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第19話
冬の夜と朝の間には仕切りがある。今、朝になりました! 的な、匂いなのか空気なのか温度なのか気圧なのかわからないけど、なにかが急に切り替わる瞬間に身体が気づく。夏や春には気づかない。ぼんやりと夜から朝になるのに、冬だけわかる。
起き上がって音を立てないように寝室を後にする。リビングのカーテンをめくってみても、まだ外は蒼の底。息を吐くと白く窓が曇った。俺の方が体温が高いことがちょっと誇らしい。もうすぐ朝日がでて空が白くなるよ。壮大すぎて俺はそんなの見ないけど。
お湯を沸かしてハーブティを煎れる。冷え性に効くなんとかとバランスを整えるなんとかと血行促進のなんとかと、10種類以上のハーブをお悩みや好みの味でブレンドしてくれるお茶やさんに、こないだ京さんと立ち寄ったときに作ってもらった。俺みたいに不定愁訴のデパートみたいなやつには、何だって効くと思うけどね。黒豆とごぼうの味が香ばしくて美味しいからいい。
蒸らしている間に、クローゼットからタオルケットと替えのシーツを引っ張り出しておく。京さんが起きたら取り替えて、洗濯しよう。今日は晴れるかな?
テレビをつけて音を消す。天気予報と癒しの動画ばかり流しているチャンネルに合わせる。吹雪の中を錆びたローカル電車が走っている。海沿いで横殴りの雪と波に画面全体が白くなる。こんなところに住んでいる人は大変だな。あ、流氷、北海道か。行ったことない。京さんはこういうとこ行きたいと思うのかなー。俺は絶対嫌だけど。東京の天気は晴れ。8℃。洗濯物凍っちゃうかな……って思ったのは、流氷を見ていたせいだ。8℃じゃ凍らない、温かい方だ。笑っちゃう、俺単純。
出かけないから運動量ゼロってわけじゃないけど、通勤もしないとなるとマジで筋力なくなりそうだから、下のジムでたまに出入りしているヨガの先生のインスタを教えてもらった。起き抜けにまったりゆっくりできるやつ初心者向けのヨガとかないかなって。最初は身体固くて全然できなかったけど、近頃ちゃんとしたポーズができるようになってきたから、ちょっと楽しい。京さんは朝走りに行っちゃうので、その間にこっそりやっている。こんなの、見られたら恥ずかしいじゃん。今起きてこないように祈りながらやってたら、いつもより心拍数あがって早めに終わったよ。
喧噪とはいうけど、歩きながらわめいている人がいるわけではないし、車がクラクション鳴らしながら走っているわけでもないけど、なんとなく外を人が行きかっている時間なんだなってわかる。朝の喧噪。人が活動している時間になった。朝ごはんを作ろう。
さすがに京さんも腹ペコだと思うし、美味しいもの作りたいね。
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