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第十六章 第5話

 彼の欲情に掠れた声はとてもか細いものではあったが艶やかさに満ちている。背筋に電流が走った気がする。 「ダメです……よ。もう少し馴らさないと……」  彼のひたりと貼りつく濡れたシルクの内壁は指二本なら難なく動かせるし、祐樹の指を奥へと誘い込む動きをしている。 「大丈夫……昨日愛されたので、その名残が残っている……それに自分の身体のことは多分、私が一番良く分かっていると……思う」  彼の瞳が赤く潤んでいる。水を求める高熱患者のように祐樹を切望する彼が堪らなく愛しい  こういう展開も十分考えられたので例の乳液のボトルは祐樹のスラックスのポケットに抜かりなく入っている。 「では……脱がして下さい。下だけで良いですから」  乳液のボトルをサイドテーブルに置き、彼の傍らに立った。もちろん最愛の彼の健気で淫らな姿と表情に祐樹が何も感じていないわけはなく、祐樹自身も形を変えている。  スラックスの上からソコを頬ずりしてくれる。とても大切なモノを扱うかのように。まさか彼がそんなことをしてくれるとは思わず、呼吸が荒くなる。  スラックスのジッパーはまかり間違えば人体の中で一番敏感なソコを挟んでしまう危惧があったが、彼は慎重なで細心な手つきでジッパーを下す。  彼は目蓋を薄紅色に染めながらも瞳だけはとても真剣な光を浮かべて指を動かしていた。その緻密な長い指の動きは彼の仕事中の細かな指の動きを思い出してしまう。厳重に消毒した上で手術用の手袋をはめた、信じられないほど冷厳に緻密に動く指、その指が祐樹の衣服を脱がしているのもまたそそられるが。  彼が布地から祐樹自身を取り出す。ほんのりと桜色に染まった長い指が祐樹自身に絡みついている。いや、それだけではなく薄紅色の頬に祐樹自身を当てている。彼の瞳は薄紅色の陶酔の色を宿している。その周囲の睫毛は涙の透明な雫がぽつり、ぽつりと季節には少し早い蛍の光を放っているようだった。  彼の恍惚とした瞳が祐樹の目を上目遣いで見た。怜悧な瞳が紅く潤んで祐樹のなけなしの理性も飛びそうになる。 「これ……口で……する……か?」  慌てて祐樹は止めた。何だか直ぐに彼の桜色した唇に自身が飲み込まれていきそうな雰囲気だったので。ただ、そう言った彼の顔は白い顔を紅に染めてとても神聖でとても淫らだった。唇から吐き出される呼気も妖艶さを纏っているようだ。  口でされるのを嫌がる男性はいないだろう。ノーマルな男性も含めて。  ただ、彼の寝室での初めての行為なのだ。やはり彼に奉仕してもらうよりも祐樹がした方がいいと判断した、断腸の思いだったが。熱に――いや情欲に――浮かされていた頭が少しは冷えた。身体は臨戦態勢だったが。 「いえ、今日は良いです。何しろ、貴方の部屋でする最初の愛の行為ですから……私が貴方を天国に連れて行ってあげますよ。  ……ところでハウス・キーパーさんがいらっしゃるとお聞きしましたが、どの程度まで家事をなさるのですか?」  彼は欲情に鈍く紅色を放つ瞳でいくぶん気だるげに説明してくれた。 「部屋中の掃除だけだ。それに書斎の本などはそのままにしてくれるように頼んである。寝室は……時々シーツを替えてくれたりはしてくれるが」 「では、毛布やシーツを自分で洗っても問題はないのですね?」 「ああ、大きな洗濯機が浴室の隣にある。毛布も丸洗い出来るそうだ……が?」  彼は祐樹がこの部屋に来て、そしてしどけない格好でベッドに上がっていることに気を取られたのか怪訝そうに聞く。いつもなら祐樹の問いかけの意味を直ちに理解するだろうが。祐樹は朝起きて一番に毛布とシーツの洗濯だな……と決意した。 「今日は我慢が出来ません。最愛の貴方の寝室で……なんて。なので、このシーツも毛布も、下手をすれば枕までベタベタになってしまいます。貴方だってハウス・キーパーさんにそんなモノを見せたくはないでしょう?」  祐樹の言葉に彼の白くしんなりと長い太腿までが薄紅色に染まる。 「さあ、お喋りはお仕舞いです。その乳液を私のソコに塗って下さい。出来るだけたっぷりと」  彼に渡す前に一滴だけ中指に垂らした。その独特なスパイシーさと甘さのある香りを彼の形の良い鼻に近づける。  条件反射のように彼の薄紅色の肢体がしなやかに震えた。 「ほら、両手を出して下さい。量は……これくらいでいいでしょう」  彼の掌も鮮やかな紅に染まっている。左掌に白い乳液をたっぷり載せた。なまじ手の形が良いだけに薄紅色のスポンジの上に生クリームを載せたお菓子のような綺麗な眺めだった。 「口でする」と言った言葉はどうやら本音だったらしい。乳液をしなやかな右手の指にたっぷりと絡ませた。そのまま祐樹のモノに何の躊躇もなく、ただ祐樹自身を驚かせないようにゆっくりと乳液で滑りの良くなった祐樹のモノを育て上げることに熱中している。  していることはとても淫らなのに、彼は硬質な清楚さを崩さない。ただ、吐息だけが色を纏って艶かしい。 「その乳液……分けて下さいね……」  目分量で同じだけを取って祐樹も右の指に絡めた。  彼が幹の部分を擦れば、同じように指を動かした。先端のくびれを繊細な力加減でやわやわと愛撫された時には――多分彼と100%同じ動作は出来なかっただろうが――同じように指を動かす。  広い寝室に2人の濡れた吐息と悩ましげな嬌声がしっとりと降り積もっていくようだった。 「も、もうっ……限界……だっ。祐樹が……ほしいっ」  実はその言葉を待っていた。ワザと彼の貪欲で神聖な場所に触れなかったのは、彼の極上の濡れた粘膜が熟するのを待ち構えていた。 「本当に挿れて……大丈夫なのです……か?貴方を……傷つけたくないのですが……」  彼は先ほどの枕を腰に敷き足は慎ましく閉じている。 「これでは……何も出来ません……よ?」  白いシャツとネクタイをした上半身に向かって諭す。と言っても白いシャツはほの紅い尖りが布地をツンと押し上げているが。  彼の長い脚が扇を開くように優雅に動く。が、彼の最も正直で貪欲な内壁は見えない。   彼の先端から溢れ出る透明な雫と祐樹が塗りこめた白い乳液が彼の幹を伝いトバーズ色の珠を幾つも作っている。 「もう少し、腰を上げると……貴方が辛いでしょうね……では枕をもう一つ……」  枕を二つ彼の腰の下に敷く。これで内部まで見渡せる。祐樹が試しに指を二本挿れてみると、先刻よりも内壁の色が濃くなっている。この色は祐樹が思うがままに蹂躙した後のような紅さだった。 「いつもよりも、濃い色に染まっています……ね。紅い薔薇のようでとても綺麗ですよ……それも朝露に濡れた紅い花弁が私の指を奥へ奥へと誘っています。そんなに待っていて下さったのですか?」  彼は薔薇色の吐息を零した。そして、ゆうるりと瞳を開ける。薄紅色の唇が花の綻ぶようで。 「ああ、待っていた。だから言っただろう?私は大丈夫だから、早く欲しいと」  彼の透明で淫らな瞳の力には抗えない。ベッドの上の彼の脚の間に腰を進めた。 「挿れます……よ?息を吐いていて下さい……ね」  彼は言葉通りに息を零すがその息までも欲情の薄紅色を纏っている。 「あっ……祐樹を……感じるっ」  彼の最上の内壁は、いつも通りの密着度だった。が、何だか弾力が違う。ひたりと張り付いてきているのに、祐樹自身を跳ね返すというか包み込むというか……不思議な感覚だった。南国に人知れず咲く肉厚の濡れた美しい花弁のような内壁が祐樹をひたすら昂める微弱な動きをする。これでは祐樹の方が先に達してしまいそうだった。それはマズいだろうと、彼の弱いポイントをめがけて力を溜めて突いた。 「ああっ……そこっ……はっ」  彼がか細い声を上げる。 「先に極まって下さい。約束しましたよね……貴方を天国に連れて行くと」  言いながらも動きを止めない。祐樹の汗が、シャツ――元々は彼のものだ――では吸収しきれずに彼の肢体にぽつぽつと落ちる。 「あ、もっ……だめっ」  彼の細い背中が弓なりに反った。胸の尖りが艶かしく祐樹を誘っている。そして、彼の先端から零れる白い粘度を持つ液体が祐樹の白いシャツに真珠の粒を作った。

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