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第3話
足が重い。
キラキラとした朝の陽ざしとは相反し、周囲が声をかけるのもためらうほどの暗い顔で下を向いたまま、学校への道をこれ以上遅くはできないのではないかと思う位のスピードで歩いていた。
バンっと背中をいやというほど叩かれ、前かがみになっていた体がバランスを崩し危うく転びそうになる。
「うわっ!」
何とか体を立て直してくるっと後ろを振り向くと、そこにはにやにやと笑う玉井が立っていた。
「何をするんだ⁈」
大声を出して玉井に対峙した。
しかし、玉井の方は僕のそんな大声や睨んだ目つきを気にする事もなく、おはようというとへらへらと笑いながら学校へ向かって行った。
まったく、あいつは一体何なんだ⁈
それまでの暗い気持ちと入れ替わるように、玉井への怒りで足取りもずんずんと早くなる。
気が付くといつの間にか学校の玄関に到着していた。
はっとして、昨日の事を思い出し、再び気持ちが暗くなる。
「おはよう、福木君。」
急に後ろから声をかけられ、あぁ、おはようと返しながらふっと顔を上げたそこに、今一番会いたくて、今一番会いたくない人が立っていた。
「や…山野君!」
「うん、おはよう。」
昨日の事を考えたらこんな風に挨拶をしてもらえるような状況ではないのに、何とか笑顔を見せようとしてくれるその健気な姿に抱きしめたくなる。
…僕は一体、何を考えているんだ⁈
昨日の事があったばかりなのに…。
またも気持ちが暗くなってきた。
「福木君…学校に入らないの?」
考え込んだまま、じっとしている僕の隣で山野が立ち止まって待ってくれていた。
「あ、あぁ。入るよ、うん。」
一歩踏み出すと、山野も歩き出した、
重苦しい沈黙が続いたままで歩いていると、下駄箱が近付いてくる。
クラスの下駄箱が離れているため、そろそろ別れなければならない。
まさか朝から会うなんて思っていなかったので、心の準備が出来ていない。
しかし、それでも言わなければいけない事がある。
足を止めると、山野もそれに気が付いて2,3歩先で足を止めた。
「や、山野君。昨日はごめん。本当にごめん!!」
周りの生徒たちが何事かという感じで僕たちの事をちらちらと見ていく。
それに気が付いた山野が僕の腕を取ると、下駄箱の扉の陰に走りこんだ。
「福木君、いいから。もう大丈夫だから、ね。」
そう言って僕に山野が笑顔を見せてくれる。
「本当に?」
おずおずと山野の顔を見上げる。
「福木君が悪いんじゃないんだ、そうじゃないんだ。
俺の方が本当は…。」
そう言ってぐっと口を一文字にして山野が俯いた。
「山野君、どういう事?」
山野がガバっと顔を上げると、何でもないんだと首を振った。
その時予鈴が鳴り、遅刻しそうな生徒達が我先にと駆け込んでくる。
俺達も行かないとと山野が走りだそうとするのを腕を掴んで止めた。
「今日の帰り!」
焦ってしまい、言葉が続かない。
それでも山野が放課後にここで!と答えてくれた。
掴んでいた腕を離したくないという気持ちを振り切るようにして手を開くと、山野があとでというように手をあげて駆けていくのを姿が見えなくなるまで見送り、僕も下駄箱に向かって走り出した。
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