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第22話

 テーブルの長い方にいつもは座るけど、細い方に座ると王様の食卓みたいだね。距離をとって感染防止対策だってさ。王様と一緒に食事できるなら、俺はなんでもいいよ。 「昨日ね、夢をみたんだよ」  頃合いを図って水を向けようとしたことを、京さんから切り出された。里芋を口にしたところだったから返事に遅れた。 「どんな?」 「海の底で寝ている夢」  ……あれ、違うな。猫拾って弟と名前つけたりしなかったの? 「海の底? 寒くなかった?」 「寒かった。でも天井がきれいでね。いつまでも眺めていたい気持ちになった」  そうかぁ。今朝の流氷とか、きれいだなって思ったら京さんは凍死するまで眺めているかもしれないから、寒いところはいかない方がいいな。猫を拾った夢は覚えてないんだな。 「でもね、やっぱり寒くてね」  うーん、布団が足りなかったのかなー。 「移動しようと思ったら、右半身にズシって」 「ん?」 「右半身にズシって」  京さんが右肩から腰まで、つまり昨日俺が乗ってた範囲を左手でふわふわと示す。 「……なにか乗ってたの?」 「そう。黒い大きな物体が」 「黒くて、大きい?」 「そう」  ちょい! 俺は重くないし大きくない。京さん、夢とはいえ重量感おかしいって。 「……クジラとか?」 「いや。あれはシャチだった」 「……シャチ?」  ショックなんですけどー。シャチってあれですよね、海の殺し屋とか海のギャングとか呼ばれている白くてかわいいホッキョクグマも自分よりデカいクジラさえも襲うていう敵なしの肉食獣ですよね? 「シャチが添い寝?」 「うん」  京さんは口元を抑えて笑いをこらえる。え? 面白かったの? 「僕を下敷きにしているのを気づかずに寝てるみたいで。起こしちゃまずいからそのままだったんだけど」  京さんのリスクヘッジは時々どうかしてる。相槌も打たずにお椀をすする。 「右半身だけしびれて。でもあったかくなったからよかったなって」 「あったかかったらいいって、それは浮気だよ。京さん」 「え?」  怒った顔を見られないように立ち上がっておかわりをよそりにいく。 「僕もちょうだい」  と、京さんが呑気にいう。もう。もう! もぉおおお! 「ふくれっ面もかわいいよ」  ……うるさいよ。京さんのお椀を受け取りながら、言葉を返せずに口を突き出す。  変な夢みて楽しかったなら別にいいけどさ。動物とはいえ、俺の知らないところで俺以外のやつと仲良くしないでほしいな。

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