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第39話終わりへ
僕は白の腕からとび降りようとして、白に掴まれる。
邪魔するな。
僕のや。
僕のんに、手ぇだすやつは殺すんや!!
その言葉の代わりに喉からは咆哮しか出てこない。
グシャア!!
グシャア!!
「この高さからアレが見えるのか。お前は鷹か何かか。・・・・本当に獣だな。大人しくしてろ、この高さだと死ぬぞ」
白が呆れたように言ったが、僕は狂ったように叫び続ける。
「すぐ降りるから、ちょっとでいいからおとなしくしろ!!」
白が困ったように言う。
僕の渾身の力で逃げようとする力を難なく白はその腕だけて封じ込めてくるのが苛立たしかった。
ギシャア
僕さ白に向かって歯を剥く。
「どっちが化け物なのかわからんな・・・ったく。あの子もよりよってなんでこんな獣を・・・でも、仕方ない。それでも、あの子が望んだことだしな」
白はため息をつくと、もう落下する勢いで地面に向けて降りていった。
僕は怒りに狂っていたおかけて、地面に叩きつけられるような視界に怯えないですんだ。
僕らと共に、金色に輝く記憶蜂達も地上に向かって降りてきた。
もっとも僕は何もかも忘れて嫉妬に狂っていた。
ナメクジに襲いかかることしか考えていなかった。
アイツに入っている触手をぶった斬ることしか。
だから、地上におりて、白の腕から解放された瞬間、ナメクジに向かって飛びかかりながら、気付いた。
アレ?
アイツ、服着てるやん?
あれ?
アイツ、触手突っ込まれてないやん?
でももう面倒くさかったから。
思い切り飛び上がり、巨大なナメクジに張り付いている占い師の顔。
その眼球にむかって拳を振り下ろした。
占い師の目は僕ではなく、空からむかってくる記憶蜂達を映していた。
その目に拳をめり込ませたのだった。
グシャア
叫ぶ僕。
グギャア
グギャア
悲鳴を上げる占い師。
僕らの声は混じりあった。
「記憶蜂の攻撃フェロモンは!!」
アイツの怒鳴り声に、正気に帰る。
僕はビニールに包んでいた僕のパーカーを占い師の顔に向かって投げつけた。
そして、慌ててアイツの元へと向かう。
服着てる。
無事や。
でも確かに。
アイツは触手に貫かれて。
身代わり。
紙蟲が思い当たる。
僕はアイツを抱きしめる。
身代わりがいなければ、本物のアイツがそうなっていたと考えたなら怖くて仕方なかった。
アイツの中に僕以外がいるなんて。
僕がはあかん。
あかん。
絶対にあかん。
抱きしめながらゾっとした。
僕は僕が怖いと思った。
だって、アイツの身の安全より何より、アイツの身体を僕以外が触れたり入ったりすることを僕が恐れていたからや。
渡したくない。
誰にも触らせなくない。
【それくらいなら殺したい】
そんな自分に恐怖を感じた。
「なんでパンイチなん、お前」
アイツが呆れたように言う。
僕の腕の中で。
僕の腕の中にいることに安心する。
自分がパンツ一枚と靴と靴下だけであることを思い出したが、まあ、いい。
アイツを抱きしめていることだけが全て。
「それに記憶蜂のあの数・・・まぁええ!!」
アイツはポケットから出した小さな瓶から、僅かな液体を自分と僕に振りかけた。
僕の被せたパーカーを腹立たしげに占い師が触手で破いていた。
叫び声を上げるその左目は、潰れている。
僕が潰した。
この拳は眼球を潰す感触をちゃんと感じたのだ。
パーカーに染み込だ匂いを占い師は纏っただろう。
そして、もうすくそこに、記憶蜂達はいた。
黄金の身体。
黒いガラスのような目を光らせ。
ブンブン ブンブン ブンブン
ブンブン ブンブン ブンブン
羽音は大音量で鳴り響く。
僕はアイツを抱きしめて立ち尽くす。
アイツも僕を抱きしめる。
これが上手くいく、そう信じるしかないのだ。
うごらしゃ
うごらしゃ
占い師が叫んでいる。
声が人間のものではない、
巨大なナメクジに張り付いた人間の顔が出す声は軋んだ歯車の音のよう。
化け物になったのだ。
完全な化け物になったのだとわかる。
もう、人間の姿に戻ることはないんやろ。
目から血を流した人間の顔の口ではなく、地面に接するところにあるナメクジの口から、触手が僕とアイツに向かって、何百もの槍のように飛んできた。
僕はアイツを抱きしめる。
僕の肉など、簡単にあの触手は貫いて、アイツも貫くとわかっているのに。
僕のや。
どんなに苦しめてしまっても、どんなに泣かせてしまっても、僕のや
離さへん。
抱きしめて目を閉じた。
コイツを抱いて死ねるんやったら本望や、とも思った。
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