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第21話復讐と目的

 「じゅすな様とそいつらは判じ蟲を呼んでいたらしい。本来巣別れ、分蜂って言うんやけどな、その時しか群生しない判じ蟲を、女王をコントロールすることで、群生させていた。判じ蟲は全体で共同意識を持つ蟲や。そう、悪意喰いに似とる。それを群生にすることで力を増させ、宿主の体内に宿る女王が受信することで、宿主に予言の力を与えたんや」  アイツは言った。  あんまり良くわかんないけど、その蟲達は予測や人の記憶を読むことに長けていたらしい。  その力を利用して、その村は栄えていたんだと。  その力を必要な人間に貸すことで、金や利権を手に入れていたのだと。  村は凄まじい権力と富を手にしていたんだそうだ。  もっとも、アイツのじいさんが60年前に破滅するのを見たから、もうなくっているはすだったんだそうだ。  「生き残った奴らが懲りずに真似したんやろ。前ほどやなかったやろうけど、それなりに栄えてたはずや。じいさんは忠告したのにな」  アイツはばかにしたように言った。  「蟲を飼うために人間を捧げ続けるなんて真似、いつまでも続くわけがない。どんなにコントロールしてるつもりでもな、力を持ってるのは捧げている方の人間や。蟲を体内に入れている、な。そして、元々は蟲の力や。自分らでなんもせんくせに、蟲や誰かを利用して乞食のように生きる連中は滅びる。その力に滅ぼされる」  アイツは断言した  女王を挿れた宿主は蟲からの影響で予見や回復能力を持つ。  そのままでは精気を奪われ死んでしまうため、定期的に人間と交わる必要がある。  そして、その宿主と交わることで、なんらかの能力を得ることもある。  「胸くそ悪い話になるけどな、宿主を選ぶ基準はな、みんなで楽しく使える人形であるために、綺麗であることや。姿形の美しい身寄りのない子をどこからか拾ってきたんや。スペアも一緒にな」  アイツがきしょい連中や、と吐き捨てながら言う。  「スペアって何だ?」  狐が聞く。  「宿主があかんなった時に変わりにつかえるようにもう一体用意しておくんや。代替わり前なら、新しい女王の入れ物にしておく。宮様言うて、宿主に仕える巫女みたいに言うてたが、体のよいスペアや。おそらく、あの女の子はスペアやったんやろ」  アイツの目が鋭く尖る。  アイツが人間のために怒るのを僕は見たことあらへん。  でも、アイツは今怒っていた。  いや、僕のためになら怒るで?  僕はほら、アイツの最愛の人やし。  えへへへへ    「笑うとこちゃうやろ!!」  にたついたところを怒鳴られた。  「ちゃうねんちゃうねん、ちゃうねん」   言い訳は聞いてもらえない。  虫を見るような・・・いや蟲ならもっと優しい目で見てもらえるのに、視線が冷たい。  その上、少女と狐にも呆れた目をむけられた。  僕はしゅんとして膝をかかえる。  ちゃうねん。  ちゃうのに。  「判じ蟲に村全部を破滅させられる能力があるのか?予知と感知が能力なんだろう?」  狐がアイツに聞く。  「判じ蟲なら、な。今アイツの中におるのは判じ蟲やない。前に村を滅ぼした蟲や。爺さんは餓鬼蟲って名付けた。変異した判じ蟲や。殺すことも出来んかったから、石化させて眠らせていたのを・・・あの男がよみがえらせたんやろ。自分に挿れて、な。人間の精気を多量に取り込んでいるから、まだ生きているけど、普通なら村人全員喰い殺して、自分も食い尽くされて死んどるはずや」  アイツは言った。  あのナメクジ姿。  あれは・・・その蟲のせい?  「爺さんが・・・だから蟲には手を出すな、人間に扱えるもんやないって言うたのに。アイツら爺さんの言葉無視しやがっんや」  アイツはギリギリと歯噛みした。  「アホどもが。蟲を利用しやがって」  アイツは本当に怒っていた。 [  「あんたの母親は判じ蟲の餌にされたんや。判じ蟲があの形を取るための餌に。死ぬことに同意している人間は蟲の餌にさせやすい。セックスとかして蟲に同調させる手間もない。ただ単にちょうどよかったから殺されたんや。・・・・・・それだけの理由でな」  珍しくアイツが気の毒そうな顔をした。  アイツは女の子に応えたのだ。  何故母親が死に、何故自分の右手が無くなったのかを知りたいという女の子に。    「あんたはなんも悪ない。こんな目にあう理由もない。あんたの母親は受け入れたから喰われたんや。・・・平気ではなかったんや。あんたのためでもあんたの姉さん殺したんは。少なくとも、姉さんは死んでも良かったもんやなかったんや・・・それならちょっとは・・・あんたはマシになるか?母親が姉さん殺したんも、・・・あんたの姉さんの存在を・・・許してやれるか?」  アイツはまるで自分が赦しを請うように少女に言った。  「おるだけで、苦痛やったかもしれんが・・・それだけやなかったって思ってくれるか?」  そういうアイツは何かおかしい。  まるで自分がその姉であるかのように言う。  引きこもり、暴れ、母親や妹を苦しめ続けたその姉のように。  母親に妹のためにならないと殺された姉のように。  母親に殺されたけど母親だって平気じゃなかった。それくらいの価値はあったと認めて欲しい、と。  ちゃうやろ。  僕は思う。  誰かの犠牲のために殺された姉。  邪魔だからと殺された姉。  何故殺した側に殺された側が赦しを請う?  それはちゃう。  「アホ言いな、確かにねぇちゃん迷惑かけてたかもしれん。それが殺してええ理由なんかになるかい!!」  僕は怒鳴った。  そんな理由で殺されてたら、僕は何回家族に殺されなあかんねん。  僕はやってええことと悪いとこがわからんところがある。  兄貴の師匠は僕を「獣」と呼ぶ。     お前には本当には人間の世界がわからない、と。  お前の罪ではないし、お前の中では・・・正しいんだろう、と。    僕にはわからん。  何がええんか。   ただ、家族が泣くから、僕を泣きながら叩くから。  あんなにも悲しむから。  僕は自分からは人を殴らん。  殴ってええのは、誰かを守る時と、リングの上だけやと決めた。  僕は前の「猫殺し」の騒ぎで、猫を殺していた犯人を殺した。  証拠になる死体が怪異達(赤と黒を含む)に喰われてなくったから捕まることもないけれど。  それを僕は当然だったと思う。  なんとも思わん。  僕はそういう生き物や。  だけど。  僕の家族は僕を諦めない。  諦めんと僕相手に戦って、僕を人間の世界でも一緒に生きようとしてくれた。  僕を愛してるから。  だから、僕は獣ながら人間の中でも生きている。  「少なくとも、後悔するくらいやったらまず、あんたの母ちゃんはねぇちゃんと戦うべきやったんや!!死ぬ気でな!!少なくとも【愛してた】とかいうくらいやったらな」  僕は言う。  僕の家族は僕と戦った。  僕と生きていくために、まず僕と戦った。  僕を恐れず、逃げず、恐ろしい獣である僕と戦った。  「殺す前に、諦める前にやれることはあったはずや!!」    僕は知ってる。  気に入らないものを殴り、暴れる息子。  親父は僕に殴らせ、僕を殴った。    「お前の中にあるそれはオレにもあるもんや!!」  親父は言った。  ねぇちゃんは泣きながら暴れる僕を捕まえ殴った。  「なんで?なんで?」そう泣いた。  でも姉ちゃんは僕に腕に歯をたてられて血を流しながらも僕を抱きしめた。  あの兄貴でさえ僕を探し、何時間でも僕を追いかけ続けた。僕がつかまるまで。  アイツ一番えげつなく僕をなぐったけどな。  「あんたはええ子や。・・・違っても」  お母ちゃんは暴れる僕を押さえつけながら言った。  沢山の人を傷つける僕を見てもなお。  締め落とされはしたけれど。  小さかった妹でさえ、僕を諦めず、家を出ようとする度に僕の脚にしがみついて「いったらあかん」と泣いたのだ。  ひきこもってたくらいで殺されるなら、僕のが殺されるべきやろ。  僕は暴れまわったし、人を傷つけまくった。  僕は死ぬ気あらへんし、殺されてやる気もせんけどね。  「殺したんやったらな、諦めたんやったらな、しゃあなかったと言い訳とか、後悔なんかすんな。戦いもせんで・・・」  僕は言った。  僕にとって、戦いこそ愛や。  諦めへんことこそ。  僕の家族は僕を諦めなかった。  僕に勝ったのだ。  僕をこの世界に捕まえたのだ。  女の子の顔がくしゃっと歪んだ。   そして何故かアイツが泣きそうな顔をした。  「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・ウチはお姉ちゃんを諦めた・・・」    女の子は泣いた。  なんだって言うんや。  殺しといて。  そんなに泣くならなんかやれることあったんやないの?  そうとしか僕には思えへん。     「お前やったら・・・諦めへんのやろな」  アイツがなんか震える目で僕を見て言った。  なんか声もかすれて目が潤んでる。  沢山イカせて、泣きまくった後みたいな熱を帯びた目にゾクゾクした。  人おらんかったら犯してる。  でも我慢した。  偉いやろ?  僕はなんでもするんやで、お前のためなら。  「で、どうするんや。あんなんどうやって殺す?殺せんの?あれ?」  いとも簡単に狐は言ったので、最初から狐はあの占い師を殺すつもりやったんやろ。  まあ、狐じゃ殺せへんやろけどな。    「どっちみち死ぬ。あんなもん飼うてて長くはもたん。早いか遅いかや。でも・・・不自然な形にいつまでも判じ蟲をしとくわけにはいかん。終わらせる!!」  アイツは言い切った。  かっこいい。  僕は惚れ直してしまう。    アイツは泣いてる少女にためらいながら聞いた。    「あんたは、姉さんを・・・一番嫌いやった時でも、あんたを苦しめていた時でも・・・ちょっとだけでも好きやったりしたか?」    アイツは怖がっていた。  聞いたくせに怖がっていた。  何をそんなに怖がって?  コイツは僕の知る限り一番勇敢な男なんやけど。  「・・・好きやから嫌いやねん!!好きやのに苦しめるから・・・でもあたしは・・・死んだらいいのにとは思ったけど、ホンマやなかった。ホンマやなかってん」  少女は泣きながら言う。   なんやそれ。  しょうもな。  僕は思った。  アイツが少女をみつめるから、綺麗な目でずっと見つめるから。  僕はこの少女を部屋から放り出したいと思った。  川に蟲を投げ捨てようとした時みたいに。  コイツとおると、家族と約束したことが出来なくなる。    それは多分僕は家族達とおるためにルールにわからんなりに従ってるけど、コイツをとられるくらいやったらこの世界におる意味がないからや。  「俺が全部終わらせる」  アイツは少女に言った。  約束するみたいに。  ムカムカしてたら僕の方へ振り返っていった。  「助けてくれ」  アイツからの初めてのセックス以外のお願いやった。  「うんうんうんうん」  僕はブンブン頭を振って頷いた。  お願いやて。  お願いやて。  めちゃくちゃ嬉しいやん!!!!  僕達は占い師を退治するんだ。  そう、僕達で!!!    僕はめちゃくちゃテンションがあがった。  だってお願いされてんもん。

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