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第26話 始まりの場所

 「コケにされたな。ガキ二人にか」  男は笑う。  楽しそうだ。  「ええ度胸やな。ウチにスカウトしたいわ」  結構本気な口調で男は言った。    最低限の暴力であのガキ二人はヤクザの事務所から人を攫ってみせたのだ。  大したものだ。  わけのわからん能力を使ったとしても、徒手空拳。  素手で乗り込んできたのだから。  何者なのかは薄々分かった。  警察と、上の方から「そのガキ達には構うな」というお達しが来たからだ。  「手をだしてはいけないモノ」に手を出した、男がいけないのだと、彼らは言った。  「あのガキは手を出してはいけないモノを始末してくれる」存在なのだ、と。  ガキにも、アレにも、もう関わるな。  忘れろ、そう警察も、上の方も言ってきたのだ。  ガキ共の味方をする気もないようではあるけれど。  お前は侵入してきたガキを殺せなかったんだからもう諦めろ。  それくらいの感覚のようだ。  この街については男は知っている。  他の街とは違うことは知っている。  ここには人間以外のモノが蠢いているのは知っている。  闇に生きているからこそ、欲望や殺意が蠢く場所に人間以外のモノを感じざるを得ないのだ。  この街にはこの街のルールがある。  そしておそらく、あのガキはルールの一つなのだ。    やれやれ。  男は溜息をつく。    「で、アレはどうするんや」  男は隣りに立つポン引きに言った。  「どうしましょ」  ポン引きは呑気に言った。  うぉっっっ   うぉぉぉお   ぐぉぅぁ  占い師が叫んでいる。  美しい顔が裂けんばかりに口を開き喚いていた。  白い肌が、赤く染まっている。  血管という血管が浮かび上がっていた。  全身の筋肉が盛り上がっていた。     胸から床まで沈み込むように貫通している椅子の脚が、メキメキと音を立てている。  床と身体と一体化してしまった椅子を身体から抜こうとしているのだ。  普通の人間では無理だ。  絶対に抜けるはずがない。  床や肉と溶け合う合うように椅子は一体化してしまっているのだから。  きしゃあ  ぎぃぃぃしゃぁっ  占い師は吼えた。  占い師は椅子の脚以外の場所を片手で破壊した。  ビスケットでできてるかのように椅子の背もたれや座部は吹き飛ぶ。  脚だけを掴んで引き抜こうとするが、細胞レベルで胸部や床に溶け合った椅子の脚は引き抜くことができない。  だから。  占い師は椅子の脚が貫いた周りの肉ごと、掴み引きちぎりはじめた。  ぐちゃり  ぐちゃり    指で引きちぎり、剥いでいく。  地面に刺さった棒の周りの土を削って抜くように。  ぐぎきぃい  ぐぁぁぁい  苦痛に占い師は叫ぶ。  「ああやってまで・・・どうやってでも・・・アレはあの女の子に執着するんやな」  さすがに男は顔を嫌悪に歪めた。  自分の肉を指で剥いでまで、あの女の子を追う執念にゾッとして。  「可愛いやないですか。あんなに頑張っても、もう執着してるもんはおらんのですよ、可哀想過ぎて・・・勃起が止まらんですわ」  ポン引きは笑った。  「オレはもう知らんぞ。警察と上まで敵にまわすべきやないしな。損な取引やったわ」  男は溜息をついた。  「・・・残念です」  大して残念そうではない声でポン引きは言った。  「お前はどうすんねん」  男は言った。  「いつも通り、最後まで付き合いますよ」  ポン引きは笑った。  「ああ、骨までしゃぶりつくして、殺すんがお前のやり方やったな」  男は肩をすくめた。    この男は優秀だ。  この男に任せたならどんなに身体を売ることを拒否していた女も、男も、喜んで身体を売るようになる。  コイツを喜ばせるためだけに。  ボロボロになるまでコイツのために稼ぎ・・・。  役にたたなくなると、自分から喜んで死ぬのだ。  コイツのためだけに。  だから、使ってる。  言うことを聞かせたいやつに云うことを聞かせるために。  こっそり殺したいやつを殺すために。  この男は抱くだけて相手を意のままにするのだ  「それは誤解ですよ、僕はぁ、相手が可愛くてたまらへんだけですよ」  悪魔のような「ポン引き」、いや「調教師」はそう言って、呑気な笑顔をみせた。    「片付けろ。この街にはあの化け物はいらん。もう化け物はたりてるんや」  男は言った。  ポン引きはにっこりと笑った。  男は安心する。  これでいい。  これで。  この男が始末をつける。  男は指で自らの肉を削る化け物と、ポン引きを残し、その地下室から部下達を引き連れ、出て行った。  「可哀想になぁ・・・。精気が足りへんから、そんな椅子をぶち込まれても動かれへんのやろ」  ポン引きは必死で肉を指でむしりとり、なんとか胸にめり込んだ椅子の脚を取ろうとしている占い師の側へいく。  ぎしゃあぁぁ  ぎきひぃぃい  苦痛に呻きながら自らの肉を掴み出す占い師はもはや、美しいとは言えなかった。  憤怒の苦痛に真っ黒になった顔。  目はつりあがり、口は裂けたように開いている。    肉を掴み破る指は血にまみれ、抉られ血が吹き出す穴を胸に広げていた。  「止め。力もないのにそんなんして、時間が無くなるだけやろ。お前も長ないし、あの子もそろそろあの姿を保ってやれへんのやろ」  優しく占い師に向かってポン引きは言った。  ぎぃぃぃしゃぁっ  もはや人間ではない顔で、占い師はポン引きを睨みつけた。  また指を血が吹き出す傷口の中にいれ、肉を掴みだす。  肉が千切れる音がして、また占い師が叫ぶ。  うぎゃぁききい    べちゃっ、濡れた音を立てて掴みだした肉が床に投げ出された。  「止めぇって」  ポン引きは溜息をついた。  そして、おもむろに服を脱ぎ捨てる。  初めて占い師が動きを留めた。    「ドウイウツモリダ」  嗄れ声で占い師は云う  「精気を分けたろ言うてんねん。精気さえあれば、お前、あのでっかいナメクジになってあの子を取り戻しに行けるやろ?」   ポン引きは全裸になると、自分で自分の性器を扱き始めた。  「今のアンタじゃさすがに咥えてもろても勃たへん。でもちゃんと仕事したるから待っとき」  ポン引きは笑った。  「馬鹿ガ。オ前一人ノ精気デ足リルワケガナイ。死ヌゾ」  占い師が人間の声とは思えないほどの軋んだ声で呻いた。  「・・・可愛いやん。ボクの心配してくれてんの?勃ったわ・・・」  ポン引きは、ニコニコ笑った。  そして確かにその性器は勃起していた。  「・・・心配いらん。ホンマのこというたらな、僕一人おったらアンタは十分やったんや」  ポン引きはそう言いながら占い師の白い脚を撫でた。  そして、その脚に唇を落とす。  悪鬼の顔のまま、占い師が呻いた。  もう、美しくはないその顔を見つめながら、ポン引きは占い師の脚を担ぎ上げる。  その穴は、慣らす必要さえないだろう。  あの少年達が来るまでここに二本もくわえていたのだから  「止メロ死ヌ。食イ尽クシテシマウ!!」  占い師が喚く。  ここまで弱ってしまったなら、一人程度精気を喰いこ殺しても、精気は全然足りない。  この穴に挿れたら最後、ポン引きがカラカラに干からびるまで、占い師は精気を奪い尽くすだろう。  ポン引きを失うわけにはいかない  この男は必要なのだ。  必要なのだ。  「そんなになってもボクを心配してくれんの。可愛い。めちゃくちゃ勃つし可愛い。・・・・・・可愛がったるな」  占い師が精気を奪い、人の精気を奪い殺したのを見たことがあるのに、ポン引きは呑気に笑って占い師のその穴にゆっくりと性器を突き立てた。  そして、そんなになっても、そんなになってしまっているからか、その穴は甘く淫らで、たまらなかった。  「ああ、やっぱりあんたええなぁ・・・散々抱いて来たけど、一番ええわ。あんたのケツマン○は最高や。熱うて、締まって、絡みつきよる」  ポン引きはその奥にまた放った。  放つ度に占い師は美しさを取り戻していく。  悪鬼のようだったその顔は、今は白い硬質な美しさと、蕩けるような淫らさのどちらをも持つ、あの美しい顔になっている。  んっ  ああっ  いいっ  占い師は喘ぐ。  腰を揺らす。  また絞りとるために。  「ふふっ・・・可愛いなぁ、ほんま可愛い」  ポン引きは笑ってまた動き始める。  占い師は貪欲に締めつけ、味わいながら、これはおかしいと思い始める。  自分が満足するまでは、誰もセックスをやめることなど出来ない。  だが。  だか。    皆、泣き叫ぶのだ。  許してほしい。  もう、無理だと。  なのになぜ、この男は平然と占い師が望むままに、精を放ち続けることができるのだ?  また与えられた。  腰を蠢かし、奥て搾りとるように中を痙攣させる。  欲しい。  欲しい。  精気が欲しい。  「たくさん食べや・・・ほら、な?」  何度放ってもかたいままのそこが、また中を擦り始める。  揺すられる。  中を嫌らしく、ねっとりと好きなところばかり擦られる。  ゆっくりした動きが・・・かけられる重みが・・・甘く澱んで、中に溜まっていく。    「優しいのが好きやもんね。優しく、いやらしーく、しつこく苛められるんが、ホンマは好きやもんね。こうやって、優しいキスとかされながら、ギリギリまでイクかイカへんかのところで我慢させられるんが好きでしょ?」  唇に首筋に甘く咲くようなキスを繰り返される。  そしてねっとりと腰は重みをかけ、ゆっくりとじっくりと擦っていく。  それが好きだった。  貪るように抱かれ、激しくむさぼられてきた身体には、優しく焦らして溶かすもどかしさが、甘くては耐え難い。  優しく重ねられるキス。  軽く甘い。  ゆっくり重みをかけて擦られるその中の甘い重さに思わず腰を揺らしてしまう。  甘やかすように髪を撫でられる。    そんな感触に身体を震わす。  「好きぃ・・・これ好きぃ」  泣きじゃくり、尖った乳首をポン引きの身体にこすりつけて、キスを強請る。  「優しい抱かれたことなかったんやもんなぁ・・・可哀想で可愛いわ」  またゆっくり腰が動き、淡いキスを唇に落とされ、そこからとける。    占い師は求めてしまう。  身体は快楽を求めるようになっている、  そうでなければ、生きられなかったからだ。  どう扱われても快楽は得られる。  でも、この男は違う。  違う。  快楽以外を与えてくる、身体ではない触らせてはいけない部分に触れて・・・抱いてくる。  「ほら、優しいしたるから、甘えーや」  髪を撫でられ、頬を撫でられ、優しい声で囁かれ、ゆっくり甘く追い詰めすぎない手前をたゆたう。  足りないのが優しい。  奪われすぎないのが甘い。  優しく見つめられる目がへんに胸の奥に来る。    占い師は怯える。  何にも怯えたことなどなかったのに。  この男は危険だ。  危険すぎる。  「なんで・・・死なない」  また中に放たれた。    それを即座に吸収していく。  でも、ポン引きは弱る様子すらみせない。  またゆっくり動き始めるのだ。  有り得ない  普通、もう死んでいる。  「・・・・・・ああ、心配せんでええ。ボクは大丈夫なんよ」  ポン引きは優しいキスをまた唇に落とした。    「ああっ・・・んっ・・・何故だ・・・」  優しくしつこく中を擦られ、喘ぎながら占い師は言う。  イキたい。  寸前で止められすぎていて。  心地よいけれど、もうイキたい。  イキたい。    それだけて頭がいっぱいになりそうになる。  だが、占い師は知らなければならなかった。  自分を抱く、この男の正体が何なのか。  「お前は・・・何だ!!」  人間ならとうに死んでいる。  何故これだけ相手ができるのに、わざわざ他の人間を呼んで占い師を抱かせてた?  「商売」のためならわかる。  でも、殺さなくてもいいヤクザも抱き殺させている。  自分が相手をしたらいいだけなのに。    とにかく解ることはコイツは人間ではない。  では何だ。  人間ではないなら、コイツは何だ。  「人間じゃな・・・い。ああっ・・・いい」  優しい動きから、強く突かれて、占い師は声をあげる。  イキたい・・・  イキたい・・・  炙られ続ける快楽に出口か欲しくて、身悶えし、自分から動く。  「もうアカン?・・・イかせたるわ」  優しく笑われ腰を打ちつけられる。  「お前は・・・お前は・・・何だ!!」  それでも占い師はそれを忘れない。  これははっきりさせておかねばならない。  「何」に自分が抱かれてきて、今抱かれているのか。  ごまかすように、腰が激しく動き、確かにそれは正確に占い師の意識を貫く。  ああっ   イクっ  イクっ  泣き叫びながら、それでも占い師はその間に問う。  「お前・・・は何だ!!」  甘く重ねられて来た唇を噛んだ。  誤魔化されたくはない。  血の味は人間のものと同じだった。  でも、コイツは何かがおかしい。  ポン引きは噛まれた唇を舐めて、ため息をついた。  動きがとまる。  繋がったまま見下ろされた。 [newpage]  「まあ、ええか、教えても」  ポン引きは微笑んだ。  ちょっと困ったように。  そして言ったのだ。  「ボクもアンタと同じなんよ」  ポン引きは割れた腹を撫でた。  占い師が零すモノで汚れた腹を。  「ボクも飼うてる」  ポン引きは言った。  突然、腹が水面が波打つように揺れた。  腹が蠢く。  ゴボコボと、何かが皮膚の下で溺れているかのように。  「出ておいで」  ポン引きは自分の腹に向かって言った。  腹の皮膚がひきつれた。    ボコンボコン  腹の皮膚がうごく  皮膚の下に何かかがいるみたいに。  「ボクもアンタがと一緒なんや・・」  ポン引きは自分の腹を撫でながら笑った。  ポン引きの引き締まった腹から、それが飛び出した。  そう、占い師が今、両胸から椅子の脚を突き出させているみたいに。  ポン引きの腹から飛び出したのは枯れ木のような真っ黒な腕だった。    腹の皮膚を突き破って出て来ているはずなのに。    まるで皮膚が液体であるかのように、その腕は皮膚を透かして体内から飛び出していた。  まるで皮膚が液体であるかのようにその腕は皮膚の上を自在に動く。  水面に突き出した腕が動くように。  「腕だけやなくて、出ておいで」  ポン引きは優しい声で言った。  それは出てきた。  水面から顔を出すみたいに。  真っ黒な、クシャクシャの干からびた薫。  ただ、その目だけは膿んだような熱量があった。  「かのんわまねひ」  それは言った。  占い師にむかって。  上半身をポン引きの腹から飛び出させて。  そう、醜い生き物がポン引きの腹から生えていたのだ。

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