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第36話滅ぼせ

 それからは早かった。  占い師は服さえ着ないで、裸のままお堂まで走り木像を叩きつけ割った。  そして、それを取り出した。  緑に輝く、ソレ。  石になって眠っている、変異体を。  まだ男達の精が零れる孔に押しこんだ。  何が始まるのかは・・・・知っていた。  孔に残る男の精が石を濡らす。  それは占い師の中で割れ、生まれた。  まだ小さいはずのソレは占い師の中の精を受け瞬く間に大きくなっていく。  「あっ・・・んっ」  占い師は広げられる感覚に呻く。    そして、占い師を追いかけてきた村人達がお堂に入ってきたことに歓喜する。  「じゅすな様・・・裸で何故・・・」  困惑したまま声をかけてきた男は、占い師の姿をみて言葉を失う。  真っ白なじゅすな様。  黒い髪を広げて、お堂の床で淫らに脚を広げて、その孔を弄るじゅすな様。  精が零れ、こっぽりと空いたソコ・・・。  真っ黒な光が吸い込まれるような目が男を見上げている。  赤い唇が濡れたように光る。  「あなたが必要だ・・・」  占い師は心の底から言った。  のしかかってくる男の首に腕を回す。  始まるのだ。  始まる。  前の時のように、復讐に時間をかけない。  同じ轍は踏まない。  さあ、出来るだけ確実にこの村を終わらせて。  そして、死のう。  そして、蟲達を解放しよう。  蟲達ぐらいは・・・自由に。  占い師はそう思ったのだった。  そして、村を滅ぼす力を得るために、男のモノを自分から喜んでうけいれたのだった。  「じゅすな様・・・じゅすな様・・・」  男はその身体に溺れた。  死ぬまで  村をその日の内に滅ぼした。  邪魔が入った前回と同じ轍はふまなかった。  身体を刻んで蟲を取り出され、恐怖と痛みの中死んだあの子に比べたならば、村人達の死は優しい死だったはずだ。  全てを破壊し、潰して、その肉は蟲達が喰らった。  最後に殺したのは「宮様」だった。  宮様の正体はもうわかっていた。  入れ物としても、スペアとしても使われないですんだ、じゅすな様のスペア、女王の入れ物だった女の子だ。  新しいじゅすな様と新しい女の子を仕入れた村長は、仕入れた女の子をスペアにすることを躊躇したのだ。  スペアを殺したばかりに悲劇が起きたのだから。  結果、その女の子はじゅすな様と呼ばれる少年達が体内に蟲をいられれ、犯され、殺されて蟲を取り出されていくのを、  卵を入れるスペアにされて殺される女の子達のことも見届けたのだ。  使わなかったスペアのことを「宮様」と村人達は呼んで来たのだ。  そう、その女の子はその後、新しいじゅす様と新しい女の子の世話と教育を引き受けたのだ。   宮様として。    同じ立場でありながら、あの子を殺した宮様を占い師は許すつもりはなかった。  「私が憎いかい?」  宮様は晴れやかに笑いながら占い師に言った。  占い師は笑った。  ナメクジの姿のまま。  触手で宮様は貫いている。  宮様の膣から腹を突き破り、触手は蠢いていた。  宮様の白い腹から血と内臓が零れる。  宮様は老いてもまだ艶やかな身体を痙攣させた。  蟲達が宮様を待っている。   死ぬのを。  食べるために。  「ああ、いい子達・・・」  宮様は蟲達をみて微笑んだ、  その気持ちは分かる。  蟲は占い師にもあの子にとってももう一人の自分だったから。  「教えてあげる。この子達は死ぬ者に優しい幻覚を見せてくれるの。優しいから。死を恐れないように。だから私はお兄ちゃんに会えるの。・・・残された方が辛いのはあなたも知ってるでしよ」  宮様の言葉に占い師は頷く。  「これだけの人を喰らったなら・・・この子達はあなたのあの子さえ呼び戻せるかもしれないわ」  宮様はそう言った。  その言葉に占い師の心が跳ねた。    占い師のその表情をみて宮様は笑った。  優しい笑顔で。    「私が死ななかったのは・・・死んだからってお兄ちゃんに会えるとは限らないからよ。この子達の側にいたらね・・・この子達が見せてくれるの。儀式の時とかにね。お兄ちゃんを。だから離れられなかったの。あなたも会えるわ。蟲達は過去からあなたの記憶から、あの子を呼び戻してくれるから・・・それは沢山の命とひきかえだとしてもね」  宮様は教えてくれた。  だから、宮様が先々代のじゅすな様を蟲達に見せられている間、そっとしておいた。  宮様の顔、言葉、涙からそれが本当だと知った。  蟲達はあの子を呼び戻せるのだ。  あの子を。  それは歓喜でしかなかった。  迷いなどなかった。  沢山の命など関係なかった。  人間に奪われたものを人間を使って取り返すだけだ。  宮様死体を蟲達が喰らいつくした後、占い師は人の姿をとった。  あの子の前に立つためには、ナメクジの姿では駄目だったから。  占い師は蟲達に願った。  女王、いや、女王に成り代わった変異した蟲と一体化したモノとして。    あの子をと。  あの子を。  あの子。  あの。  子。  蟲達はうごめき、塊りあい・・・淡く光り、溶け合った。 そして、そこにはあの子が立っていた。  間違いないあの子が。    「お兄ちゃん」   その声も発音も、眼差しも、ふるえる睫毛も。  何もかもが、記憶にあるものと何一つかわらない、いや、記憶から作られたのだから当然か・・・  あの子だった。  素裸のまま泣いている。  占い師は駆け寄り、自分も裸のまま抱きしめた。  手放すものか。  もう二度と。    「お兄ちゃん」   あの子が笑う。  まるで何もなかったかのように。     「離さない。離さない!!」  占い師は叫んだ。    もう誰にもうばわせない。  何をしてでも、どうやってでも守る。  そう・・・どうやってでも。  占い師にとって、この抱きしめている暖かさだけが全てだった。  これだけのために、世界の全ての人間を捧げても良かった。  何故なら。  自分達は捧げられたから。  今度は人間達が自分達に捧げる番だった。

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