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第5話

   *  俺自身はだいぶ快復しているつもりだけど、「予期しないエラー」を時々起こす。眠れなかったり、うなされたりは、いまだに度々あるけれど、起きているときは心的なものだから、「ああ、これはくるな」ということがだいぶ自覚できるようになった。ダメと思う場所や嫌な雰囲気の人には近づかないとか、そんなことくらいならできるけど、新しい場所や道ですれ違う人を意識しないようにするのはまだ難しいし、何気なく入ってくる他所の人の会話や、テレビも避けられない。  でも、過呼吸やパニックになりそうなことがあっても、自分で対処できるようにもなってきた。無理はしない。独りでダメなときもあるから。そんなときは京さんを呼ぶ。迷惑かけて悪いなとか、思うけど、収まらなくて事故でも遭ったらもっと迷惑になるのだから。遠慮はしない、気にしないようにすることにした。  胃のあたりを服の上から摘まむと、たまごっちくらいのサイズの子供携帯がある。寝ているとき以外は常に首からぶら下げることにした。この携帯にはボタンが3つついているが、どれを押しても京さんに繋がる。「ダメだ」と思った瞬間に握るだけでいいと言われた。どれかしら押せていれば電話が掛かる。話せない状態でもGPS機能で位置確認もできるから、京さんはすぐに駆けつけることができる。京さんがすぐ来ると思えば、俺の支えになる。  安心材料が多いほど、不安は解消しやすい。引っ張ればサイレンも鳴るまさに子供用スマホだけど、これが俺の新たなお守り。ホントのお守り。  遮光カーテンは結構分厚くて頑丈なつくりなので、アイロンをかけるのも体力を使う。全体重をかけるようにして押さないと全然折り目がつかないし、曲がってしまう。カーテンレールの取り付けをしていたはずの京さんが、声を殺して笑っていた。  口をへの字にして席を譲るように立ち上がると、京さんが肩をすくめてアイロン台の前に座る。少し頑張った部分を台から滑らせて、 「こっち引っ張ってて」  と言われる。反対側を台の上で京さんが左手で押さえている。強く引いてもびくともしない。アイロンは滑らかに一滑りすると、綺麗に折り目がついていた。まち針を刺している間に京さんが折り目を整えスプレーをかける。共同作業は楽しい。  一通りアイロンがけが終わったので、流しまつり縫いで縫っていく。裁縫は祖母のそばでみて覚えた。バンドの衣装もなんとなく作っていたし。均一に進めればいいだけだから単純作業だ。ちょっと進んだところで京さんが、表を返して驚く。 「へぇ、うまいね」 「一個くらい、一人でできることもあるよ」  何から何まで、手を借りている気がしてボソっと呟く。 「一個じゃないよ」  言われて目を見ると、京さんは微笑んで立ち上がった。ホントに、数えるほどしかいいところはないのに、京さんといるだけで自信がつく。  嬉しい。

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