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第29話始まりの場所
占い師とポン引きは最後に舌を貪りあった。
占い師は笑った。
それは無邪気とさえ言える笑顔だった。
「お前には感謝している。・・・・・・戻って来たらお前を手足を切って閉じ込めて、お前を飼おう。私の餌として」
その声は甘い。
「飼われるのがボクの専門やからね。優しく慰めてあげて、養われるのが」
ポン引きは占い師の髪を撫でた。
「戻って来るのを待っていろ。お前なら腕や脚などなくても私を満足させられるだろう。・・・お前の世話ならあの子と二人でしてやる。大事にしてやる・・・」
占い師は甘えるようにポン引きの胸に顔をこすりつけた。
そして、言った。
「では行ってくる」
そっとポン引きは占い師の身体の上から退いた。
占い師は立ち上がろうとした。
肉とコンクリートと完全に融合した椅子の脚が、床に串刺しにしているのに。
めりめり
ぶちゅ
ぶちゅ
ぐちっ
肉が千切れる音が響く。
血が吹き出す。
胸の椅子の刺さった周囲すべての肉を引きちぎるようにして、占い師は立ち上がっていく。
吹き出す血。
千切れる肉。
胸にどでかい穴を2つ開けて、占い師は立ち上がった。
椅子の脚が刺さった周囲の肉ごと床に残したまま。
床に刺さったままの肉の中に、脈打つものがある。
それが心臓だとわかって、さすがにポン引きも青ざめた。
占い師は床に心臓を貫かせたまま、立ち上がっているのだ。
「この身体に心臓なんて・・・必要ない」
占い師は笑った。
穴が開いたまま、身体は再生していく。
胸に開いた2つの穴を白い皮膚が覆っていく。
反対側まで開いた穴は、奇妙にエロチックで、そんな占い師にポン引きは欲情し、そんな自分に呆れた。
「・・・アンタが帰ってきたら、そこの穴にボクのチ○ポ突っ込んでもええ?」
真剣に言う。
占い師はさすがに目を丸くした。
そして、笑った。
面白そうに。
そんな顔も見せたことのない顔で、ポン引きまぶしそうに目を細めた。
「好きにしろ・・・待ってろ。お前は大事な大事な私の餌だ。・・・」
甘く囁かれた。
「どこに行くん?」
ポン引きは聞く。
「あの子と私は繋がっているからね、どこへ逃げても・・・無駄だ」
占い師は顔を憎しみでゆがめた。
許さない。
許さない。
あの子を奪うものはすべて許さない。
占い師の美しい姿がとけた。
巨大なナメクジになる。
前面に張り付いた人間の顔が吠えた。
「かなや、らはしなゆ!!」
それはもう、人の声ではなかった。
ドアが吹き飛んだ。
破壊音が続いていく。
おそらくドアも何もかも吹き飛ばしただろう。
あっという間にナメクジは消えた。
階上から悲鳴が聞こえるが、気にしなくていい。
誰かを傷付ける手間さえ占い師は惜しむだろうから。
「行ってしまったか」
ポン引きはため息をついた。
「はらなわや」
腹からポコンと殺意喰い画飛び出し、ポン引きに尋ねる。
「もう、帰ってこないよ・・・。可愛かったのにね」
ポン引きは寂しそうに殺意喰いに言った。
「ちゃんと死ねたらええけどな。死なしてあげたいんよ」
ポン引きは心の底から言った。
ポン引きの、その優しい殺意を、殺意喰いは食べたのだった。
沢山の不幸な女や男達を、最後は自分で死ねるように導いてきた、優しい男は、可哀想で必死で可愛い、今の恋人のことを思いやった。
きちんと死ねるかどうか。
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