさな声がした。唇に直接伝えられた言葉。 「祐樹が……欲しい」  愛しさの余り力いっぱい抱き締めた。

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