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第17話 やってきたところ
狐からの電話で、僕達は病院へむかった。
アイツの応急処置のおかけで少女は命をとりとめたらしい。
飛び散った少女の腕の肉は赤と黒が綺麗に食べて、血まで舐めとってしまっていた。
凄惨な現場だった台所はすっかり綺麗にされてはいたんやけどね。
僕がアイツを抱き潰している間に。
確かにあいつらは掃除もしていた。
意外に器用なこいつらは、血で汚れた台所をすっかり綺麗にしていた。
アイツにあいつら誉められて、クンクン鳴いてアイツに甘えてたけどや。
コイツらは危険な肉動物であると僕は再認識した。
「あそこまでバラバラになったんやったらくっつかへんのやからええやないか」
とアイツはあの少女の腕の骨まで喰らったこの肉食動物達にどこまでも甘い。
当然、この家に警察が捜査にくることはない。
国はちゃんとここがどういう場所なのか知っているからだ。
ここで安全を保証できるのはこの屋敷の当主のみ。
ここは誰も踏み入れることの出来ない異界なのだ。
さすがに、やりすぎて数日寝込ましてしまったアイツのお世話を僕は一生懸命していたわけで。
バイトをやすむことはアイツが許してくれへんから(「俺の為に休むとかアホやろ」って。自分のために僕が予定を変えることをとにかくアイツは嫌う)赤と黒に世話を任せるしかなかったけど、バイトは早よあがらせてもらって(アイツには違う理由を言って帰ってきて)とにかくとにかく、僕はもう何度目かになるかわからない反省をしていた。
殺されるまでコイツはさせてくれるってことを僕は知ってるからこそ、我慢せなあかんのに。
でもやっぱり我慢できなくて寝顔で抜いてもうたけどね。
それくらいは許してや。
で、起き上がれるようになった頃に狐から電話があったわけ。
「すぐ行くから待っとれ」
アイツは狐の電話に即答した。
そして、僕の好みで着せてる寝巻きの浴衣を脱ぎ始めた。
脱ぎ着させるだけでもエロくて楽しいやん。
浴衣。
脱がせんのがええのにたったとアイツは自分で脱いでしまう。
「どこ行くん、そんなカラダで」
僕はエプロンして、食事を待つお盆を持ったまま言った。
部屋まで運んで来たんや。
マズイマズイ言うけど、自分の作ったものしか食べないはずのコイツは、僕の作ったものは残さず食べてくれるのだ。
「身体にあの男を入れていたあの子の意識が戻ったんやと。何か知ってるかもしれん。聞きに言ってくる」
アイツサッサと着替える。
でも、ズボンを履く時ふらりとよろけた。
「そんな身体であかんて」
僕は泣きそうな声でとめる
いや、僕のせいなんですけど。
足腰立たへんなるまで犯しまくったんは僕やけど。
「あの男を止めて、蟲を解放したらなあかん。あんなやり方長いこと続くわけないやろ。あんな男が死のうが、誰を殺そうが知ったことやないが、蟲を都合よう使える思てるんは許せるわけないやろ。俺が始末つけたる」
アイツは言い切った。
カッコイイ。
僕は惚れ直してしまった。
「おかんが言うたん。占い師に会いに行くって」
少女は小さな声で言った。
真っ白な顔をして、包帯でぐるぐるにまかれた右腕は肘から先がない。
破裂したのだ。
そしてここからあの男の首が産み落とされたのを僕は見た。
首だけであの男はこの少女の胎内にやどり、この少女に腕から自分を生ませたのだ。
「邪法」
そうアイツは言った。
そんなものがあるのか。
「全部話してくれ。最初から」
アイツは少女にそう言ったのだった。
「話せば何があったんか教えてくれる?あたしに?おかんに?アレがなんなのか?」
少女は言った。
「分からないまま死にたくないから・・・頑張ったんや」
少女の声は悲痛やった。
何度か死にかけたらしい。
でも、死ななかった。
狐は少女にアイツを引き合わせることにした。
何が起こっているのかを説明でき、解明できるのがアイツだけだったから。
狐達としても、この事件の解明解決が必要なのだ。
「俺はそのために来た。あの男が何をしたのかを調べるために。そして、あの男を止めるために。だから教えてくれや、知ってること全部」
アイツは淡々とした声で言った。
でも、長い前髪の間から見える鋭い目に少女はアイツの本気を悟ったようだ。
そして、コイツになら、「誰にも信じてもらえない話」をしてもよいと思ったらしい。
「おかんが言うたん・・・」
そして、彼女は話始めたのだ
[newpage]
姉が死んだ。
ホッとしたのだと彼女は言った。
「地獄やった」
部屋に引きこもったまま、何一つしない姉。
汚いゴミだらけの部屋で、薄汚れたままパソコンのモニターだけを見つめている。
しているのはゲームだ。
家計を圧迫するゲームの課金。
母親が支払いを拒否すると、家の中の物を壊し姉は暴れまわった。
母親に暴力さえ振るった。
「化け物や思ってた」
ろくに風呂も入らないで、嫌な匂いをさせ、汚い部屋で蠢く生き物。
「何で生きてるんやと」
彼女にはそんな姉よりはたった一人で自分達を育ててくれている母親の方が大切だった。
「お姉ちゃん・・・昔は大好きやったんを思い出したんはお姉ちゃんが死んだ後やった」
隠しておいた睡眠薬を大量に飲んで死んだ姉。
遺書には何度も謝りの言葉が書かれていた。
マトモじゃなくてごめんなさい。
壊れてしまってごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
どこから壊れてたんやろ。
なんでこうなったんやろ。
ごめんなさい。
もっと早く死なないでごめんなさい。
そこには化け物ではなく、優しかった姉がいた。
「いや、ずっとおったんや。化け物みたいに見えててもあそこにお姉ちゃんがホンマはおって、助けを求めてたんや。それをあたしは気付かんかった・・・妹やのに」
彼女は泣いた。
「死んだらええて・・・思ってた。おったのに、おったんや、あんなになってても、お姉ちゃんはどこかにおって助けを求めていたのに」
彼女の声にアイツの表情に僅かに動揺を見たと思ったのは気のせいか?
アイツは黙って話を聞いていた。
せっかちなアイツには珍しく。
「お姉ちゃんが死んでから、お母ちゃんがおかしくなった」
彼女はしばらく泣いてから、言った。
「多分。お母ちゃんがお姉ちゃんを殺したんや。お姉ちゃんが飲んだ薬の半分はお母ちゃんの薬やった。お母ちゃんはわかるとこに薬を出しっぱなしになんかせん。いつもなら」
淡々とその事実は述べられた。
「だからお母ちゃんは占い師のとこに行ったんや。多分、気休めを言うて欲しくて」
良い占い師というものは、求められている言葉をくれるものだから。
彼女はそう言った。
何を言って欲しかったのか。
娘が死んだのはあなたのせいじゃない、
それとも、仕方なかったんだ、そういう言葉か。
とにかく、母親は占い師の店を出たまま帰って来なかった。
脱ぎ捨てた靴から、屋上から飛び降りたことはわかっている。
だけど、発見された姿は中身を食い尽くされた皮たけの姿だった。
「あたしはお母ちゃんが占いに行くってのは聞いとった。だからその占い師に会いに行こう思っててん」
彼女は言った。
「なんで警察にその話をしてくれへんかったんや」
狐が割り込む。
「身体の中身が喰われた話と占い師が関係あるなんて普通思わへんやん。大体、あんたらお母ちゃんが皮だけになってたこともあたしには教えんかったやん。あたしはお母ちゃんの死体を目撃した人に聞いたんやから!!」
彼女は狐を睨んだ
狐は都合が悪いので黙った。
「お母ちゃんの友達がお母ちゃんにそこを紹介したんや。だからあの日、あたしは店に行ったんや」
商店街の小さな雑居ビルの地下にその占い師の店はあった。
「どこや!!」
狐が色めき立つ。
「もうおらんやろ」
アイツが冷たく言い放つ。
それでも狐は電話で彼女が言った商店街に部下をむかわせていた。
「お母ちゃんが死ぬ前に何を言ってたんか聞きたかったんや」
それに、と彼女は言う。
「もしかしたらお母ちゃんは呪われてるから占い師のところに行ったんやないかって。そして、呪ってるのはお母ちゃんが殺したお姉ちゃんやないかって思ったんや。ひどいよね、お姉ちゃんお母ちゃんに殺された上にあたしにお母ちゃんを呪い殺したって疑われて」
彼女は自嘲するように言った。
「あの男に会ってわかった。お母ちゃんを殺したんはあの男やって」
彼女は断言した。
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