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第18話

「は?」で、固まっているうちに、ぐいっと身体が引っ張られた。いつもの京さんの力強さではなく、ちょっと動いては止まる。ちょっと引っ張って一歩下がり、またちょっと引っ張る。 繰り返して枕元までズイズイと移動しているようだけど――。  なんだなんだ? 考えろ、俺。「こねこちゃん」って言われた気がするが気のせいか? 否、確かにそう聞いたよ、ってことはあれか? 仔猫のことか? 仔猫、猫の子、生まれたての手のひらサイズの猫のこと? いやいやいや、仔猫をこんなずっしりした感じで枕元まで引いていくってことはないから、違う意味の「こねこちゃん」デスカ? 違う意味ってなんですか? つか、京さんってはそういうイタ系の世界も逝ける人? ってか、その場合、誰だと思って言っているの? 俺じゃないよね、え? 俺じゃなかったら誰、やめてぇぇぇ、じゃ、俺? 嘘ぉぅ。 「……熱っ」  毛布の摩擦熱で膝が熱くなった。パジャマがめくれてるねぇ。思わず声を出したら、動きが止まった。じっとしていると首筋にまたズシリと重みを感じる。京さんが顔を寄せてきたというより埋めた、のだろう。ガウン越しに輪郭をなぞるように動き、耳元に記憶にある感触が寄せられる。ドキドキする。唇だよ、これ。 「こねこちゃん……」  うひゃー、また言ったよー! って、心の絶叫を抑えて、小さく応える。 「み……ミャー」  アレだ。インフルエンザのせいだね。もしくは薬のせいだね。そう思うことにしよう。  すぅーと息をすって大きく吐く音が聞こえたかと思うと、京さんの手がいきなり背中をこすった。もう片方の手も腕をこする。え? なんだ? 痛いぞ? いつもの愛撫とは違う、ん、これこぶしでこすってる感じだよね、マジ、痛い痛い。京さん、こねこちゃんになにしてんの?  抵抗しようと思ったけど、腹のあたりで組んだ腕が京さんの重みで動かせない。摩擦力で火が出そう。 「きょ……」  声を出そうとしたら、ゴリゴリと動いていた手が急に静止した。全身にズシリとまた重みを感じる。謎過ぎて、固まったまま次の行動を待っていたけれど……まさか寝た? えー。重いよー重いよー。猫じゃなくてもつぶれるよー。  ジタバタしてみたけれど、完全に身体が京さんの下敷きになっている。手で押しのけようにもどうあがいても動かない。右足がかろうじて動いた。  足を延ばすとベッドの縁に届いた。かかとに力を入れて、下敷きになった身体をてこの原理でひっぱりだそうとする。腰が動いた。右手がやっと動いた。はぁー、抜け出せる。京さんの肩に手をかけようとしたとき、身体がグルンと回転した。 「みゃ……?」  身体が浮いたと思った瞬間に額が固いものに当たった。京さんの胸板痛い。  これは京さんが俺を抱えたまま寝返ったということかな? 半身がのっかった状態。腰にあった京さんの腕が俺の肩を抱く。次々続くハプニングに小さく息をついた。 「あったまった?」 「……!」  そうしていつもするように髪を撫でる。 「よかった。生きてるね。きっと、弟もかわいがってくれると思うよ」 「……」  ああ、そうか。  これは子供のころの京さんか。仔猫を拾ったんだね。  冷たい身体をさっきは温めていたんだね。  なんか、急激に心の内側からジン……と温かくなってくる。  せっかく温まった背中がひんやりしてきたので、手探りで跳ねのけた布団をひっぱりあげると、京さんが意図を汲んだように引き寄せて頭まですっぽりかぶせてくれる。頭を撫でている手が止まってぽとりと落ちる。上下する京さんの胸の上で頬を寄せて、京さんの呼吸を数える。数えるとその人の呼吸に、自分の呼吸も合うから不思議だよね。      

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