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第4話判じ蟲

 「なんやコレ」  アイツが箸で卵焼きを摘みあげながら言った。  眉が不快気によせられている。    「卵焼きやけど」  僕はいそいそとご飯をよそいながら言う。    朝ご飯、いや昼ご飯、いやもう早めの晩ご飯なのかな。  やっと目覚めたアイツを抱き上げて台所のテーブルまでつれてきたのは僕だ。  もちろん身体を綺麗に洗って、穴の中の精液も掻き出して、パジャマ着せて綺麗にした布団に寝かせ直したのも僕である。  恋人ならば当然のことだ。  ご飯作るのはアイツの担当なんだけど、今日は流石に僕が作りました。  僕は普段は掃除と洗濯担当。  ほとんどが冷蔵庫あアイツの作りおきの総菜だけど、みそ汁と卵焼きだけ僕がつくりました。     「玉子焼なんは知っとる。なんやねん、この焼き方。焦がしすぎやろが。醤油いれすぎやねん、色も汚い!」  アイツは吐き捨てるように言う。  「あかんかぁ。頑張ったんやけどなぁ」  僕は頭を掻く。  僕は大家族育ちなので一応料理ができる。  でも、料理が趣味なコイツとは実力差ははげしい。  「あかんなんてもんやないわ」  アイツは顔をしかめながら、玉子焼を口にいれ、さらに顔を歪めた。  「不味い」  はっきり言われた。    「不味い。不味い、不味い」  そう言いながら、玉子焼をぜんぶ食べた。  「これも最悪」  そう言いながら、みそ汁も嫌そうに飲み干した。  僕はニコニコ笑ってしまう。    「何で笑ってんねん、キモイんや」  アイツは僕の笑顔を見咎める。  虫でも見るような視線さえ可愛い。  「そんなん言いながら絶対食べて飲んでくれるやん?僕の精液飲む時と一緒やなぁおもって」  僕の言葉にアイツは飲みかけたみそ汁を吹き出した。  ぜんぶ僕にかかった。  「おま、おま、お前何、何いう」  真っ赤になって取り乱してるのが可愛い。  どんなに嫌でも飲んでくれるもんね。  泣きながら飲んでくれるんが可愛いくて仕方ない。  だからいつも無理やり飲ませてる。  あ、精液の話ね。  無理やりご飯を食べさせたりなんかせんよ。  そんな酷いこと。    それに僕は知っとる。  コイツ人が作ったもんは絶対に喰わない。  僕のつくったもんだけが例外だ。  そして、どんなに文句言っても、食べ終わったら「ごちそうさま」というのだ。  精液の時はそう言わないけど。  今度言わせてみよ。  セックスの時はとにかくなんでもさせてくれるのだ。    とにかく可愛い。  「おま、お前、お前・・・ごほっごほっ」  アイツがむせ続けているので僕は心配になった。    そんなこんなで、なんとかご飯を食べ終わったアイツはキチンと「ごちそうさま」を言った。    そんなアイツを抱えて、トイレに運び、(嫌がられたけど、足腰立たんから仕方ないやん?)、せっかくなので、排泄するとこまで見て泣かれ、泣いてるアイツを抱き締めながらまた布団まで連れ帰る。  「なんで・・・なんで・・・」  アイツは相当恥ずかしかったらしくて泣く。  もう今更。  でもそこが可愛い。  「変態・・・変態・・・」  そう言って泣く涙を拭う  「泣かんといて・・・しゃあないやん。フラフねんから、倒れたりしたらあかんし」  と僕は言い訳をする。  まぁ、100パーセント趣味や。  恥ずかしがって泣くのがみたかっただけや。    「そうなんか・・・」  アイツは泣きながら頷く。  そう言われると何も言わないアイツが素直すぎて可愛い。  口は悪いが根は物凄く真面目で素直なのだ。  チョロイやろ、お前。  まあ、僕は本当に僕がしたかったらコイツが拒否しないことは知っている。  でも、なぁ。  それはそれで切ない。    布団にアイツを横たえて、その隣りでゴロゴロしていた。  この家に洋室はない。  全部和室だ。  アイツはウトウトしている。  体力のないコイツには昨夜からの行為は物凄くこたえているのだ。  「し、したいんやったら・・・俺はかまへん」  じっとアイツを見ていたら、アイツが眠そうにしているくせに、そんなことを言ってきた。  「ありがとう。いっぱいしたから今日はええよ。寝とき」  僕は恋人の長すぎる前髪をかきあげながら言った。  普段は隠されたこのうざい髪の下にある美しい顔を知っているのは僕だけでいい。  「俺・・・俺なんかで気持ちようなれた?」  アイツの声が切ない。  その必死な目が切ない。  「お前やないとあかん」  僕は恋人の額にキスをして言った。  恋人は嬉しそうに微笑んだ。  本当に嬉しそうに。    恋人。  恋人なのに。  「俺で良かったら・・・いくらでもしてええから」  恋人はそう言って、安心したように眠り始めた。  僕の愛しい恋人。  僕の愛しい恋人は、自分を僕のセフレだと思っているんやね。  これをはよなんとかせんと。  なんでやねん。  なんでやねん。  起こさないために叫べない心の言葉を、胸の中で思い切り叫ぶ。  なんでやねん!!!    僕と恋人は同じ高校のクラスメートだ。  底辺校の男子校。  話もしたことのないクラスメートに僕は突然告白された。  男とかもそうやけどクラス一の嫌われもんの嫌なヤツにされたんはビックリした。  驚いた僕に、クラスメートは半笑いで言った。  「キモイ話で悪かったな、笑い話にしても構わへんわ」  それに僕はぶち切れた。  「俺は誰かを笑いもんにはせんわ、馬鹿にすんな」     それにクラスメートは黙った。   何でも告白して嫌われたなら諦めがつくって思ってたらしい。    「ごめん」   クラスメートは謝った。  これが僕と恋人の始まり。  でも、その後、サッパリ諦めた様子のアイツになんかモヤモヤしてしまったんが僕。  なんか気になってしまったんが僕。    そんな時に学校で見かけたアイツを見かけて、話がしたくて追いかけたら、猫の頭が生えてる植物とかがあるような場所に紛れ込んでしまった。  何言うてるのかわからへん?  僕が一番わからへんかったわ!!  蔦の先に猫の頭がついててにゃあにゃあ鳴いとるんやぞ。  そんな草が生えとるんやぞ。  そんなん夢やと思うやん。  夢に気になっているヤツがおるわけやん。  夢ならええか、とおもうやん。  現実じゃないならええかと思うやん。  僕はアイツを手酷く犯してしまったんや。    夢やと思ったから。  夢やったらええかと思った。   泣くのを楽しんだ。   泣き顔かエロかったから。  苦しむのを可愛いと思った。  いっぱい噛んで血まで流させ、血が流れるそこを貫いた。  気持ち良かった。  すごい夢やと思った。  こんなん現実でしたら絶対あかん、とも。  それが現実であることを知った時にはもう散々した後やったや。    必死で謝り、なんでもする、死ねと言うなら死ぬと言う僕にアイツが提案してきたのは、何故かセフレになることやったわけで。    「高校のお前がそんな趣味パートナーを見つけることは難しいやろ、見つかるまで俺が相手してやってもええ。俺もそういうの興味ないわけやないし」  震えながら強がりながらアイツは言った。  アイツのいう「そんな趣味」ってのが未だに理解できへんのやけど、明らかにはじめてやったアイツが無理してそんなこと言っているのはわかった。  怖かったはずや。  痛かったはすや。   なのに。  なのに。    コイツがこんな僕にそれでも惚れてくれてるのがわかって切なくなった。  それにコイツのことが気になってたんは、もうコイツに惚れていたからやってことを理解した僕はずっとコイツと一緒におる中で償っていこうて思ってん。  だから何度も何度も好きや愛してるて、毎日毎日言うてるのに!!!!!  何でかアイツ信じへんねん。  何でやねん!!  アイツの中では僕は「セフレ」なのだ。  僕の恋人は、自分が誰かに愛されているなんて信じることが出来ないくらい劣等感を拗らせているんやね。  ホンマホンマなんでやねん!!   本棚が並ぶアイツの部屋で、アイツの布団の隣りでゴロゴロしながら、アイツの寝顔を見ていた。    寝てる時とセックスしている時は、常にある皮肉っぽいバカにしたような笑いとか、軽蔑したような眼差しがなくなり、本当にただ綺麗な顔がそこにある。  無防備に。  いつもの顔も、中身をしってしまえばめちゃくちゃ可愛いんやけど、これはこれで可愛いんや。  ヤらしいことなんかなんも知らんって顔で寝ていられたなら・・・。   もうあんなこともこんなことも僕としてんのに。  今度はあんなこともこんなこともする予定やのに。  なんて可愛い寝顔や。  愛しすぎてムラムラしちゃう。  しゃあないやん。  僕まだ18やで。  性欲絶好調やで。  やりすぎて死にたい年頃やで。  高校卒業したからもう子供やないけど。  ・・・寝顔で抜こうかな。  ほんならちょっとだけアイツのズボンも脱がしてええかな。  見るだけ。  見るだけ。  僕はアイツのパジャマのズボンに手をかけた。   その僕の頭の上に思い切り何かが叩きつけられた。    「むがしかやら」  「だかしかやら」  キイキイ  キイキイ  叩きつけられたものが脚つきの碁盤であることがわかるのと、そいつらの非難めいた声が聞こえるのは一緒だった。  「お前ら!!ええ加減にせえよ!!」    僕は怒鳴った。  コイツらが僕の頭に碁盤を叩きつけたのは明白だった。  頭がくらくらした。  きしゃあ   きしゃあ  そいつらは歯をむき出しにして僕にむかって威嚇の声をだした。  鋭く並んだ歯賀どちらからもみえる。  コイツらは肉食なのだ。  幼児位の大きさの二匹の生き物。  大人しくしている時は可愛いぬいぐるみのようにも見える。  猿とウサギに似ている。  だが、今、肉食の生き物の本性をむき出しにしてここにいる。    コイツらが死体とはいえ人間を食い尽くしたのを見ている以上、僕はコイツら相手に油断はしない。  「なんもせんわ!!ちょっと脱がせようとしただけや!!」  僕は怒鳴った。  「しゃらくな!!」  「くしゃらな!!」  ヤツらも怒鳴る。  コイツらは僕の恋人を守っているのである。  僕がヤり殺さないように。  それがわかってるから僕も、本気でコイツらとやりあってこなかったが、いつかはコイツらとことこんやり合わないといけないのである。  だってコイツら、僕の恋人が寿命で死んだ後の死体を代償に恋人と契約しているのである。  恋人の死体を喰うつもりなのだ。  「死んだ後の身体なんかどうでもええやんけ。可愛いコイツらにくれてやる」  とアイツは平然と言うけど、そんなの僕は認めるかい。  コイツらに喰わせる位なら僕が喰う!!  他の奴らに喰わせてたまるか!!  そういうわけで、僕とコイツらはめちゃくちゃ仲が悪いのである。  コイツらも、僕がやりすぎて弱るアイツを見る度に僕に対する殺意を募らせてるし。  「かぬやわし」  「ならはらし」  アイツらがなんか言った。    意味はわからんが非常にバカにされてるんだけはわかった。   二匹とも嫌なドヤ顔して笑ってるし。  お前らその顔アイツの前ではせんくせに。  「よう言うた。意味はわからんけど言いたい事は伝わった。お前らとはホンマ一回決着つけなあかんおもてたんや!!」  僕は立ち上がった。  拳を固める。  「外へ出ろ、しばいたる」  僕は外を指さした。  「ふさか!!」  「ふさか!!」  アイツらも唸りながら言った。  受けるってか。  上等や化け物。  退治したる!!  僕は指を鳴らした。  アイツらも牙をむいた。  「うるさい!!寝られへんやろが!!ボケっ!!」  アイツが怒鳴った。  布団から身体を起こしてた。  そうだよね。  寝れないよね。  ごめんね。  僕は慌てて正座する。  化け物達はキュンキュン鳴き声をたてる。  起き上がったアイツに、ふわふわの身体をこすりつける。  牙はかくされ、大きな丸い目は可愛く潤んでいる。  なんやねんお前ら急に何かわいこぶってんねん。  「どうした、赤、黒」  優しい声でアイツが言った。  きゅーん  きゅーん  化け物どもがアイツにすりよる。  アイツが嬉しそうに二匹を抱きしめた。  「いじめられたんか?」  僕を非難するようにアイツが見る。     「いじめてへん、碁盤を投げつけられたんは僕や!!」  僕は投げつけられた碁盤を指差す。  「赤と黒は理由もなくそんなんせん。お前が何かしたんやろ」  アイツはきっぱり言った。  その通りなので、何も言えない。  ええ。  そうです。  でも、ソイツらばっかりかわいがって・・・ひどいひどい。  「ソイツらばっかし・・・ひいきやひいきや」  僕は本気で泣く。  ガチ泣きする。  悔しい悔しい。  妬ましい。  「アホか」  アイツが呆れたように言う。  「僕・・・僕・・・ちょっとお前のパジャマおろしてオナニーしようとしただけやのに、コイツらが・・・」  理由を話したら、アイツがもっと呆れた顔をした。  「・・・してもええ云うたのに、な、なんでそれはことわってオナニーするんや」  赤くなりながら、つかえながら言う。  それが可愛いと思ってしまった。  言われへん。  言うたけど言われへん。  せんでええ言うたんは強がりで、ホンマはしたい、でもお前を弱らせたないから、そして恰好つけたくて、でもつけきれんかったなんて・・・。  ああああ。  「お前の性的嗜好・・・難しいなぁ」  アイツがため息をついた。  寝ている人間を裸にしてオナニーするのが好きな変態認定されてもうた。  いやそうやねんけど、そうやない!!!  「べ、別に俺は構わへんねんで・・・そういうのしたいなら、寝てる時に勝手に好きにして・・・」  アイツはまた受け入れてくれちゃってるし。  「俺が寝てる時に、コイツが何しても止めたらあかんで、赤、黒、ええな。これは命令や」  アイツの言葉に赤と黒が不服そうな声をあげた。  だか、聞くだろう。  契約だから。    でも。   でもちゃうねん。  ちゃうねん、てば。  「赤、黒遊んどき、明日また囲碁教えてあげるから」  アイツは優しく言った。    化け物達は最近、テレビゲームに飽きたらしく、囲碁や将棋に夢中なのだ。  赤(猿に似てる)と黒(ウサギに似てる)はキイキイ言ったが、でも僕を何度も非難するように振り返りながら碁盤を持って去って行った。    「ほな、お、俺寝るから・・・好きにしてな」  アイツは目を閉じて、身体をまた布団に横たえる。  真っ赤になっている。  いやちゃうねん。  ちゃうねんけど。  疲れからか、アイツはまた寝込んでしまった。    これ、目さめたら僕がオナニーしたと思うんやろな。  ちゃうねん、けど。    いや、ちがわへんねんけど。  僕は苦悩していた  そういうわけや。  何がそういうわけなんかわからんけどそういうわけや。  僕は18才。  フリーター。  恋人の家に居候している。  ちょっとした高級住宅地とはいえ、今どきない位の大きな古い屋敷には広い庭もある。  恋人は大学生。    なんか知らんけど、ホンマようわからんけど、大学でなんの勉強しているんか全然わからんけど、そっち方面ではもうすでに大学に入る前から有名らしい。  でも、学校でしていることは知らんけど、でも僕、コイツが何を追究しているのかは知ってるんやね。  コイツというか、僕の恋人の一族というか。    コイツの爺さんもそうらしいし、コイツの兄貴もそうらしい。  「向こう」と、「彼ら」について調べているのだ。  向こう。    僕がアイツを犯す原因となった場所。  この世界ではない場所。  そしてそこから来るモノ達。  それらについてアイツ達は調べ続けているらしい。  生涯をかけて。  そしてそれを次の世代に受け継がせながら。  向こう側に行って帰ってきた人間がいないのでわからないらしいが、僕とアイツが行ったように、こちらの世界と向こう側がつながることがあり、それを「狭間」とアイツは呼んでいる。  狭間をアイツは調べている。  アイツはこちら側の世界の法則を全てぶちこわす、あちら側の世界と、あの化け物達にいずれ自分達の科学で説明が出来る日が来ると信じて、今はただただ情報を集め、出来る限りの生態や文化などを解明しようとしている。  ・・・らしい。  僕にはよくわからへん。  ただ、アイツのじいさんも兄貴も何年も帰ってこない家で、アイツがひたすら本を読み、フィールドーワークと称して、街を調べて回っているのは見ている。  僕らの住む街は狭間が起こりやすく、こちらの世界にとどまった化け物たちもたくさんいるのだとか。  ・・・知らんかったけど。  コイツと付き合うようになり、事件に巻き込まれてから知った。  「猫殺し」と「殺意喰い」の話はまた別の機会に。  実際、僕が居候しているコイツの家は化け物屋敷で、赤や黒以外にもおかしなもんが住んでる。  断りもなく家に入った連中が消えたというのは、街の噂やけどホンマやと思う。      死体すら残らんやろ。  喰うからな。  とにかく。  アイツが何よりも楽しそうに調べたり本をよんでるから、僕はそれでいい。  アイツが幸せならそれでいい。  それだけ。

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