10 / 30

第10話

   *  8……9……10……。  京さんと知り合わなければ、俺はこんな時、他人に頼るなんてこともしなかったんじゃないかと思う。自分の知る限り、できる範囲の行動で満足し……満足はしなくても、それしかできなかった、最善は尽くしたと納得し……納得ではなく、そう宥めすかして、やり過ごすんだと思う。重い気持ちになっても、別の場所へ逃げればよいと、逃げることができればいいんだと思っていた。  14……15……16……。  いないのかな? 朝5時前だっていうのに、どこか出かけて……。思った瞬間に繋がった。 『うるせぇ。クソどあぼうが。何時だと思ってんだ』  呻くように低い声が罵倒してくる。 「先生! 助けて」 『……むぅ?』  耳元で聞こえていた荒い息が遠のいた。スマホ画面でも見直したのだろうか。それからモゾモゾと動く様子があった。布団から出ただろうか? 起きて起きて、急用です。 『三枝じゃねぇのか?』  今度は、声がさっきよりはっきりと聞こえた。 「向野です、先生。朝早くにごめんなさい。京さんがインフルエンザみたいで助けてほしくて電話しました」 『ああ、向野、向野な、元気かぁ?』  回想するように名前を繰り返す。どーでもいーよ。つか、それどころじゃないし。 「先生。話聞いてました?」 『ああ?』  あ、いけない、今この人を怒らせちゃいけない。 「ご挨拶が遅れてすみませんお蔭様で健勝に過ごしており……」 『愛想ないなー』  棒読みがバレた。ああ、メンドクセーなぁ。愛想って何ぃぃぃぃ?  怒りが漏れないように、スマホ画面をちょっと離して深呼吸を3回繰り返す。ゆっくり息を吐きながら、力なく声を出す。 「清原先生。ボクが頼れるのはあなたしかいないのに、どうしてイジメるの?」 『……』  無言。うーん、違った違った。間違った。今すぐショベルカーを4台借りてきて、効率よく4方向から穴掘ってください。最速で深く深く掘って埋めてください。墓石はいらないので、鉄板で地面を塞いでください。 『……ぉおーい。聞いてるかー?』  見えない流れ星にお願いしてたら声が聞こえたので、スマホを耳元に戻す。 『すまん。悪ふざけしすぎた』  清原が謝ってくるので、とりあえず鼻で息を吸うともう一度、『すまん』といって、京さんの状態を聞いてきた。ついでに冷蔵庫の中身と足りないものはないかと聞いてくる。 「来てくれるの?」 『来てほしいから電話したんだろーが?』  ガラ悪いけど、基本いい人だ。着くまで兎に角温かくして寝かせておくこと。起きたら、咳をすると喉の炎症に繋がるからさせないように喉を潤し、温めること。とか、いろいろ言ってくれた。 「ありがと。清原先生、いい人だね」 『てやんでい』  電話が切れた。『てやんでい』って何?  

ともだちにシェアしよう!