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第10話
*
8……9……10……。
京さんと知り合わなければ、俺はこんな時、他人に頼るなんてこともしなかったんじゃないかと思う。自分の知る限り、できる範囲の行動で満足し……満足はしなくても、それしかできなかった、最善は尽くしたと納得し……納得ではなく、そう宥めすかして、やり過ごすんだと思う。重い気持ちになっても、別の場所へ逃げればよいと、逃げることができればいいんだと思っていた。
14……15……16……。
いないのかな? 朝5時前だっていうのに、どこか出かけて……。思った瞬間に繋がった。
『うるせぇ。クソどあぼうが。何時だと思ってんだ』
呻くように低い声が罵倒してくる。
「先生! 助けて」
『……むぅ?』
耳元で聞こえていた荒い息が遠のいた。スマホ画面でも見直したのだろうか。それからモゾモゾと動く様子があった。布団から出ただろうか? 起きて起きて、急用です。
『三枝じゃねぇのか?』
今度は、声がさっきよりはっきりと聞こえた。
「向野です、先生。朝早くにごめんなさい。京さんがインフルエンザみたいで助けてほしくて電話しました」
『ああ、向野、向野な、元気かぁ?』
回想するように名前を繰り返す。どーでもいーよ。つか、それどころじゃないし。
「先生。話聞いてました?」
『ああ?』
あ、いけない、今この人を怒らせちゃいけない。
「ご挨拶が遅れてすみませんお蔭様で健勝に過ごしており……」
『愛想ないなー』
棒読みがバレた。ああ、メンドクセーなぁ。愛想って何ぃぃぃぃ?
怒りが漏れないように、スマホ画面をちょっと離して深呼吸を3回繰り返す。ゆっくり息を吐きながら、力なく声を出す。
「清原先生。ボクが頼れるのはあなたしかいないのに、どうしてイジメるの?」
『……』
無言。うーん、違った違った。間違った。今すぐショベルカーを4台借りてきて、効率よく4方向から穴掘ってください。最速で深く深く掘って埋めてください。墓石はいらないので、鉄板で地面を塞いでください。
『……ぉおーい。聞いてるかー?』
見えない流れ星にお願いしてたら声が聞こえたので、スマホを耳元に戻す。
『すまん。悪ふざけしすぎた』
清原が謝ってくるので、とりあえず鼻で息を吸うともう一度、『すまん』といって、京さんの状態を聞いてきた。ついでに冷蔵庫の中身と足りないものはないかと聞いてくる。
「来てくれるの?」
『来てほしいから電話したんだろーが?』
ガラ悪いけど、基本いい人だ。着くまで兎に角温かくして寝かせておくこと。起きたら、咳をすると喉の炎症に繋がるからさせないように喉を潤し、温めること。とか、いろいろ言ってくれた。
「ありがと。清原先生、いい人だね」
『てやんでい』
電話が切れた。『てやんでい』って何?
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