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第34話 滅ぼせ

 青年を犯すために屋敷にやってきた男が玄関で見たモノは、蟲部屋にいるはずの蟲達だった。  「じゅすな様がどうして・・・」  男は呟く。  蟲の、じゅすな様がなぜこんなところに。  そして、一糸纏わぬ姿の青年が薄暗い屋敷の奥から白い身体を浮かび上がらせて歩いてくるのが見えた。  赤く尖った乳首、そそり立った性器。  潤んだ瞳。  セックスの匂い。  生々しい息づかいに触れられるような姿だ。  男は思わず唾をのみこむ。  今日のじゅすな様は・・・いつもにも増して・・・。  しかし、しかし、これは・・・・・・  男は恐怖も感じる。  違和感。  違和感がある。    蟲部屋にいるはずの蟲のじゅすな様が、いるはずのない場所にいる。  言われるがままに犯されるだけの人間のじゅすな様が服を脱いで自分から欲情している。  おかしい。  おかしいのだこれは。  「・・・あなたが必要だ」  人間の、じゅすな様が言った。  白い腕を男の首に絡めて。  唇はなんて赤い。  瞳はどこまで黒い。  じゅすな様を宿す人間は、肌も髪も瞳も・・・甘く香るような艶になるという・・・  「ああ・・・じゅすな様・・・」  男は逆らえない。  違和感の中、じゅすな様を玄関先で犯し始める。  その胸にしゃぶりつき、脚を押し開く。  一刻も早くはいりたかった。    「あなたが必要だ」  じゅすな様は誘うように尻を振った。  自ら指で穴を開き、濡れた赤い粘膜をみせつけながら。  女の穴のように・・・濡れるじゅすな様の穴。  そこは熱くて、締め付けてきて、蠢くのはもう知っている。  美しい男が、身体の下でその肉や肌をいやらしい形に揺らしていくのがどれほど扇情的なのかも。  でも、こんなに欲しがるじゅすな様は・・・初めてだった。  柔順ではあっても・・・・・欲しがりはしなかったのが物足りなくはあった。  だが、今。  淫乱に貪欲に男を欲しがる、じゅすな様がいた。  獣のように声をあげ、貫いた。  青年も声をあげる。  ああ、  あなたがほしい  欲しい  青年の声に男は猛る。  獣になった気持ちになり、乱暴に犯し始める。  だが、それは・・・  自分が喰われていることに気づくまでの僅かな間だった。  許して  許して  泣き叫んでいるのは男だ。  組み伏せられ、青年の下で泣いているのは男だ。  血を吐きながら、カラカラに枯れ果てながら、それでも吐精させられている。  男の上で貪欲に腰を揺らし、青年はまた男の精を搾り取る。  青年は笑っていた。  セックスが生まれて初めて楽しかった。  快楽も欲望も、どこか薄い膜の外のように感情いた。  自ら欲しがったことなどなかったのだ。    でもいま欲しがった。    死にかける男の命を吸い取るのが楽しくて仕方ない。  カラカラに干からびていくのに、自分の中にある男のモノだけは熱く硬く、気持ちいい。  視ていた占い師も青年に重なる。  青年と占い師は同じだ。   お前達こそ奪われろ   お前達こそ道具だ   お前達こそ死ね   死ね   死ね   死ね   私の為に死ね  中に放たれる精は、熱く気持ちいい。  それが命だと思えば思うほど。  捧げれれる命は快楽だった。  泣きながら、それでも快楽に歓喜し、恐怖しながら男はくちから吐血して死んだ。  もう揺すっても、そこから絞れることはない。  青年(占い師)は渋々それを抜く。  青年が乗り捨てた亡骸に、玄関に蠢いたていた蟲達があっという間にたかる。  またたく間に皮だけ残して食い尽くされる。  青年(占い師)は笑った。  こんな楽しいことはない。  男の精液や自分の精液でよごれた身体に何も纏わないまま、青年は玄関の戸を開けた。    こんな気持ちで戸を開けたことなどなかった。  屋敷から出たところで、自由などないから。  閉じ込められていることにはかわりがないから。    でも今。  自分は自由になった。    神と言われながら、奉仕させられていた自分が、今、本当の神になった。  「いこう・・・みんな殺そう」  青年は蟲達に言った。   ちっちっちっ   ちっちっちっ  蟲達が従属音を鳴らす。  蟲達も永く閉じ込められていた部屋から出て、数百年ぶりに外に出る。  この村に許して良いモノなどいない。  この村は青年とあの子を踏みにじることで成り立ち、村人達はそれに目を瞑ってきたのだ。  ここで生きる人間の全てが、青年とあの子を踏みつけることを許してきた以上、もう生きている必要はないのだ。  だって、今、青年は神になったのだから。  青年は笑いながら外に出た。  今、初めて閉じ込められていた世界から、外に出た。  卵の殻が割れたのだ。  神として、青年は外に出た。  罰をこの村に与えるために。

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