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第22話 復讐と目的

 色鮮やかな花と鬼。   それが荒い息とともに揺れる。  男の背中に彫られたものだ。  立ったまま背後から占い師は男に貫かれていた。  男の入れ墨は美しく、背中だけではなく、尻や手足にまで入っていた。    夢中で乳首を弄るその指近くまで、綺麗な花と蛇が彫り込まれていた。  乳首を摘ままれ、占い師は甘い声を上げた。  最近は複数としていたから、一人の男だけに抱かれるのは久しぶりだ。  ポン引きと以外は。  あの男とするのは・・・欲望とは少し違うのだ。  一人の男相手だから性器や舌で塞がれることなく存分に声が出せる。    「ああっ・・・いいっ・・いいっ」  甘く声を出せばもっと貰えることを占い師は知っている。  自分からも尻を降り、それを味わうことに夢中になる。  荒い息で、また激しく突かれ、壁にすがりつきながらずりおちていく。  強く乳首を摘ままれた。  前からはしたなく零れてしまう。  執拗に内部のそこを擦られ、脳が焼かれて泣き叫ぶ。  男も喚きながら腰を振る。  その男のソレの感触はいつもと違った。  性器にいぼのようなものが無数にあるのだ。  堅い複数のいぼが、敏感な襞を裏返していくようで。  苦痛スレスレのそれは、快楽に慣れた占い師を痛みと快楽で挟み込んでいく。    「ええやろ・・・こんなん知らんやろ、コイツのは真珠がはいっとるからな」  部屋の中央で椅子に座ったまま、獣のように交わる占い師と入れ墨の男を見つめながらボスが言った。  ニヤニヤといやらしい笑みをしながら。  顔立ち自体は人が良さそうに見えなくもないのに、目に凄みがありすぎる。  その手の人間にしては高価ではあっても地味すぎるスーツをきていた。  裏の人間なのに、どこからしくない男。  楽しそうに占い師と入れ墨の男が繋がり、肉をぶつけ合うの見ている。  まるでテレビでも見るように。  占い師も入れ墨の男もその男のことを気にも止めずに欲望に乱れる。  たまらねぇ  入れ墨男は喚きながら身体をふるわせた。  白い占い師の身体は中に放たれたものを自ら奥へ送り込むように腰をくねらす。  いぼが当たる・・・ああっ・・色んな方向に当たるぅ  えぐれられるぅっ  占い師は叫ぶ。  占い師の前からはもうずっとダラダラと滴り落ちている。  占い師は壁から床へ崩れ落ちるが、腰はまだ高く抱え上げられたままだ。  動物のようなうめき声で、入れ墨男は唸ると、また腰を使い始めた。  放ったばかりだというのに。  占い師の床に落ちた上半身がはねた。  奥を突かれながら、別の突起が違う場所を擦ってくるのだ。  焼くように貫かれながら、深く抉られていく。  巨大なバールを埋め込み改変した性器に。  目を見開かれるような衝撃と、切り開かれるような甘さ。  「ああ・・・いいっ・・・もっともっともっと!!」  占い師は叫んだ。  のけぞり、床にとがった乳首をこすりつけ、ダラダラ零れる性器すら弄りはじめる。  その様子に入れ墨男は、咆哮した。  占い師を引き起こし、首筋に歯をたてながら、さらに突き上げていく。  くうっ  痛みはここまでくれば、あざやかな快楽でしかなかった。   すべての感覚を鮮やかにするだけの。  「噛みちぎって・・・食って・・・」  歯が肉に食い込む感触に身体を痙攣させた。  痛みは直接性器に流れる電流のようだった。  また零れた。  占い師はまたイったのだ。  そして男も占い師の首の肉を食いちぎりながらまた身体をふるわせる。  結合部から、コボゴホと精液がこぼれていく。  だが、ふたりの身体はなれようとはしない。  また動きはじめる。    「オレは完全に無視かいな」  ボスはため息をついた。  「そら、そうでしょ。邪魔ですやん」  ポン引きはボスの背後に立ちながら笑って言った。  「たまらんなぁ・・・オレもしたいわ」  ボスがはちきれそうになってる股間を悲しげにズボンの上から擦る。  「お前がええのを飼うてるんは知ってたけど、ここまでエロいとは。・・・ああ、ぶち込みたい」  ボスは唸る。  「やりはったらよろしいやん」  ポン引きは不思議そうに言う。  「アホ抜かせ。あの今相手させとる奴、オレも目をかけてたそれなりのヤツや。金とか欲とかにもそれなりに耐性があるんよ。暴力とか欲とかはな、目的のためにコントロールできな意味あらへん。上を目指して生き残るためにはな。・・・でももうあかんやろ、見てみぃ、もうただの猿や。あのお兄ちゃんとやることしか考えられんなっとるわ、もう使い物にはならへんわ」  ため息をボスはつく。  「セックスは大好きやけどな、それで破滅するのはゴメンなんや。オレはそこそこの相手でじゅうぶんや。当分あのお兄ちゃん思い出してオナニーするけどな。撮影しときたいけど、ヤバいもん残すようなことはしたないしな・・・ああ、やらしいな、お前は突っ込んどるんやろ、ええなぁ」  ボスはじろりとポン引きを見た。  「そらそうです。ボクのお仕事ですやん。舐めて綺麗にして、慰めてあげてリセットしてあげんのが。ボクには、別に何も問題ないんですけどね。可愛いだけやないですか」  ポン引きは言ってのける。  「それはお前がこの世界でもめったにおらんド変態やからやろ。お前は肉体とか穴の中での快楽や射精するより、可哀想なヤツを慰めるんがたまらへん、可哀想であればあるほどおっ勃てるド変態やかや。でも、ハマってるやろ。アイツみたいな狂い方はせんくても」  ボスはポン引きに笑う。  ニヤニヤと。  「そらたまりませんよ。あんな可哀想な子おらへんもの」  ポン引きは素直に頷いた。  「お前は確かにようやってきた。こっちが頼んだ女を慰めてよろんこんで働かせてくれたし、お前が自分で抱えてる女で稼いだ金からちゃんとこっちに払ってる。・・・でもな、あんなもんを、あんなヤバいもんやと言わんで飼うてたんは・・・問題やな」  ボスは世間話のように言う。  「そやからちゃんと今、報告してますやん。ボクかてここまでヤバいもんやと思ってなかったんですって」  ポン引きは拗ねるように言った。  「オレにそんな口きくん、お前位やぞ」  ボスは呆れたように言った。  「で、どうしたいんや、何か考えがあるんやろ」  ボスは熱心に占い師と入れ墨男を見ながら言った。  入れ墨男は床に崩れ落ちた占い師の背後から、より深く奥を犯そうと夢中になっていた。  鮮やかな入れ墨を纏った肌が、真っ白な占い師の肌を侵食するかのように重なる。  占い師の喰いやぶられた首はもう血が止まっていた。  「ああ・・・すごい・・・こんなんありえん」  入れ墨男は恍惚と呻いた。  一番奥をゆっくりと味わっているのだ。  「すごっ・・・くうぅぅ」  涎を流し男は呻く。  言葉にならない獣のなきごえになっていく。  身動きできない寝たまま背後から貫かれる責めに、占い師は自由にうごかせる首だけを振って、声をあげる。  「奥・・・好きぃ・・・奥、好きぃ・・・」  泣き声が甘い。  白い腕は入れ墨の入った腕に頭の上でおさえこまれていた。    でも、おさえこまれ、犯されながら、支配しているのは占い師だった。    もっと  そう叫ばれて入れ墨男はそれにこたえる。  奥に欲しい  そう泣かれて、そこで放つ。  もっともっともっともっと  狂ったように腰を降り続ける。  欲しがられ、与えずにはいられない。  ひぃぃぃ  ひぃぃぃ  男は顔を歪めてなきはじめる。  犯しているはずの男にむしばまれていく。  終わることを許されていないのだ。  「・・・・・・萎えてきたわ」   ボスは覚めた声で言った。    「あの相手を一人でするなんて、無理なんですわ」  ポン引きはニコニコしながら言った。    「このままだと死にます」  それもつけくわえた  「まあ、ええ、向こうで話しようか」  ボスは立ち上がりながら言った。  「お前のお願い聞いたるわ。あんなもんベッドに送り込まれたらオレでもやらんですんだかわからんしな」  ボスはワザとらしく身体をふるわせてみせた。  「こわっ・・・女のソコに牙が生えててアレを食いちぎられた夢を見た時以来や」  そういうボスの目には確かに恐怖があった。    「あのお兄ちゃんの定期的なセックス相手とあのお兄ちゃんのペットの生き餌の提供。そしてお兄ちゃんとペットの保護。それに対する見返りはなんや?」  ボスはポン引きにたずねた。    二人は立派なリビングでボスが部下に持ってこさせたカップラーメンを啜っていた。  高価なソファにもたれながら、実にうまそうにボスはラーメンを啜る。  ポン引きもニコニコ嬉しそうに食べていた。  隣りの部屋とは違って、ここにはしっかり護衛がいて、部屋の外にもいる。  そして勿論、武装しているだろう。  「ええもんは飽きてもうてな、貧乏育ちはあかんなぁ」  ボスはポン引きに笑ってみせた。  「ボクにはこれが最高なんやけどねぇ」  ポン引きはそう言いながらも満足そうに箸をおいた。  「お前は性的嗜好も、ど変態やし、味覚も、価値観も何もかもがおかしいだけや。オレはお前のこと買っとるんや。でも、可哀想な女や男のまだぐら舐めるんがお前の最高の楽しみなんやろ、この異常者」  ボスはそう言いながらも、ポン引き相手に機嫌がいい。  「で、オレはお前らから見返りに何をもらえるんや?」  ボスは子供みたいにキラキラした目でポン引きに言った。  「新しい神様。そこから何を引き出すんかは・・・ボス次第になりますけどね。もともと、あのお兄ちゃんは神様やったらしいから。お告げをしてくれますよ」  ポン引きは言った。  「お告げ?」  ボスは首を傾げる。  「未来を視てくれるんですよ。そしてお告げをしてくれる。ホンマか嘘かは知らんけど、人はそれを信じる。・・・・・・信じんかったらセックスさせたらええ。それで離れられんなる」  ポン引きは簡単に言った。  「宗教か・・・」  ボスは考えこむ。  「信じさえすれば・・・金はどうやってでも引き出せるようになるやろし、裏切られることのない労働力も手に入る。信じますよ、本物やから」  ポン引きは請け負った。  「警察に追われているヤツを使ってか・・・ウチも警察とは上手くやりたいんや」  そう言いながらもボスは頭の中で算盤を叩いていた。  「警察にも抱かせたらいいですやん。どうせ知り合いなんでしょ。抱かせたら、もうあかんなる」  ポン引きは鼻で笑う。  「まあ、欲にまみれた警察なんか・・・あのお兄ちゃんに腑抜けにされるわな」  ボスは何か決めたようだった。  「でも、お前はなんでそこまでするんや。オレがお兄ちゃんの保護したったところでお前の利益にならんやろ」  ボスは聞く。  「決まってますやん。あのお兄ちゃんはもっともっと可哀想になるんですよ、ボスにむしり取られて、道具にされて。あのペットだけを守るためだけに、何でもして。可哀想で可哀想で・・・慰めてあげたくなりますやん。とことん可愛いがりたいですやん」  うっとりとポン引きは言った。  「もうお兄ちゃん、守るものなんかないのに必死で守ってるのが・・・たまらん位可哀想で・・・それを慰めてあげるんです」  ポン引きは愛しげに微笑む。   胸を押さえて。  そこが愛しさで痛むかのように。  「うわぁ、オレドン引きするわ・・・」  ボスは嫌そうに言ったが、目は笑っていた。  「ええやろ」  そして、そう言ったのだった。  「匿ってくれる。ちゃんと相手も用意してくれるし、餌もくれるって」  優しく占い師の髪を撫でながらポン引きは言った。  その心地良さに、占い師は猫のように全裸の身体をポン引きにこすりつける。  生々しい性交の跡がその白い身体には残されたままだ。  精液も吸われたあとも・・・。  そう、ポン引きとボスが部屋に戻った時、入れ墨男は苦悶の表情のまま、挿入したまま死んでいた。  老人のように干からびて。  死ぬ最期の瞬間まで射精し続けていたのだろう。  「理想の死に方やな」  ボスは笑っただけだった。  ポン引きは入れ墨男を占い師の身体から離した。  そして、占い師を横抱きにしてこの部屋に連れてきたのだ。  しばらくここに住むのだと言った。  ベッドがふたつだけある部屋で、もう一つの反対にあるベッドにはあの子が安らかに眠っている。  光のない湿度もそれなりにある部屋。  占い師は満足した。  「足りた?」  ポン引きは聞く。    占い師は頷く。  あの入れ墨男は頑張ってくれた。  優しく唇に唇が重なった。  柔らかく噛まれ、そっと唇を舐められる。  思わず開いた口の中で、舌を絡められ、優しく噛まれ、吸われた。    優しい、優しいキスだった。  傷つけられたなら、傷つけられる程感じるセックスの後で、そのキスは見えない傷口に染み入るようだった。  「綺麗にしてあげるね。全部」  優しい言葉が耳から染み込む。  この男は危険だ。  占い師は思う。  この慣らされた身体はどんなセックスでも受け入れる。   でも、そのどれともこの男とすることは違う。  「ボクがあんたを綺麗にしてあげる。あんたはもう大丈夫や」  でもそう囁かれながら、撫でる手の優しさも、いたわるように始まる舌の動きも、受け入れてしまう。  感じるだけじゃなく。  「あっ・・・いやっ・・・」  そう言ってしまう。  何をされても怖くなるなんて、なかったのに。  ポン引きは目を細めた。  「あんた・・・ボクとする時だけ・・・いやとか言うねんね。いつもはもっととしか言わんのに」  優しく耳を舐められ、囁かれる。  当たり前だ。   精気が欲しい。  それが全てなのだ。   もちろん快楽もある。  それは全部奪うためのものだ。  でも、汚れた身体清めて慰められるように抱かれるこれは・・・それじゃない。  「うるさい・・・黙れ・・・ああっ」  優しいただ優しい快楽に占い師は身を委ねる。  いつも欲しがる身体はポン引きの優しい指には怯える。  優しすぎて。  もっともっとと強請ることなく。  優しさに怯え、でも癒やされていく。       初めての少女のように怯えながら感じる。  「あんた可愛い。すごい可愛い。ホンマ可愛い。愛しすぎて死にそうや」  身体についた入れ墨男の精液を舐めとりながら、ポン引きは言う。  「こんなになってまで頑張って・・・可愛いすぎるやろ、いじらしすぎるやろ・・・可愛いなぁ」  暖かい手はどこまでも暖かく、優しさが指先から流れ込むようで、占い師はつい泣いてしまうのだ。  「可愛いなぁ・・・可愛い、ホンマに・・・」  涙を拭われ、穴の中で吸収しきれなかった精液を舌で舐められすいだされ、入れ墨男の形になったそこを直されていくのだ。  ポン引きのもので擦られて。  「可愛い・・・」  愛おしむような声とともに揺すられるのは、優しさに包まれること。  脳を焼くような快楽ではない、浮游するような快楽に身を任せる。  これは危険なものだ。  「なあ、名前教えて」  甘えるように言われて答えてしまったことが、この快楽が危険であることの証拠だった。  占い師がするセックスはせいぜい相手が死ぬだけだ。    身体が弱るだけだ。  相手の心が恐怖で壊れるだけだ。  だがこの男のするセックスは。  いや、これはセックスですらない。  「   」  占い師は答えてしまっていた。  あの子と二人だけでしか使うことのなかった秘密の名前を。  それは恐ろしいことだった。  「   」  名前を呼んで優しく身体ごと揺すられたなら。  魂に触れられ、優しく慰められているようで。  もう、浮游し、溶けるしかない

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